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はじめの夏の国

俺ってカワイイの?

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他の国が、この国に争いごとを起こそうと、戦略兵器を送り込んできたのかと思ったらしい。


何だよ戦略兵器って。俺、ただの人間だぞ。
ロボットとかでもないし、サイボーグでもなけりゃ、特別な力もないぞ?
見てわかるとおり、普通の人間だってば。

穏やかじゃない発言に、他の国と戦争中なのかと思ったら。
そういう訳ではないみたいだけど。

他の国とはあんまり交流がないというか、仲はあんまり良くないらしい。


◆◇◆


『……この国の人間を見て、何か思うことは?』
眼光鋭いアズラクに聞かれる。

「全員、超絶美形?」

『そう。この世界の人間全て、こういう容姿なのだ』
頷かれちゃったよ。

バーン、って効果音が聞こえそうなドヤ顔だったよ。
お前ら、自分たちがめっちゃ美形な自覚、あるんかい。


『それなのに、貴様のような……カ、カワイイのが、く……っ、』
アズラクさん?
何でカタカタ震えてるんですか? 右手の封印が痛むとかの発作じゃないだろうな。

『ラクさん、カワイイに耐性ないから……』
アズハルが、呆れたようにアズラクを見ている。

紫じゃないのに、ラクさん呼ばれてるのか……。
俺的にラクさんというと思いつくのが楽太郎=紫色なのは、祖母ちゃんと笑点のビデオみてたせいだろう。今は円楽さんなんだっけ? まだ違和感あるよな。


……つか、何だよカワイイって。
近所の爺ちゃん婆ちゃんたちくらいだぞ? 俺にそんなこと言うの。

それとも若そうに見えるけど、長生きなの? え、みんな二十歳前後? そりゃまた失礼致しました。


じゃあ、まさか。

まさかまさかの?
超絶美形を見慣れた人たちにとって、典型的日本人の平均顔な俺って。


……カワイイ、のか……?


◆◇◆


可愛さを隠すためにメイクさせられるとは、イミフすぎるが。


「えっ……これがワタシ?」
などという、お決まりのセリフを思わず言いたくなるほどの変わりようだった。

鏡の中には、つけ睫毛、アイシャドウ、パテなどで顔を作って。
顔だけは超絶美形に仕上げられた俺がいた。


すげえ。
SFX……じゃなかった。これ、特殊メイクのレベルである。もはや別人だよ。

体型はどうしようもないから、ヒールの高い靴で足を長く見せて。
ゆるい服で、体型をわからなくさせる。


この世界、超絶美形しかいないため、化粧はする必要がなく。メイクなどの技術は、舞台役者くらいにしか伝わってないとか。
あ、そうすか。って感じー。

服も、だいたい均一なものしかなくて。足が長いのが基本。
贅肉? 脂肪? ナニソレみたいな、スタイルの良い美形ばかりである。代謝がいいのかね。
それはそれで、飢餓とかの時には困りそうだけど。体脂肪がないとすぐ死ぬぞ?
そういうのはない世界なのかな?

とにかく。
ここには体格のいいマッチョな美形か、細身の美形の二択しかないのである。

当然、俺に合う服など無かった。

細身の人のパンツは、当然のことながら細すぎて入らないし。
体格のいい人のだと裾の長さが余りすぎる、という悲しい現実は比較的速やかに見なかった振りをしたい。

なので。
細身の美形代表のアズハルことハルさんが、俺用にワンピース風の服を急ぎ作ってくれたのである。器用だなあ。

布をちゃちゃっと繋ぎ合わせただけだよ、というけど。
俺なら布地を秒で血だらけにする自信があるぜ?


……祖母ちゃんもこういうの、得意だったなあ。

元気かな。
俺のこと、心配してるんじゃないかな。

いや、まだ時間的に、夏期講習から帰ってきてなくて、寄り道してるとか思われてるくらいかな?


◆◇◆


『なんとか、これで見られるようになったな』
細マッチョっぽいアズラクことラクさんが、ほっとしたように言った。

別に、今までも怒っていたわけではなく。
緩んでしまいそうな顔を、必死で我慢していただけらしい。


何だそれ。笑いそうだったってこと?
俺の顔、そんな吹き出すの我慢するくらい、おかしいかなあ?


ラクさんとウルジュワーンは、体格のいい美形代表になるのかな?
背が高くて、体つきがしっかりしてる。

『外出する場合、この状態でなければ許可しない。いいな?』
命令されてしまった。

色々納得いかない気がするけど。
頷くより他はない。


偉い人っぽいと思っていた、紫の薔薇の人……じゃなかった紫色の石をつけた人、ウルジュワーンは。
ここ「夏の国バラド サイフ」の王様で。実際、偉い人だった。

ラクさんとハルさんは、王様の近衛兵だそうだ。
といっても、王様の護衛のほかにも、警察みたいな仕事もするとか。雑用係みたいなもんだと言ってた。


詳しく話を聞いてみたところ。

この世界、いつの間にやら超絶美形だらけになっていて。
「カワイイ」のや「カワイクナイ」、「ブサイク」などの容姿の人間が、一切消えてしまったという。

「普通」はないんかい、と思ったが。
もはやこの世の中、超絶美形だらけ状態が基本で「普通」なのだった。


二十歳以上になった国民は全てパートナーをみつけ、国民一人につき、最低一人……一家で二人? は子供をつくることを義務としたので、大幅な人口の減少はしなくなったものの、美形が飽和状態で。
見飽きてしまったのか、恋愛も特に発展しないし。

人口が一定以上伸びなくなって、数十年経つという。


この国だけではなく、他の国も同様で。
どの王も、人口減少対策に頭を悩ませているそうだ。二人以上産んだら報奨金を出すようにしてもダメだって?


このままでは、人が減っていく一方だという。
それは困るな。

日本の少子化とは、事情が全く違う。羨ましいというか、贅沢な悩みに見えるのは、僻みだろうか。


◆◇◆


という訳で。

元の世界では「普通な顔」の俺は、この世界において、「カワイクナイ」でも「ブサイク」でもない存在。
……つまり、「カワイイ」にカテゴライズされてしまった、というわけだ。

納得いかないが。

ブサイクと言われるよりはマシなんだろうか……。
超絶美形からブサイク呼ばわりされたら、基準からして事実なだけに、確実に心が折れる自信があるぜ!


この世界の国の人間は、「カワイイ」に憧れを抱いている。
というか、飢えている。

小動物のように愛らしい、可愛らしい人は存在しないのだ。
皆、超越した美形ばかりなので。

それで、俺みたいなのが現れたので大騒ぎになった、という話だ。
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