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春の国

春から夏へ。ただし過去の。

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ラグナルは、少し考えて。

『よし、”夏の国”に行ってみよう』
「えっ!?」

決断早いな。


『なに、飛竜に乗ればすぐに着く』
と言って。俺を荷物の様に肩に抱え上げた。

ずいぶんフットワークの軽い王様だ。


弟2人は、諦めたような表情でこちらに手を振っていた。
どうやらこの行動の早さは日常茶飯事っぽい。ご愁傷様だ。


◆◇◆


ここ、飛竜がいるんだ。
……って、そういや”夏の国”でもピンクのドラゴンが飛んでるのを見たっけ。

わあ、銀色のドラゴンだ。
竜舎? には、白いドラゴンもいた。何色あるんだろう……。


ラグナルは、ドラゴンにつけた馬の鞍みたいなやつの上に跨って。
俺を自分の膝に乗せて、腕の中に抱えた。

これが一番安全な乗り方だという。

向かい合わせで、胴体に掴まるよう言われて。
見上げると、ラグナルはゴーグルみたいなのを装着していた。飛行機にでも乗るような装備だ。


『飛ばすぞ。しっかり掴まっていろ』
と、手綱を引いたら。


うわあ。
浮いた!

ぎゃあ、加速した! Gが! Gが頭に掛かってる! 背が縮む!!


ゴーグルが必要なはずだ。風圧から目を保護しなきゃ危ないもんな。
鳥とかと正面衝突したら大惨事じゃん!

竜に近寄るような鳥はいないし、鳥が飛ぶような高度じゃない?
そりゃ良かった!


ラグナルは前傾姿勢になって。
なるべく俺に風が来ないようにしてくれてるみたいだけど。

すごい速度で飛んでるもんだから、めちゃくちゃ怖い。

もちろん、景色を見てる余裕なんかなくて。
目を閉じて、ただラグナルに掴まっているだけでいっぱいいっぱいだった。


◆◇◆


『……着いたぞ、』
頭をぽん、と叩かれた。


うう、腕が疲れた……。

一時間も経ってはいないと思うけど。
意外に近いのか、それとも飛竜が速いのか。どっちだろ? どっちもかな?


眼下は、ほとんど砂漠。……ああ、”夏の国”だ。
今朝ぶりじゃん。

……あれ? でも。
石造りの、平屋が連なってるだけで。

「お城が、無くなってる……」


制服を着てる人もいない。
みんな、砂漠の民っぽい、シンプルな、布を被ったような服だ。

『城? ”夏の国”に、城など存在したことはない。ここは有史よりこの状態だ』
ラグナルは、手で地上を示した。

昔から目立った文化の発展もなく。
砂漠の民が、のんびり暮らしているという。


『先程、そなたの話を聞いて。おかしいと思ったのだ。自動人形? 火ではない灯り? 冷蔵庫? 砂漠の国だというのに、豊かな水? そのようなものは。そして、我が国はおろか、世界的に、人口はそれほど減少していない。……今のところは、だが』


「で、でも、確かに見たんだ!」
落ち着け、と頭を撫でられる。

『そなたが嘘を言っていないのは、この”印”が教えてくれている。つまり。考えられるのは』
青と茶色の、不思議な瞳で見詰められて。


『そなたは、”未来”からやって来たのではないか?』


◆◇◆


過去に飛ばされたため、額の印も消えたのではないか、という。


信じられないけど。
異世界に来てること自体がもう、アンビリーバボーだ。

確かに、それなら説明つく……かも……?


『ふ、……くっくっくっ、面白いぞ。……これで、確信を得た』
あ、何か悪い笑い方してるこの人。

『そなたが今、この時代に来たのは、わたしに会うためだ! さあイチ、未来の話をもっとするがいい。わたしがそれを実現しようではないかッ! この発明王、ラグナルがな!』

うわー、テンション高い。
ラグナルって、こういう人だったんだー。


ラグナルは、発明家らしい。
変人過ぎるせいで、国王なのにモテないとか。
さもありなん。


『”夏の国ソンメラ”は一年中ソンメルだから”夏の国”なのだ。知っていたか?』
そうなんだー。


飛竜を操って。
帰りはゆっくり、この世界の説明をしながら飛んでくれた。

『……いかん。ずっとここにいたら、頭が茹だりそうだ……』


話を聞いた時点で、疑問を持っていたようだけど。
俺をわざわざ”夏の国”に連れてったのは、自分の目で確認させたかったかららしい。

見ないことには、信じないだろうし。

確かにそうだ。
自分の目でこうして見るまでは、信じられなかったと思う。


ただの変人かと思ったけど。
ラグナルって、優しい人なのかな?


◆◇◆


『見よ! 自動人形アウトイェンデュッケの試作品が出来たぞ!』
得意満面な発明王・ラグナルが研究室から出てきて。

ロボロボしい物体を持ってきた。
人工筋肉みたいのがむき出しで、怖いです……。

顔は陶器製で、からくり人形みたいだった。
骨組みと、関節部分が丸見えで、まだ髪もない。試作品だから仕方ないか。

指というか手は、やたら細かくリアルに作られてる。シリコンっぽい素材だ。
ものを掴みやすいように、ちゃんと考えられてるんだな。


『下手に表情や感情を入力すると気持ち悪いので、あえて無表情で、入力された命令のみきくようにしたのだ』

不気味の谷現象ってやつかな?
デフォルメされた人間は可愛く見えるけど、中途半端にリアルだと、微妙に違和感があって気持ち悪い、ってやつ。


『二本足でバランスを取らせるのはややこしいので、とりあえず試作品はキャタピラ移動にした』

祖母ちゃんとNHKみてて、ロボットコンテストとかやってたの思い出す。
二足歩行はジャイロだか何だかの調整がかなり難しくて。最近やっと、実現したんだっけ?

自覚はないけど。
人間の身体って、凄いんだな。
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