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----side七海『運命の人』
しおりを挟む今思えば、中学一年の夏から全ては始まった。
「翔太くん、おはよう」
「おはようございます。お兄さん今日お休みなんですか?」
「うん。会社お休みなんだ。翔太くんこそ今日部活は?」
「俺も休みなんです。だから朝からゴミ出しに来たんですけど」
「そっか奇遇だね」
子供の頃から隣に住んでいた、イケメンのお兄さん。
いつも俺を見かけると話しかけてくれて、いい人だった。
「そういえば新作ゲーム買ったんだけど、時間あるならうちに遊びに来る?」
「え、いいんすか?暇なんで行きます」
「――うん。おいで」
そう言われて初めて遊びに行った先で、興奮したお兄さんにセクハラされてケツにバイブ突っ込まれそうになった。
あまりに驚いたので押さえつけて逆に突っ込んでやったら、ものすごく気持ちよさそうな顔して泣いた。
恐らくショタ好きだった隣のお兄さんは俺に如何わしいことをしようと思った犯罪者なんだろうが、その頃にはゲイだと自覚していたし隣のお兄さんがイケメンだったからまあいいかと初めてのセックスをした。
当初は俺に突っ込みたがっていた隣のお兄さんも、俺の行動で何か目覚めてしまったらしい。
中学生の性欲なんか猿みたいなもんで、そこから俺は飽き足らず好きなだけ毎日お兄さんをいじめて遊んだ。
お兄さんはいつの間にかいじめられるのが大好きなドMに成り下がっていたが、さすが人より長く生きているだけあって相当なテクニシャンだった。
そんなわけでお兄さんに色々と教えてもらって、中学三年になる頃には周りの友達が童貞卒業とか騒いでいる中、完全に別の道が開ききっていた。
俺はいつの間にかお兄さんが大好きになって運命の人だと思っていたけど、結局最後まで身体は手に入っても心は手に入らなかった。
俺と寝ながら彼女が別にいたらしく、結婚するとか言ってある日突然引っ越ししてしまった。
あんな身体になって女だけで満足できるのか謎だ。
それから女に振られたと泣きついてきた友人に手を出してみたり、女にモテてうざいと文句つけてきた不良にも手を出してみたり、その他色々あったけどみんな身体はハマってくれるが、心まで俺のものにはなってくれなかった。
「お前の運命の相手は俺じゃねーよ」
高校に入ってから見つけた元運命の人である先輩にも、卒業式にそう言われてしまった。
俺を好きだと言ってくれるのはいつだって女の子で、自分がこういう性癖じゃなければそれは遊びたい放題だったんじゃないかと思う。
だけど俺は遊びたいわけでも、ただ単にセックスがしたいわけでもない。いやしたいけど。結構したいけど。
でもちゃんと、心が欲しい。
たぶんゲイになったのは幼い頃家を出ていった母親の態度があまりに酷かったからで、きっと子供ながらに女が苦手になってしまったとかその辺の理由だと思う。
自分がそうだと気付いた時の衝撃はあったけど、イケメンお兄さんのお蔭や自分の元々の性格もあってそう深く考えることなくやってこれた。
運命の人、という言葉にもこだわりがあるわけじゃない。
ただ離れていった母親の最後の言葉が「あの人は運命の人じゃなかったの」で、母親のトラウマと共に印象深く記憶に残ってしまっただけだと思う。
だからといって今となれば別に親の事情なんてどうとも思わないし、悲観的な考えもなく毎日楽しく過ごしてるからそこに暗い感情があるとかはない。
「――お、おい。お前反省してないだろう」
辿り着いた生徒指導室で、扉を閉めてしっかり内鍵も閉めて、その後ろから先生を抱きしめる。
慌てたように逃れようとしたからその首筋に口付けて、耳朶に吸い付いた。
「……っ」
ビクリと身体が強張って、その肌が赤く染まっていく。
こういう事に全く慣れてないらしい素直な身体に、堪らなく愛しい気持ちが込み上げていく。
今までたくさん身体を重ねてきたしその度に人を好きになってきたけど、俺はいまだに一度も両思いになったことがない。
――だから、今度こそ。
人を射殺しそうな視線で睨んでくるこの人が、俺のことを好きになってくれるように。
厳しいけれどとても優しく真面目なこの人が、俺の運命の人になってくれるように。
だからまずは俺がいないと生きていけなくなるくらい、身体から落としていこうと思う。
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