ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

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 4月。
 アイツと出会ったのは始業式だった。
 始業式だろうが遅刻は許さんと、桜舞い散る朝の校門前で仁王立ちで門番をしていた。

 人の顔を見ると焦ったように挨拶する生徒や、あからさまに嫌な顔をする生徒。
 慌てたように服装を正す生徒達の流れを鋭い視線で捉える。
 人の顔見て直すくらいなら最初からやるな。
 
 ぞろぞろと生徒溢れる登校時間が過ぎていき、やがてその姿も見えなくなった頃、俺は門を閉め始めた。
 が、そこに勢いよく走り抜けてくる一人の男子生徒が見えた。

 ちらりと腕時計を見る。
 時間ちょうどだ。

 残念だが一秒だろうと遅れた者に情けをかけたりはしない。
 なぜならそれが社会のルールであり、少しなら許されるという甘えた根性が今からついては困る。
 そんなわけで気にせずガラガラと閉めてやったが、そいつはあろうことかジャンプで門を飛び越えてきた。

「あー!せんせー!危ないっす!」
「…は?」

 見上げた先で飛び降りてくる姿が見えて、避ける暇などなかった。
 グキッと嫌な音が腰から聞こえた後、一体何十年ぶりだろうというレベルで尻もちをつく。

「――っ」

 今年30歳を迎えた身体に、鈍い痛みが走る。
 呻きながら人の上に伸し掛かる生徒を見上げると、視界がぼやけていた。
 どうやら眼鏡がすっ飛ばされたらしい。
 おまけにソイツが咥えていたジャムつき食パンが、ぽろりと口から俺の腹の上に落ちてきた。

 ベタッと赤く色付くシャツと、仄かな甘い香り。
 最悪だ。
 コイツ、もう絶対に許さん。

「おいお前、何年何組だ。名前を言え」

 いつもの威圧するような口調。
 今まで何百何千と言ってきた言葉だが、どんな生徒でもこの言葉の後には必ず不貞腐れた顔をする。
 そうして影でウザ眼鏡だなんだと、また噂される流れが出来上がるわけだ。

 だが俺に伸し掛かるソイツは、なぜかぽかんとした顔でまじまじと俺の顔を見つめていた。
 その数秒後、開きっぱなしの唇がありえない言葉を紡ぐ。


「――運命です。これ、絶対に運命ですよね」


 全く意味が分からん。


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