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はじめの夏の国
特殊メイクしんどい。
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とりあえず、俺の存在は特別に隠匿されることになったらしい。
あの「カワイイ」のをどこへやった、見せろ、と城門に集まった人たちは。
門兵に、「お前らが囲んで驚かせたせいでびっくりして死んでしまった」と言われて、がっくりして帰っていったそうだ。
俺はか弱い小動物か。
しかし、稀少なものというのは、どこへ行っても争いの種になるものらしい。
殺されずに済んで良かった、ってところか?
『そちらの事情はわかった。こちらでも、異世界の扉が開いた原因を探してみよう。戻る算段がつくまで我が国に居るが良い』
ウルジュワーン王は寛大だった。
その場にいたみんなにも、国賓として大事に預かれ、と命じていた。
◆◇◆
「ありがとうございます」
ウルジュワーン王に頭を下げて、お礼を言って。
あてがわれた部屋へ行こうとしたら。がくっと転びかけた。
あっぶね。
『生まれたての小鹿のようだな?』
転ばずに済んだのは、ラクさんが支えてくれたからだった。
いいよ、可愛くたとえてくれなくても。
酔っ払いの千鳥足だよこんなの。
「あ、ありがと。……だって俺、ハイヒールとか履いたことないし」
元の世界の女の人、すげえな。こんなの履いて歩けるんだから。
足首、ぐきっといきそう。
『ならば、連れて行ってやろう。つかまれ』
手を差し出してくれた。
ラクさん優しいじゃん。見た感じのイメージ、冷酷そうなのに。
っていうかブルーってニヒルなキャラのイメージあるよな。
「ありがとう」
ラクさんの手を取った。
ありがたく手を借りて歩いていたら。ハルさんが、笑いをこらえてるのが見えた。
何なんだ?
◆◇◆
『おうラク。見ない顔を連れてるな。久しぶりの新人か?』
額には緑色の石。
アフダルというらしい。同じ制服を着てるから、近衛仲間かな?
茶髪で緑の目。遊び人っぽい雰囲気の、超絶美形だ。
……そろそろ超絶美形が当たり前すぎて、こちらの美的感覚もおかしくなりそうだ。
素顔のままで鏡を見たら、あまりの顔面偏差値の落差に絶望しそう。
『国賓だ。……ここだけの話だが、これは「カワイイ」。今は目立たぬよう化粧をさせてある』
『えっ、噂の? 死んだんじゃねえのか。マジで「カワイイ」!?』
自分のことだと思うと、尻がむずむずする会話だけど。
慣れるしかないんだろうな。
……はあ。
「イチです。よろしくお願いします」
頭を下げる。
『アフダルだ。ダルでいいぜ。今度、素顔も見せてくれな?』
手を取られて握手された。
社交的というか、人懐っこい感じの人だな。
「はい」
『……ああ、なんかわかる。顔は普通なのに、何かすげえカワイイ……。俺も手を貸したい!』
『いいから貴様は仕事に行け』
ダルさんはラクさんに追いやられた。
またね~、とダルさんに手を振られる。
何でだろう。
容姿はちゃんと、こちら風に見えるようになってるはずなのに。
カワイイの?
よたよた歩いてるからか?
こちらの人はみんな動作や話し方、歩き方もスタイリッシュというか、洗練されてるから。違和感あるんだろうか。
やっぱ俺、この世界じゃどうしても浮くのか?
◆◇◆
案内された部屋には、入ったところのすぐ脇に二人、無言で控えてて。一瞬びびったけど。
二人は人間じゃなくて、使用人代わりの自動人形らしい。
人口が減って労働力が足りなくなったんで、こういうのは城内にたくさんいるそうだ。
命令するまでは動かないんだって。
ラクさんが使い方を教えてくれて、戻っていった。
なんか怖い……。
陶器っぽい肌で、人間の形はしてるけど。いっそ動物とかのほうがいいのに。
フランス人形とか日本人形とか部屋にあると、なんか怖い感じあるよな。夜中勝手に動き出しそう、とか髪が伸びそうとかいう、あの感じ。
試しにお茶を入れて、と言ってみたら。
『かしこまりました』
と礼をして。
茶葉からお茶を入れて。テーブルにセットして。
『また何かご用がありましたらお申しつけ下さい』
また礼をして、定位置に戻った。
すげえ。
どうなってんのこれ?
スカートが長いから足元見えないけど。二本足なのかな? 浮いてたりして。
覗いてみたいけど。それは変態っぽいので我慢。
砂漠の国っぽいし。車じゃなくて変な生き物に乗ってるし、みんな剣を持ってるから。
てっきり文明も中世くらいか、そんな進んでないのかと思ったのに。すごい発明してるんだな。
この世界、天才だらけなんだろうか?
灯りも、火じゃなくて、なんかLEDみたいな熱くないライトみたいだし。
見た感じからは、文明レベルなんて想像できないもんだ。
異世界だからかな? 色々、予想外なことが多すぎる。
◆◇◆
「……はー、さっぱりした」
特殊メイクを落として、ハイヒールを脱いだ。
履いてたのは短時間だというのに、早くもふくらはぎがつりそうだ。
部屋には洗面台や、風呂、トイレまでついていて、まるで、テレビで観た高級ホテルのようだ。
寝室は別にある。スイートルームって言うんだっけ? 甘いんじゃなくて続きの間、って意味だって聞いたことある。
俺には一生縁のないもんだと思ってたよ。いや、相手がいないんじゃなくて!
天蓋付きで。薄い布が下がってるベッドもやたら大きいサイズで。
ふとんはふかふかだ。これ、羽毛かな?
夏の国っていうけど、城の中は暑くない。
むしろ涼しくて、過ごしやすい。
どっかにエアコンとかあるのかな? 石造りだから涼しいとか?
国賓待遇がありがたいな。
牢屋入りとかじゃなくて良かった。
異世界というけど。ドラゴンとか、変な生き物がいるくらいで。飲み物や食べ物は、元の世界のものとそう変わりはないようだった。
ミミズみたいな字は全然読めなかったけど。何でだか、言葉が通じるのはありがたい。
とりあえず、しばらく生きていくには困らないことはわかった。
でも。
……これから、どうなっちゃうんだろ、俺。
あの「カワイイ」のをどこへやった、見せろ、と城門に集まった人たちは。
門兵に、「お前らが囲んで驚かせたせいでびっくりして死んでしまった」と言われて、がっくりして帰っていったそうだ。
俺はか弱い小動物か。
しかし、稀少なものというのは、どこへ行っても争いの種になるものらしい。
殺されずに済んで良かった、ってところか?
『そちらの事情はわかった。こちらでも、異世界の扉が開いた原因を探してみよう。戻る算段がつくまで我が国に居るが良い』
ウルジュワーン王は寛大だった。
その場にいたみんなにも、国賓として大事に預かれ、と命じていた。
◆◇◆
「ありがとうございます」
ウルジュワーン王に頭を下げて、お礼を言って。
あてがわれた部屋へ行こうとしたら。がくっと転びかけた。
あっぶね。
『生まれたての小鹿のようだな?』
転ばずに済んだのは、ラクさんが支えてくれたからだった。
いいよ、可愛くたとえてくれなくても。
酔っ払いの千鳥足だよこんなの。
「あ、ありがと。……だって俺、ハイヒールとか履いたことないし」
元の世界の女の人、すげえな。こんなの履いて歩けるんだから。
足首、ぐきっといきそう。
『ならば、連れて行ってやろう。つかまれ』
手を差し出してくれた。
ラクさん優しいじゃん。見た感じのイメージ、冷酷そうなのに。
っていうかブルーってニヒルなキャラのイメージあるよな。
「ありがとう」
ラクさんの手を取った。
ありがたく手を借りて歩いていたら。ハルさんが、笑いをこらえてるのが見えた。
何なんだ?
◆◇◆
『おうラク。見ない顔を連れてるな。久しぶりの新人か?』
額には緑色の石。
アフダルというらしい。同じ制服を着てるから、近衛仲間かな?
茶髪で緑の目。遊び人っぽい雰囲気の、超絶美形だ。
……そろそろ超絶美形が当たり前すぎて、こちらの美的感覚もおかしくなりそうだ。
素顔のままで鏡を見たら、あまりの顔面偏差値の落差に絶望しそう。
『国賓だ。……ここだけの話だが、これは「カワイイ」。今は目立たぬよう化粧をさせてある』
『えっ、噂の? 死んだんじゃねえのか。マジで「カワイイ」!?』
自分のことだと思うと、尻がむずむずする会話だけど。
慣れるしかないんだろうな。
……はあ。
「イチです。よろしくお願いします」
頭を下げる。
『アフダルだ。ダルでいいぜ。今度、素顔も見せてくれな?』
手を取られて握手された。
社交的というか、人懐っこい感じの人だな。
「はい」
『……ああ、なんかわかる。顔は普通なのに、何かすげえカワイイ……。俺も手を貸したい!』
『いいから貴様は仕事に行け』
ダルさんはラクさんに追いやられた。
またね~、とダルさんに手を振られる。
何でだろう。
容姿はちゃんと、こちら風に見えるようになってるはずなのに。
カワイイの?
よたよた歩いてるからか?
こちらの人はみんな動作や話し方、歩き方もスタイリッシュというか、洗練されてるから。違和感あるんだろうか。
やっぱ俺、この世界じゃどうしても浮くのか?
◆◇◆
案内された部屋には、入ったところのすぐ脇に二人、無言で控えてて。一瞬びびったけど。
二人は人間じゃなくて、使用人代わりの自動人形らしい。
人口が減って労働力が足りなくなったんで、こういうのは城内にたくさんいるそうだ。
命令するまでは動かないんだって。
ラクさんが使い方を教えてくれて、戻っていった。
なんか怖い……。
陶器っぽい肌で、人間の形はしてるけど。いっそ動物とかのほうがいいのに。
フランス人形とか日本人形とか部屋にあると、なんか怖い感じあるよな。夜中勝手に動き出しそう、とか髪が伸びそうとかいう、あの感じ。
試しにお茶を入れて、と言ってみたら。
『かしこまりました』
と礼をして。
茶葉からお茶を入れて。テーブルにセットして。
『また何かご用がありましたらお申しつけ下さい』
また礼をして、定位置に戻った。
すげえ。
どうなってんのこれ?
スカートが長いから足元見えないけど。二本足なのかな? 浮いてたりして。
覗いてみたいけど。それは変態っぽいので我慢。
砂漠の国っぽいし。車じゃなくて変な生き物に乗ってるし、みんな剣を持ってるから。
てっきり文明も中世くらいか、そんな進んでないのかと思ったのに。すごい発明してるんだな。
この世界、天才だらけなんだろうか?
灯りも、火じゃなくて、なんかLEDみたいな熱くないライトみたいだし。
見た感じからは、文明レベルなんて想像できないもんだ。
異世界だからかな? 色々、予想外なことが多すぎる。
◆◇◆
「……はー、さっぱりした」
特殊メイクを落として、ハイヒールを脱いだ。
履いてたのは短時間だというのに、早くもふくらはぎがつりそうだ。
部屋には洗面台や、風呂、トイレまでついていて、まるで、テレビで観た高級ホテルのようだ。
寝室は別にある。スイートルームって言うんだっけ? 甘いんじゃなくて続きの間、って意味だって聞いたことある。
俺には一生縁のないもんだと思ってたよ。いや、相手がいないんじゃなくて!
天蓋付きで。薄い布が下がってるベッドもやたら大きいサイズで。
ふとんはふかふかだ。これ、羽毛かな?
夏の国っていうけど、城の中は暑くない。
むしろ涼しくて、過ごしやすい。
どっかにエアコンとかあるのかな? 石造りだから涼しいとか?
国賓待遇がありがたいな。
牢屋入りとかじゃなくて良かった。
異世界というけど。ドラゴンとか、変な生き物がいるくらいで。飲み物や食べ物は、元の世界のものとそう変わりはないようだった。
ミミズみたいな字は全然読めなかったけど。何でだか、言葉が通じるのはありがたい。
とりあえず、しばらく生きていくには困らないことはわかった。
でも。
……これから、どうなっちゃうんだろ、俺。
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