超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。

篠崎笙

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はじめの夏の国

変なとこ来ちゃった。

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俺の名前は斎藤一。冗談でも何でもなく、本名である。

新撰組かよ、とよくいわれるが。
残念ながら、読みはではなく、なんだよな。
更に、斎藤の斎の字もよく間違われる。
間違われすぎて、いちいち訂正するのも面倒なくらいだ。

親は、何を考えてこんな名前をつけたんだか。
って疑問に思って、前に聞いてみたが。

二人とも、新撰組なんか知らなかった。
一番のイチ、だったらしい。あらゆる分野で一番を取れるような子になりますように、だって。アホ丸出しだよ。
自分たちの遺伝子を継いで、一番を取れるような子になれると思ったのがまずアホだ。鏡を見ろと言いたい。

鳶は鷹を産まない。カエルの子はオタマジャクシで、カエルにしかなれないのだ。


新撰組って何だ、って?
ええと、大昔の有名な……剣客? マンガやゲーム、小説の題材にもなって、大人気なんだ。映画とか、舞台でもやってるし。

何をしたかって? 知らないよ。俺、頭良くないし。歴史とか苦手なんだよね。
剣客らしいし、悪者でも斬ってたんじゃね?


◆◇◆


高校は、園芸部所属。入部理由は、帰宅部は許可できないからで、何となく。
中学までは生物部だったけど、高校では無かったんだよ。ニワトリとかウサギ飼いたかったのに。

得意科目は特にない。だいたいみんな平均点スレスレだし。Fランでもいいからとりあえず大学には行っとけ、っていわれたから、入試に向けて勉強してるとこ。

顔も、見たとおり普通だし。背も、クラスでは真ん中くらい。特技もない。あ、ゲートボールは得意かも。お祖母ちゃんに毎週付き合わされてるからな。
趣味は、……今思いつくものはないな。しいて言えば、ごろ寝?


そんな感じで。
俺はお祖母ちゃんっ子でゲートボールが得意な、ごく普通の高校三年生であるわけだよ。

それが。
夏期講習に出かけようと、家を出たら。

外が、異世界だったわけで。


は? ……何でここが異世界だとわかったかって?
だって。玄関から出たら、まわり一帯、ぜんぶ砂漠なんだぞ?
で、後ろ振り向いたら、ドア、ないでやんの。消えてんの。びっくりだよ。

その上、空にピンク色のドラゴンとか飛んでるし!


砂漠なのに、ラクダじゃなくて、見たことないような変な生き物に乗ってる人もいるしで。
……え、砂漠トカゲっていうの? あれ。
知らないよ。
どっちも、元の世界に存在しないもん。


ああ夢か。外暑いもんな、と思って太股つねったら、普通に痛いしさ。


◆◇◆


何で俺なわけ? 何の特技もないし、何でこんな平々凡々もいいところの普通な俺が、そんな、物語の主人公みたいな目にあっちゃってるの? って思ったけど。
来ちゃったもんはしょうがないじゃん?

とりあえず、掛けるよね、声。その辺の人にさ。
ここ、どこですか? って。

そしたら。


『なにこれ』
『すごい……変わってる子だね……』
とか言いながら。

見たこともないような超絶美形様ばかりがわらわらと寄ってきちゃって。

俺の顔を覗き込んで、面白がって。
足が長くないだとか腰が細くないだとか、指が細くないとか鼻低いとか睫毛が少ないとか一重だーとか平たい顔だとか。うっせえわ!
俺は普通です!!! これは平均的日本人の容貌なんです!!!!
と、ムカムカしてたら。


『なんか見慣れると……カワイイ……?』
『これ、失われた”カワイイ”じゃないの?』
とか言われて。

ざわめきが広まって。
またもやわらわらと人が集まってきちゃって。
なんか大騒ぎになっちゃって。

それで、あんたらに引っ立てられることになったんだよ! わかったか!!


……一気に喋ったら、疲れた。

喉渇いちゃったじゃんか、もう。
外は暑かったし。砂漠だしさー。サイアクだよ、もう。

もーもー言ってたら牛になりそうだよ。んもー。


◆◇◆


『なるほど』
紫のビンディ? あの、インドの人がつけてるみたいなのが額にある男、ウルジュワーンは頷いた。

こいつも超絶美形だった。
ターバンは巻いてないけど、インドの王子様みたいな雰囲気で。
肌の色は黒く、髪も黒いけど、瞳は紫だ。

白いシャツの上に、着物っぽい服を羽織っている。
地が黒色で、紫と白と金の糸で細かい模様が描かれた、高そうな着物だ。
ベルトは黒革で留め金が金。獅子っぽい模様が刻印されてて。指には高価そうな指輪がいくつもはまってる。

服の豪華さもそうだけど。
この人だけ立派な椅子に座っているので、偉い人なのかもしれない。
威厳というか、オーラみたいなのを感じる。


俺は只今、お城の中に引っ立てられて。
地下にあるらしい、石造りの小部屋で尋問中なのであった。


別に縛られてはいないけど。
両脇に、俺を引っ立てた人たちが控えてる。

『……信じるのか?』
と疑わしげに俺を見たのは、青色の以下略男、アズラク。

肌の色は白く、長い銀髪? で、目は青い。耳はとんがってる。
エルフみたい。クールそうな超絶美形だ。

どうやらこの人、警察的な役割の人らしい。
きっちりした、襟の高い、白い制服っぽい感じの服を着ている。ベルトは茶色の革で留め金が金。留め金にある模様は同じだ。腰に長剣。……これ、本物かな?


『嘘をついているはしない』

ウルジュワーンは、唇をわずかに笑みの形にした。
それだけで動悸息切れめまいが起こりそうなのは、超絶美形の効能だろうか。美形の微笑みって、心臓に悪いんだな。


つか匂いって? 俺、そんな匂いするのかな。
風呂は毎日入ってるけど。

『貴方がそう言うのなら、そうなんだろうが……』
アズラクは、俺をぎろりと睨むのをやめない。

何でそんなに怒ってるの……? カルシウム不足かな?


『お茶どうぞー。毒は入ってないよ?』
と、笑顔でお茶を手渡してくれたのが、桃色のアズハル。

肌色は白人っぽい。背中まである、ピンクっぽい金髪。
目は桃色じゃなくて、赤っぽかった。

優しいお姉さんのような超絶美形だが、残念ながら男性だ。
細身に見えて、意外と力持ちだった。
アズラクとお揃いの服を着ていて、腰にはやっぱり剣を携えてる。


「ありがとう」
あ、お茶うめえ。

器も陶器で、なかなかのお品っぽい。結構なお手前で。
作法とか知らないけど。


『ほら、こんな無防備に出されたお茶飲む子が、スパイなわけないでしょ?』
アズハルがぽん、と俺の肩を叩いた。


ん? どゆこと?
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