限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙

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近衛騎士、勇者になる

勇者の帰還

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城門前の魔法陣へと移動した。


我々が戻ってきたことを知り、人が集まってきたようだ。
あちこちから悲鳴が聞こえる。

皆ぼろぼろで、血塗れだからか。
こちらを見ていた女性は失神したようだ。


近くに居た兵に、陛下へ、竜を斃したとお伝えするように言付ける。
一刻も早く、陛下に安心していただきたかった。

もうすでに、勇者が戻ってきたという一報は入れたという。


「では、治療院へ連絡を。手当てが必要だ」
「はっ、今すぐに」

伝達の兵が駆けて行くのを見送る。


*****


集まって来た者達は、遠巻きにこちらを見ていた。

このような怪我を負って戻ってきたというのに。
誰一人、手当てに駆け寄らないとは。


ランベルトは、もういないが。
クラウスもマルセルも。この国を守るために、命懸けで討伐の旅に出た。

決して楽な道のりではなかった。
皆は、お前たちを守るために戦ったのだというのに。


竜の言っていたことは間違いではない。
人間は、群れねば何もできないほど弱いくせに、醜悪な生物である。


ああ、この顔に傷を付けたのがいけなかったか?
麗しき勇者でなければ。

歓迎するに相応しくないと?


人間に対して絶望しかけた私の耳に。
足音が聞こえた。

あのようにひどく焦り、走るのは。初めてではないだろうか?
すぐに、貴方だとわかった。


クリスティアン陛下。


*****


「アルベルトは? 無事か!?」
心配そうな陛下のお声に、胸が張り裂けそうになる。


ああ。
貴方にこの薄汚れた姿を見せるのが怖い。

竜の爪に引き裂かれた無惨なこの傷を。
血塗れのこの姿を。

他人の掠り傷を見ただけで、貧血を起こされるような繊細な方だ。

不愉快に思われるだろうか?
もう近衛騎士には戻せないと仰られたら。

私は。


「アルベルト……?」
不安そうな響き。

私が動かないので、不審に思われたのだ。
竜を斃し、生きて戻ったことを。戦士を喪ったことも報告せねばならない。


痛む手足を叱咤し。
どうにか立ち上がり、陛下の方へ振り返った。

陛下は私の顔の辺りに視線をやり。
息を呑み、目を見開かれた。

顔に怪我を負っていたことを知り、驚かれたようだ。


陛下は。
ふらふらと、私の方に歩み寄り。

「アルベルト、すぐに手当てを」
こちらへ向かって、まっすぐに手を差し出された。

「いえ、どうか、私よりも、彼らを先にお願いいたします……!」


何よりも。
真っ先に、私の怪我を心配していただけた。

それだけで。
苛んでいた傷の痛みも吹き飛ぶほどの喜びが、全身を包んだのであった。


*****


取り急ぎ、簡略に暴竜バルバルスとの戦いを報告した。

三日三晩続いた死闘の末、竜を斃したこと。
死に際の攻撃により、皆が瀕死の重傷を負ったことを。

陛下はマルセルとクラウスの怪我の様子を見て、すぐに治療が必要だと気付かれたようだ。


「Ne infernorum ictibus graventur……」
二人の前に立ち、回復魔法の詠唱を始められた。

「陛下、すぐに僧侶を呼びますので。御手を煩わせるわけには、」
近衛騎士が止めようとしたが。

陛下は煩わしそうに手を振られ。
まっすぐに、怪我をした二人だけに視線を定めて。

「……Sed cum beatis tua prece vocentur……sānātīvus」


陛下の神聖魔法により、奇跡の光が二人を包み、みるみるうちに傷が癒えていく。
観衆から、感嘆の声が上がる。


素晴らしい。
国一番の回復魔法を使うというクラウスよりも、上ではないかと思われるほどである。

思わず傷の痛みも忘れ、見惚れてしまった。


怪我は全て治療されたが。
二人は魔力が底を尽き、疲弊している状態であった。

しばし、休息が必要である。

「彼らを治療院へ運べ!」
陛下は兵に命じ、二人を治療院へ運ばせた。

そして。
不思議そうに辺りを見回されている。


戦士ランベルトの不在に気付かれたようだ。
こちらを振り返られ。

「……一人、足りないのではないか?」


*****


陛下に嘘をつくことになるのは心苦しいが。

真実を知った方が、より悲しまれるだろう。
ランベルトの暴挙により、危うく全滅するところだった。

しかし。
病を持つ家族があったため、功を焦ったのだとクラウスは言っていた。


「戦士ランベルトは、……戦いの最中に、命を落としました」
それは、間違いではない。

「蘇生魔法があるだろう!?」
まさか死んだとは思われなかったのか、驚きに目を瞠られた。

「それが、蘇生に失敗し、灰に……」


竜の爪により肉体が四散したのでは、いかに高度な蘇生魔法でも回復は不可能。
灰に帰す。

陛下は、それ以上問い詰めるでも責めるでもなく。
そうか、と頷かれた。


「とにかく、来い」
陛下は私の手を引き、城内へと向かわれた。

まるで、集まってきた者の好奇の目から、私を隠すように。


血塗れのこの身体に、躊躇なく触れられ。
連れていかれたのは。

城内にある治療室ではなく、私の部屋であった。


*****


ヴァルターや他の近衛騎士を、部屋から出されて。
私を寝台に寝かせ。

陛下自ら、私の怪我の状態を診られている。


ひしゃげた鎧が肉に食い込み。全身の骨はひび割れ、砕かれ。
折れた肋骨が肺に刺さっている。

内臓もいくつか破裂しているようだ。

魔物の血のせいだろうか? 辛うじて、生きているのは。
通常ならば、死んでいてもおかしくはない怪我だろう。

もはや気力だけで生きているようなものだ。


陛下は怪我を確かめ。
今にも泣きそうな顔をされている。

ああ、私は罪深い。
陛下のお心を痛めたくないと願うのに。

貴方から心配されることが、この上なく嬉しいのだから。


「多少、痕が残るかもしれないが……」
「陛下御自ら治療して頂けるのですか? 光栄です」

当たり前だろう、私の騎士だ、と。
小さな声で呟かれた。

、と仰って下さった。

嬉しさのあまり、心臓が止まるかと思った。
このまま死んでもいいとすら。


陛下は一気に治療するのではなく。
慎重に、肉に食い込んだ鎧を御自らの手で剥がしてくださりながら、回復魔法を掛け。

治ったのを確認するように。
私の肌を、直接その手で触れられた。
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