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近衛騎士、勇者になる

褒章授与式にて

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自分の受け取る授与式の準備を自分が采配するのは、何度経験してもおかしなものだが。
今回は予定外の犠牲者を出してしまったことに加え、今まで仕切っていた私が勇者になり急に抜けた為。ろくに引継ぎもしていないので、それも致し方ない。

ベルトラート陛下の予言では、死者が出ることまでは言及されていなかったようだ。
全員戻ってくるものとして準備していたのだという。
私もまさか、よりによって竜の逆鱗を狙う大馬鹿者が存在するとは、予想もできなかった。


褒章については、前日に望みを訊いておいた。

たとえ一生遊んで暮らせるほどの褒章金を望まれようが問題ない。
竜は皮も骨も肉も、血の一滴に至るまで高額で取引される。

しかも、暴竜バルバルスほどの大物は、千年に一度出るかわからないほど貴重なものである。
だから動きを鈍らせる場所や心臓のみ狙っていたのだが。

最後、雷撃魔法で頭に大穴を開けてしまったのは痛恨の極みである。


まさか竜殺しの剣、聖剣ヴァルムント以外で致命傷を負わせることが可能とは思っていなかったので、加減が出来なかったのだ。
脳も目も、高額で売れたものを。


陛下は、今回の竜討伐による利益を、竜による被害に関する手当の他にも、全ての国民に還元したいと願っておられるようだ。

金庫の中身を増やすことしか考えない他の貴族とは違う。
そんな陛下だからこそ、私は。


*****


褒章式は、王の間で行われる。

王位を継がれたばかりの陛下が授与式を行われるのは、これが初めてである。
かなり緊張されておられるようだ。

今回は暴竜討伐という大事件であるが故に、他国にも式の模様が投影魔術で中継されるのも緊張の理由だろう。
世界規模の投影は初めての試みだという。

準備をしている魔法使いたちも、緊張の面持ちである。


まずは討伐に関係した者たちに対する褒章である。
竜が動き出したことを発見した兵士などに五等勲章と、一年分の俸禄を与える。

そして討伐に関わった者達へ一等勲章と、望みの褒美だが。

戦士ランベルト・クラインベックは、遺された家族の生活を国で保障することになった。
ただし、思いあがって贅沢な暮らしをしないよう、前もって遺族にはランベルトの犯した過ちを話しておいた。

代表で来た家長は神妙な面持ちで勲章を受け取り、慎ましく暮らすことを約束した。


魔法使いマルセル・ユーベルヴェーク。
魔術の研究のため竜の解体の立ち合いと、竜の血をひと瓶望んだので、陛下の許可を得、分与に関する書類が勲章と共に渡された。

マルセルの所属する魔術組合は欲のなさを嘆いていたが。マルセルは魔術の研究以外興味がない。
今回の討伐はかなり勉強になったと満足していた。


僧侶クラウス・ワーナー。
一等勲章は戴いたが。犠牲者も出してしまい、役に立てなかったので褒美は辞退するとのことだが。

ところどころ補修が必要だと旅の途中で聞いていたので、傷んでいた場所を調べ上げて報告しておいた。
それを受け、陛下は寺院の修繕・改築を褒美とすると告げられた。

クラウスは驚いたようにこちらを振り返った。
頷いてみせると。

陛下に感謝を告げ、ひれ伏し、泣きだした。


クラウスはこの功績で教皇になることが決まっている。
これで、寺院の陛下への完全なる忠誠は、約束されたものとなるだろう。

ランベルトの暴挙以外、ここまでは概ね計画通りにことが進んだが。


「勇者アルベルト・フォン・ロイエンタール、前へ」
盛大な拍手と歓声の中。

陛下の元へ向かった。


*****


新調した勇者の鎧を着け、腰に聖剣ヴァルムントを佩き。
深紅の外套を翻し、王座の前に足を進める。


少しばかり、手が震えていることに気づく。

私でも、緊張することがあるのか。それも当然か。
これから私がすることは、それだけ大それた行いなのだから。


王の間にいる者たちの全ての視線が私に向いていることを感じる。
私の顔に残った爪痕を嘆く声、残念がる声が聞こえたが。

陛下はこの顔を、男前が上がったと褒めてくださった。
私にとっては、これも勲章である。

陛下の前に、頭を垂れ、跪く。


最も竜退治に貢献した勇者には、最高の勲章である特級勲章が与えられる。
陛下御自ら、外套につけて下さった。

「救国の勇者、アルベルト・フォン・ロイエンタール。そなたは我が国だけでなく、この世界をも救った英雄である。何なりと褒美を望むがいい。私が実現可能な望みであれば、叶えよう」


望みはその場で言う、金でも物でもないので前もって贈与の書類は必要ないと言ってある。
なので、誰も私の望みを知らない。

皆、固唾を呑んで見ている。


私の望み。
それは。


立ち上がり。
陛下の目の前に進み、その手を取る。

腰に手を回しても。陛下は私の暴挙に抗われるわけでもなく、きょとんとされた顔で私を見ている。
考えもされていないのだろう。

私が、何を考えているか。


視線を陛下から、周囲の者へ向ける。
「私の願いはただ一つ。我が主マインヘア、クリスティアン・フォン・ローエンシュタイン=ディートヘルム陛下をに望みます」


*****


陛下は呆然とされた様子で。視線だけで、辺りを見回された。
自分に言われたとは思いもしなかった、というような。素のままの陛下。

珍しいその表情を、誰にも見せたくないと思った。


「貴方ですよ、イーラー・マイェステート。どうか、私の花嫁になってください」
「わ、」
我が身で隠すように。更に、手と腰を引き寄せた。

私を見て、困惑されている。
今から何をされるか、理解しておられないのだろう。


「んむ、」
陛下のやわらかな唇を奪う。

息を呑み、驚かれているのが伝わってくる。


目を覚まされているのに、抵抗はなく。
身を委ねられているようで。

まるで、口付けを赦されている気になる。


陛下はただ、忠実であるべきはずの近衛騎士だった私の暴挙に対し。
驚かれているだけだというのに。
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