1 / 1
俺の誕生日がいつかって?……ああ、そう言えば今日だった
しおりを挟む
「お疲れさーん」
雪のちらつく冬の夕方。辺りも暗くなり部活終了の時刻になってしまった。着替えを済ませて家路につこうと部室を出れば少し間の抜けた声が聞こえてくる。声が聞こえた方へ顔を向けると寒そうにマフラーへ顔をうずめている高橋先輩がひらひらと手を振っていた。
高橋先輩は俺の所属している野球部のマネージャー。裏表がなくサバサバしているので話しやすくて頼りになると野球部の部員たちからの評判もいい。そんな先輩はさっきまでグラウンドで顧問と話していたのか鼻の頭が少し赤くなっている。まるで赤鼻のトナカイみたいだ。
「お疲れさまです」
「今から帰りでしょ? 途中まで一緒に帰ろうよ」
やーっと先生の長い話も終わったし! とイタズラっぽく言った先輩はなんだか俺より幼く見える。実際は俺より1歳年上なんだけどね。
高橋先輩は俺と家の方向が同じということもあって時々こうやって一緒に帰ろうと誘ってくれることがある。最初のうちは恥ずかしくて断っていたんだけれど、それでも何度か誘われて……申し訳なさと俺が根負けしたような形で承諾し、たまに一緒に帰っている。最初は野球部の先輩にからかわれたりもしたけれど最近では見慣れたのか、はたまた飽きて興味がなくなったのか、誰も話題にはしなくなった。ああ、またか。といったような感じだ。
「いやーそれにしても寒いね。辻くん寒くない? 手袋やマフラーしてないじゃん」
「意外と平気ですよ」
「やだ、若いわね」
「年は1つしか違わないですよね?」
「この間、誕生日きたから今は私の方が2つ年上だもんねー!」
あっかんべーと小さな子どもみたいに舌を出した高橋先輩に思わず笑いがこぼれる。全然年上らしくないですね、なんて言ったら先輩も可笑しそうに笑っていた。部活のときはキリキリ動いていて第一印象は出来る先輩! って思っていたんだけど部活が終わった途端OFFモードになるらしく、普段は少しだらっとした感じだ。
まぁ……そのギャップもなんだかいいな、なんて思っているんだけど。要するに高橋先輩であればなんでもいいんだよね。俺って単純。
「ちなみに辻くんは誕生日いつなの?」
「俺の誕生日ですか? あぁ、そう言えば今日ですね」
「え、本当? 初耳なんですが」
「そりゃあ、初めて言いましたから」
「ちょっと! いきなりすぎて何もプレゼント用意してないよ!」
俺の誕生日が今日だと知った先輩。マジかー! なんて言いながらあたふたとポケットをあさっている。けれど何も見つからなかったらしくショボーンと肩を落としてしまった。事前に教えておけば何かくれたのかな?そう思うと勿体ないことしたかな。高橋先輩からのプレゼントちょっと欲しかった。何くれたんだろ?
別にプレゼントを貰おうなんて思ってもいないと告げるが先輩的には何故だかそうもいかないらしい。私の威厳がーとか、可愛い後輩のためにーとか、何か言いながら今度はカバンをあさり始めた。
「やばい。本当に何もない。飴の1つも出てこないだなんて」
「そんな気を使ってもらわなくて大丈夫ですから」
「んー……あ、そうだ! プレゼントはわ、た、し! とかどうかな!?」
「――え」
「なーんてね! うそうそ! 先輩がそこのコンビニでお菓子でも買ってあげようじゃないか!」
そう言って足早にコンビニに向かっていく高橋先輩の腕をがしっと掴む。何事かとこちらを振り向いた先輩の唇にそっと自分の唇を重ね、ちゅっというリップ音とともに唇をすぐ離した。少し名残惜しい気がしなくもない。
恥ずかしさから目を閉じてしまったけど開けておけばよかったかもなんて少し後悔。どんな顔していたのか見ればよかったかな。あぁでもそれはそれでなんか怖いな。嫌な顔されてたらとてもじゃないけど立ち直れないし。やっぱり閉じといてよかったかも。
「え? あ、え? 辻くん?」
「誕生日プレゼントありがとうございます。しっかり頂きました」
さも何もなかったかのように冷静な態度を装って少し意地悪く笑ってみる。本当はめちゃくちゃドキドキしているけど。心臓破裂しそうだけど。そんなのバレたら恥ずかしいじゃん。
事情がのみこめない高橋先輩はきょろきょろと辺りを見渡したり、高速で瞬きしたり、随分と挙動不審だ。街灯の光で見える先輩の顔がうっすらと赤いような気がするのは寒さのせいなのか、それとも俺のせいなのか。はたまた両方か。
嫌われたかも、なんて少しネガティブ思考になりかけていると……
「ぷぷぷれいぼーいだね!」
「プレイボーイ……あはは!」
「何!? 何で笑うの!?」
「いやぁ……やっぱ高橋先輩のこと好きだなって思いまして」
「好き? ……私のことが好き!?」
「順番おかしくなっちゃいましたね。すみません」
「そ、それってもしかして……」
「告白と思ってもらってかまいませんよ?」
俺がそう言うとボフンとでも音が出そうなくらい一気に顔が赤くなった高橋先輩。耳まで真っ赤になって猿みたい。と思ったけどそこは心にしまっておこう。さすがに怒られそうだ。それに猿はさすがにないよな、リンゴに訂正しておこう。
こほんと咳払いが聞こえた。高橋先輩の方を見ると口を少し尖らせながら指をもじもじさせている。
「わ、わたしで良ければ付き合ってもあげてもいいよ」
「コンビニまで付き合うとかそういうオチじゃないですよね?」
「違うし! 人が真面目に話しているのに!」
「すいません。冗談ですから怒らないでくださいよ」
「出来の悪い後輩だからね! 私がついててあげないとダメかと思って!」
「ダメです。先輩がいないと俺ダメです。だからずっと俺についててくださいね」
「お、おうともよ」
もう一度キスをした。今度は長い長いキスを。
雪のちらつく冬の夕方。辺りも暗くなり部活終了の時刻になってしまった。着替えを済ませて家路につこうと部室を出れば少し間の抜けた声が聞こえてくる。声が聞こえた方へ顔を向けると寒そうにマフラーへ顔をうずめている高橋先輩がひらひらと手を振っていた。
高橋先輩は俺の所属している野球部のマネージャー。裏表がなくサバサバしているので話しやすくて頼りになると野球部の部員たちからの評判もいい。そんな先輩はさっきまでグラウンドで顧問と話していたのか鼻の頭が少し赤くなっている。まるで赤鼻のトナカイみたいだ。
「お疲れさまです」
「今から帰りでしょ? 途中まで一緒に帰ろうよ」
やーっと先生の長い話も終わったし! とイタズラっぽく言った先輩はなんだか俺より幼く見える。実際は俺より1歳年上なんだけどね。
高橋先輩は俺と家の方向が同じということもあって時々こうやって一緒に帰ろうと誘ってくれることがある。最初のうちは恥ずかしくて断っていたんだけれど、それでも何度か誘われて……申し訳なさと俺が根負けしたような形で承諾し、たまに一緒に帰っている。最初は野球部の先輩にからかわれたりもしたけれど最近では見慣れたのか、はたまた飽きて興味がなくなったのか、誰も話題にはしなくなった。ああ、またか。といったような感じだ。
「いやーそれにしても寒いね。辻くん寒くない? 手袋やマフラーしてないじゃん」
「意外と平気ですよ」
「やだ、若いわね」
「年は1つしか違わないですよね?」
「この間、誕生日きたから今は私の方が2つ年上だもんねー!」
あっかんべーと小さな子どもみたいに舌を出した高橋先輩に思わず笑いがこぼれる。全然年上らしくないですね、なんて言ったら先輩も可笑しそうに笑っていた。部活のときはキリキリ動いていて第一印象は出来る先輩! って思っていたんだけど部活が終わった途端OFFモードになるらしく、普段は少しだらっとした感じだ。
まぁ……そのギャップもなんだかいいな、なんて思っているんだけど。要するに高橋先輩であればなんでもいいんだよね。俺って単純。
「ちなみに辻くんは誕生日いつなの?」
「俺の誕生日ですか? あぁ、そう言えば今日ですね」
「え、本当? 初耳なんですが」
「そりゃあ、初めて言いましたから」
「ちょっと! いきなりすぎて何もプレゼント用意してないよ!」
俺の誕生日が今日だと知った先輩。マジかー! なんて言いながらあたふたとポケットをあさっている。けれど何も見つからなかったらしくショボーンと肩を落としてしまった。事前に教えておけば何かくれたのかな?そう思うと勿体ないことしたかな。高橋先輩からのプレゼントちょっと欲しかった。何くれたんだろ?
別にプレゼントを貰おうなんて思ってもいないと告げるが先輩的には何故だかそうもいかないらしい。私の威厳がーとか、可愛い後輩のためにーとか、何か言いながら今度はカバンをあさり始めた。
「やばい。本当に何もない。飴の1つも出てこないだなんて」
「そんな気を使ってもらわなくて大丈夫ですから」
「んー……あ、そうだ! プレゼントはわ、た、し! とかどうかな!?」
「――え」
「なーんてね! うそうそ! 先輩がそこのコンビニでお菓子でも買ってあげようじゃないか!」
そう言って足早にコンビニに向かっていく高橋先輩の腕をがしっと掴む。何事かとこちらを振り向いた先輩の唇にそっと自分の唇を重ね、ちゅっというリップ音とともに唇をすぐ離した。少し名残惜しい気がしなくもない。
恥ずかしさから目を閉じてしまったけど開けておけばよかったかもなんて少し後悔。どんな顔していたのか見ればよかったかな。あぁでもそれはそれでなんか怖いな。嫌な顔されてたらとてもじゃないけど立ち直れないし。やっぱり閉じといてよかったかも。
「え? あ、え? 辻くん?」
「誕生日プレゼントありがとうございます。しっかり頂きました」
さも何もなかったかのように冷静な態度を装って少し意地悪く笑ってみる。本当はめちゃくちゃドキドキしているけど。心臓破裂しそうだけど。そんなのバレたら恥ずかしいじゃん。
事情がのみこめない高橋先輩はきょろきょろと辺りを見渡したり、高速で瞬きしたり、随分と挙動不審だ。街灯の光で見える先輩の顔がうっすらと赤いような気がするのは寒さのせいなのか、それとも俺のせいなのか。はたまた両方か。
嫌われたかも、なんて少しネガティブ思考になりかけていると……
「ぷぷぷれいぼーいだね!」
「プレイボーイ……あはは!」
「何!? 何で笑うの!?」
「いやぁ……やっぱ高橋先輩のこと好きだなって思いまして」
「好き? ……私のことが好き!?」
「順番おかしくなっちゃいましたね。すみません」
「そ、それってもしかして……」
「告白と思ってもらってかまいませんよ?」
俺がそう言うとボフンとでも音が出そうなくらい一気に顔が赤くなった高橋先輩。耳まで真っ赤になって猿みたい。と思ったけどそこは心にしまっておこう。さすがに怒られそうだ。それに猿はさすがにないよな、リンゴに訂正しておこう。
こほんと咳払いが聞こえた。高橋先輩の方を見ると口を少し尖らせながら指をもじもじさせている。
「わ、わたしで良ければ付き合ってもあげてもいいよ」
「コンビニまで付き合うとかそういうオチじゃないですよね?」
「違うし! 人が真面目に話しているのに!」
「すいません。冗談ですから怒らないでくださいよ」
「出来の悪い後輩だからね! 私がついててあげないとダメかと思って!」
「ダメです。先輩がいないと俺ダメです。だからずっと俺についててくださいね」
「お、おうともよ」
もう一度キスをした。今度は長い長いキスを。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった
神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》
「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。
全3話完結
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる