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春の国

春の夜の夢

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こんにちはグダーグ
おお、喋った。


カタカタと、トレイを持った人形が寄ってくる。

人形は、シリコン製の手を器用に動かして。茶葉から、ちゃんと人数分の紅茶を淹れた。
蒸し時間までプログラムされてるんだ。すごい。

茶漉しを使って紅茶を人数分注ぎ。
みんなの前に置いて。

一礼をして、停止した。


「すごい! ほんとに再現しちゃった!」

俺の頼りない記憶で、こんなの作っちゃうなんて。
ラグナル王ってば、天才過ぎる。


◆◇◆


あれから。

”夏の国”で見たやつだけじゃなく。元の世界で見た機械とか。
便利な道具を、覚えてる限り聞き出されて。細かくメモをとっていた。

再現可能なものならば全て作ってみせよう、と言って。
ラグナルは、それを有言実行してみせたんだ。


天才ってすごい。
才能だけじゃなくて、努力もすごいけど。


『兄上、この紅茶、ちゃんと美味しいですよ!』
青い目の弟、イーヴァルも感動している。

うんうん、すごいよな。
江戸時代あたりにこんなの持ってこられたら、腰抜かすレベルだよ。いや、現代でも驚くか。

『初めて、実用的な発明をしましたね!』
酷い言われようだった。


『うむ、今のところ、できるのはこうして茶を淹れて配るのみだが。それでも茶葉の量や蒸らし時間など、一つ一つの動作をこちらがこと細かに入力する必要があり、面倒なのだ。しかし用途により違った動きをする自動人形を作り、それらのデータを共有させ、記録することを繰り返せば、やがて全ての家事を任せられるようになるだろう』

『兄上、こちらにもわかる言葉でお願いします……』
茶色い目の末弟ハーラルは困惑して、眉をハの字にしている。

それでも超絶美形は崩れないんだから、ずるいよなあ。


ここまで知能が飛びぬけてると、そりゃ何言ってるかわかんなくて、変人扱いされるだろうな。
いくつかの文明飛び越えてるレベルだもん、ラグナルの頭脳って。


「えーと、今はまだ、この子はお茶汲みしかできないけど。掃除用人形とか、料理専用人形とか作って、その子達の能力をひとつにまとめたら、家事万能になるってこと」

『ははあ、なるほど。それは楽しみですね!』
ハーラルは笑顔になった。

美形兄弟の笑顔が眩しいぜ……。


◆◇◆


『二足歩行の演算をどうするかが課題だな。見た目が美しくない』
ラグナルは顎に手を当て、考え込んでいる。

「スカートで下半身を隠せば、問題ないんじゃないの?」

見た目にこだわるとはナンセンス! いいじゃんキャタピラ。
男の子なら、バケットホイールエクスカベータとか、憧れるもんだろ?


『足が無いと、階段などの段差が上がれないではないか』

足なんて。
あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのです。

「キャタピラかませれば上がれるよ。それか、いっそ階段のほうを動かすのは?」
エスカレーターとエレベーターがあれば問題ないし。

『ほう、それは名案だ』

こんな感じのもの、と説明したら。すぐに理解してくれた。
さすが、天才発明家だ。


『ああ、わけのわからないことを言う人が増えてしまった……』
ハーラルは溜め息をついた。


今に、いろんな人がラグナルの頭脳に感謝する時代が来ると思うよ?
それが何年後かは、わからないけど。


◆◇◆


自動人形、エスカレーターにエレベーター、LEDに冷蔵庫。

あっという間に完成させちゃうんだから、すごい。
動力は、電力じゃなくて魔力とかだけど。


ああ、進化をすっ飛ばしたオーパーツ的なものが、どんどん出来ていってしまう。
これでいいのか異世界……。

神様的な存在の仕業かもしれないけど。
それ・・は何で、”夏の国”から俺を過去の”春の国”に飛ばしたんだろう。

ラグナルに、未来の知識を与えるため?
ほんとに、それだけ?


”夏の国”での俺の役割は、何だったんだろう。

わかんないけど。
それが終わったから、ここに飛ばされたんだと思う。


だったら。
俺、もう二度と、ウルジュワーンには会えないの?

そんなの、嫌だ。

ウルジュワーンに会えないなんて。
ハルさんやラクさん。みんなに、会えないなんて。


ごめん、父さん母さん、祖母ちゃん。
俺、親不孝ものだよね。


元の世界に帰りたいって思うより。
何よりも。

ウルジュワーンの元に、帰りたいと思ってるんだから。


◆◇◆


『そこで鳴いているのは小夜鳴鳥ナッテガルかな?』


「!?」
ラグナル。

寝巻きにガウン姿のラグナルが、俺に手を差し出した。


金色の髪が月光に照らされて。
眩しいほどのラグナルの美貌が、優しく微笑んだ。

『今宵はモーネが美しい。……おいで?』


まるで、妖精王が夜の誘いに来たように見えた。
あまりに幻想的で。

夢の中にいるみたいな気持ちで、差し出された手を取った。


庭の、東屋あずまやに連れて行かれた。

薔薇のアーチがあったり、色とりどりの花に囲まれている。
木で作られた椅子にクッションが置かれてるので、それに座った。


さすが”春の国”。花盛りだ。
月の光に照らされて、夜露に濡れた花も輝いて見えて。すごく綺麗だ。夢みたいに。


自動人形が、お酒とジュースを持ってきた。

『部屋に戻れ』

はいヤーご主人様ドミナ
礼をして、戻っていった。

動きもなめらかになって。
もうすっかりベテランメイドみたいだ。


『今宵の月に、』

乾杯して。
俺は未成年だから、ジュースを飲む。

……何の果物なんだろ、これ。甘くて美味しい。


ああ。
今日は満月だったんだ。すごく大きく見える。

でも、これ目の錯覚なんだっけ。不思議だよな。


◆◇◆


『今まで、発明の話など。誰にしても、狂人扱いだった』
ラグナルは、綺麗な満月を見上げながら言った。

それは、わからなくもないかな。
だって。ラグナルの頭脳は、飛び抜けすぎてる。


人間っていうのは自分の理解できないものは否定したくなるんだ。
誰だって、自分が劣ってるなんて、思い知りたくないもんな。

でも、個性は大事にするもんだって。祖母ちゃんが言ってたよ。



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