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華麗なる少年王の半生

美貌の勇者ふたたび

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ふらついているアルベルトに肩を貸し、城内にある、アルベルトの私室に連れて行った。
驚くほど簡素な部屋だった。

着いてきていた近衛騎士は追い出した。


アルベルトをベッドに寝かせて、怪我の状態を見る。
鎧は、下手に脱がせないほうがいいだろう。割れたのが肉に食い込んでいる。

……かなり深い傷だ。
あちこち鎧は砕け、肉が抉れているのに。よく立ち上がって歩けたものだ。

こんな状態なのに。自分より、他の二人を先に回復させて欲しい、だなんて。


俺なら泣いてる。
むしろ最初の一撃で気絶してるだろう。

痛そうで。もう俺が泣きそうだよ。


*****


ドラゴンの爪での攻撃には、呪いのような効果が付与されていたようだ。
神聖魔法でも、全快は難しいかもしれない。


「多少、痕が残るかもしれないが……」

「陛下御自ら治療して頂けるのですか? 光栄です」
引き攣れたように、口元が動いた。

包帯が、血で貼りついているのだ。
どうやら、微笑みを浮かべたようだが。わからない。

あの、腹が立つくらい、完璧なまでに美しかった微笑みを。見せて欲しい。


満身創痍のアルベルトに回復魔法を掛けて。
押し出されてきた鎧の残骸を引っぺがす。抉れていた肉が盛り上がり、綺麗に傷が塞がっているのを確認して。

恐る恐る、顔の包帯を外してみた。


額から眉にかけてと、頬に少し。
ドラゴンの爪痕が残っているが。

……よかった。
思っていたよりは酷いことになっていなかった。

ほっとして、気が抜けた。
アルベルトの綺麗な青藤色の目が潰れてなくて良かった。


「……少々傷が残ってしまったが。元より男前が上がったかもしれんな?」

アルベルトは、自分の顔に手をやった。
傷を確かめているようだ。

「近衛騎士に戻れるくらいの傷でしょうか……」
何を弱気な。

「そのくらい、容易なことだ。しかし、お前はもはや救世の勇者なのだからな。今更、私の近衛騎士に戻る必要はないだろう」
そう言うと。

アルベルトは微笑んだ。
傷があっても全く問題ない、綺麗な笑顔だが。


笑顔が、何だか弱々しく感じるのは。
さすがに長く続いたドラゴンとの戦いで疲弊しているせいか。


*****


それにしても。
「このような怪我を負ってまで、叶えたい望みとは……、」


まさか、そんな強敵だなんて思ってなかった。

伝説の聖剣があるんだし。
一撃でやっつけて、すぐ帰ってくる程度のものだと思ってた。

漫画やゲームでも、竜退治なんてそう簡単にはいかないのに。
甘く見過ぎてたんだ。

ここまで頑張らなくても。
別に、リーゼロッテとの結婚くらい、許してやったのに。

俺はそこまで鬼畜じゃないぞ。


「それは……、」
起き上がろうとしたアルベルトを、手で制した。

「ああ、今は言わなくて良い。望みは明日の褒章授与式で聞かせてもらおう。……竜との戦闘の上、転移魔法を使って疲れただろう。今日はゆっくり休め」


死に際のドラゴンによる最期の攻撃で、仲間がすぐに手当てをしないと助からないような状態になったため、やむなく転移魔法を使ったんだろう。

自分の怪我をも顧みず。
自分もあんなひどい傷を負っていたのに。痛かっただろうに。

俺なら、我先にと回復してもらうと思う。


アルベルトは、本当に勇者……我が国の誇る、英雄だ。
つまらない理由で僻んで、嫉妬していたのがバカバカしいほど。


*****


翌日。
ドラゴン退治に対する褒章の授与式である。


授与式の準備はもう進めていたので、帰ってきた次の日に式をやっても進行に問題はなかったが。
予定外だったのは、犠牲者が出てしまったことだ。

予言では、勇者が帰ってくる、ということしか言及されてなかったのだ。
褒美の代替案を考えなければならない。

功績に応じた勲章を授けるのは、国王である俺の役目で。
なお、俺は今日が初めての授与式となる。


うわあ。
めちゃくちゃ緊張するなあ。ヒッキーには重責過ぎるんですけお! けお!

手のひらに人って書いて飲み込んでみたりして。


しかも、みんな気になっているだろうからって。
授与式の様子は投影魔法により各家庭にある鏡を通じて、全世界に報じられるという。
世界中の人が見てるとか、プレッシャー半端無いっての。

この国のある惑星の反対側でもリアルタイムで見られるので、テレビの衛星中継のようなものか。
さすがに世界規模の投影は、滅多に使われないそうだ。

そりゃそうだ。


斃したドラゴンの死骸は、薬になる血や肉だけでなく、加工して武器になる骨や皮も全て高額で取引されるレアアイテムである。
巨大なドラゴンだったので、莫大な額になると推測される。

お陰で予算は潤沢なので、褒美は思いのままだ。
といっても限度があるが。

望めば、勇者パーティ全員が一生遊んで暮らせるくらいは余裕で出せるだろう。


この国には、莫大な大金を望むような欲深い人間はいないと思うが。
国民全員に祝い金を出せるくらい残ればいいな、と思う。


*****


まずは勇者の仲間たちから。
一等勲章と、予算内で収まる範囲での褒美を与える。


戦死した戦士……いやダジャレじゃなく。
戦士ランベルト・クラインベックはその功績を称え、遺族の生活を、国で保障することにした。我が国初の遺族年金である。


魔法使いマルセル・ユーベルヴェークは、魔術の研究のため解体の立ち合いと、竜の血ひと瓶……一リットルくらいか? を望んだ。
それを許可し、分与に関する書類を作成して渡した。


僧侶クラウス・ワーナーは、蘇生魔法も使えず犠牲者を出してしまい、役に立てなかったので褒美は辞退すると言ったが。
寺院の修繕・改築を褒美とすると告げたら、感動してひれ伏し、泣いてしまった。


そして。
いよいよ我らが勇者、アルベルト・フォン・ロイエンタールの番である。
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