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しおりを挟む「は?なんなの。散々気を持たせといて。最低」
いきなり態度を豹変させた咲希ちゃんに、ゴミでも見るような視線で言われた。
このまま付き合ったら絶対メンドイ展開になるのは目に見えていたので、そうなる前にさっさと手を打ったわけだ。
実は他に気になる子がいる、とか適当な理由で。
「もういい。別にこっちも対して好きじゃなかったし」
あっさり捨て台詞を吐いて、咲希ちゃんはさっさと踵を帰していく。
若干グサリときたが、まあ人のことは言えないしそんなもんだよな。
きっとこの後しばらくはあの女子グループに冷やかな目で見られるんだろうよ。
しかし最初はあんなに可愛かったのに、咲希ちゃんの別れ際の潔さといったら真島も少しは見習ったほうがいい。
ヒビヤンにも授業中言われたが、俺ってマジで女運ないんだろうか。
「おい、そこのお前」
なんてことを若干気落ちしながら考えていたら、突然後ろから声を掛けられた。
振り向けばこれまたエライ美人さんがそこに立っていた。
人形のような青い瞳に、目にも鮮やかな金髪、白い肌。
どことなくハッキリとした顔の作りから言って、恐らくハーフってやつか。
前言撤回。
やっぱり俺の女運は悪くない。
「えーと、俺かな?」
とりあえず知り合いではない。
だが周りに人もいないし、何よりその宝石のような目はしっかりと俺を捉えている。
「二度も呼ばせんな。お前、高瀬梅乃だろ」
美人とはいえ、なんか失礼な奴だな。
そう思って、ふと気づく。
あれ、こいつ制服スカートじゃない。
というか男物の制服を着ている。
え、ひょっとしてコイツ男?
「違います。俺は日比谷です」
そう言って俺はあっさりと踵を返した。
たとえ美人だろうと男に興味はない。
それにあの雰囲気、どう考えても楽しい話な気がしない。
「ちょ…ちょっと待てよっ。お前絶対高瀬だろっ」
声を荒げながら今度は腕を掴まれた。
なんだこいつ。
不審者極まりないんだが。
「あのー、なんなんですか。さっきから」
「いいからちょっと来い。お前に話がある」
言うだけ言って人の了承も得ずに、目の前の女男は俺をぐいぐいとどこかへ連れていく。
その力強さと骨ばった手の感触に、やはり男かと再認識をする。
連れてこられた先は人気のない階段の踊り場で、着くやいなや壁に押し付けられた。
壁ドンだ。まさか男にされる日がくるとは。
相手物凄い剣幕だが。
「お前、奏志に一体何したんだ。あんな綺麗な奴をあそこまでボロボロにさせて、原因は絶対お前だろ」
「…はあ?」
いきなり覚えのない事を捲し立てられた。
ポカンとしていると、俺の表情に勝手に苛立ったのか一つ舌打ちをされる。
「何も知りませんとは言わせないからな。俺はそもそもお前みたいな品の無さそうな奴、大反対だったんだ。けど奏志が幸せそうだから仕方ないと思ってた。でもあんな姿を見せられたら、さすがにもう黙ってはおけない」
「えーと、どう考えても人違いしてますよね?」
「テメエ馬鹿にしてんのか?こっちは散々お前の事を聞かされてんだよ。聞きたくもないのに、毎日毎日…」
そう言ったその瞳が、一瞬悲しげに揺らぐ。
何こいつ。
今自分の言葉に自分でダメージ食らってたよな?
「…っ俺はお前のことはよく知らない。だから、お前がアイツを悲しませた正当な理由があるというのなら言ってみろ。まあ言ったところで俺はお前を――」
なんか勝手に盛り上がってるが、とりあえず人違いだと信じて貰う他ない。
全く今日は災難すぎる。
俺は一つため息を吐くと、目の前の怒りに揺れる青い瞳を見据えた。
「つか『ソウシ』って誰だよ。人違いもいい加減にしろ」
若干逆ギレしながら言ったら、ハッとしたように目の前の女男は押し黙る。
ようやく分かってくれたか。
だが次に向けられたのは謝罪の言葉でも和解の笑顔でもなく、ただ愕然と人を軽蔑するような視線だった。
「…そうか。お前が適当で最低なクソ野郎だということが、よく分かった」
まさかこの短時間で、二人の人間に最低と言われるとは思わなかった。
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