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冬の国
黒に染まれ。
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ザラームはずっと、自分の力は人を傷つけるだけのものだと思っていたらしい。
だから、なるべく他人に近寄らないようにしていた。
それで、同じ強い”印持ち”だというのに他人から慕われている発明王に憧れていた、と。
ラグナルも、はじめから慕われていたわけじゃない。
謂れのない差別に悩み、苦しんでいた。
それでも、なんともない風に笑ってみせた。強い人だった。
『じゃあさ。幸運を運んできたのは、オッドアイじゃなくて、イチだったんだな』
「え?」
『発明王は、イチがたくさんの喜びと愛と幸福を与えてくれたって言ってたじゃん。俺も、もらったよ』
まさか、自分に人を助ける力があるなんて。今まで、思ってもみなかったことだという。
壊すだけの力だと。
『この力の可能性を気付かせてくれたのが、イチだ』
黒の印にマイナスのイメージがあったために、良くないものだと思い込まされていたようだ。
傍目八目ってやつで。当事者じゃないから気軽に言えただけ。買いかぶりだ。でも。
「じゃあ、俺がこの国に飛ばされた意義、あったかな?」
『当然、』
ザラームはいたずらっ子みたいな笑顔で。
俺に、キスをした。
◆◇◆
偉大なる発明王ラグナルが、生涯かけて愛した、后妃イチ。どんな人だったのだろう。
ひと目で恋に落ちたという。とても愛らしい人だったと。
俺も、運命の相手に出会えたらいいのに。
視察の旅の途中。
見たこともないくらい、かわいい子を拾って。
それがあの、発明王の后妃イチだった。
何という運命的な出会い!
俺の運命の相手かもしれない、と胸が高鳴った。
まさかシグルズ前王が、その子の子供だとは思わなかった。
自伝には、そのことについては書かれてなかった。
愛し合って、子を授かってたんだ。
発明王は魅力的だもんな。惚れるのも当然か。
ヴォルンドル現王から、イチは神によって使わされた存在なのだと言われた。
発明王は、その出逢いにより、世界を変えた。
次は、貴方の番だと。
だが俺に、何が出来るというのだろう。
強い力を持っていても、これは、人を傷つけることしかできない。
衰え行く自国を救う手立ても何も思いつかない、この無能な王に。
連れ帰って。
国王としての自覚のなさを指摘されてしまった。
しかし、見捨てることはなく、国を立て直すのを手伝ってくれると言ってくれた。
未来の知識は素晴らしいものだった。大変勉強になった。
そして。
自分の力が、人を傷付けるだけではないことを教えてくれた。
力も使い方次第で、人を救えるのだと。
発明王も、こうして励ましてもらっていたのだろうか? 悩みを聞いてもらい、心を癒してもらったのだろうか?
かけがえのない存在となったのに。
愛し合えばいなくなってしまうのが、恐ろしくはなかったのだろうか。
触れたい。
抱き締めたい。
その肌の熱を、知りたい。
だけど、愛し合ったら消えてしまうことがわかっているから。
失うのがこわくて、触れることすら躊躇った。
◆◇◆
……という、たいへん情熱的な告白をされてしまった。
ずっと触れないよう我慢してたけど、我慢も限界になったらしい。
自分のことを好きにならなくていいから、抱かせて欲しいって。
わりと、とんでもないこと言ってるけど。
まあ、俺も男だから、その気持ち、わからなくはない。
ザラーム、俺のことかわいいって思ってたんだ。
全然わかんなかった。
態度も、普通の友達にするみたいな感じだったし。
うっかり忘れてたけど。
この超絶美形だらけの世界で。俺は、”カワイイ”というカテゴリーに位置づけられていたんだった。
『で。……恥ずかしながら、俺、経験無くて……』
うん?
『下手でも、笑わないで欲しい』
真っ赤になって、そんなこと言われても。
「いや、俺も、そんな、比較できるほど経験豊富ってわけじゃないし……、」
上手いとか下手って、あるもんなんだろうか。
……痛くはなかったから、二人とも、上手かったのかな?
◆◇◆
ザラームが上着を脱いだ。いつも厚着だったからわからなかったけど。
かなりいい身体をしていた。
おお。
はじめて見た。これがザラームの、黒の印か。
胸に、左右対称に、イナズマモチーフのタトゥーみたいな模様と。中央に、黒い星。
腰を引き寄せられて。
ぎゅっと抱き締められる。
『王の寵愛を、受けよ』
胸の辺りが熱くなった。
俺のは稲妻じゃなく、雲っぽい模様になってる。
これが。
”冬の国”の后妃の印なんだ。
ザラームは、俺の胸についた印を見て。
『……知らなかった。俺って。嫉妬深かったんだな』
俺の左手を掴んで。
言った。
『黒に染まれ』
「えっ!?」
赤かった紋章が、黒くなってしまった。
『全部、俺色に染めたい。俺のものにしたい』
押し倒されて。告げられる。
『俺のことは、愛さないで。……ずっと、ここにいてくれ』
それは。
ある意味、熱烈な告白だった。
◆◇◆
初めてとか。絶対嘘だろ。
自分と同じモノは、そりゃ自分にするように弄ればいいだけの話だけど。
すごく手馴れてる感じがするのは何でだろう。
「ふぁ、あ、やだ、」
『ここ? ……想像より反応が良くて嬉しい』
妄想の中で何回も抱いてたとか、そういうのは本人に報告しなくていいから!
『慣らすの、もういい? 中、熱くてぬるぬるで気持ちよさそう。早くここに、挿れてえんだけど』
いちいち聞くのやめて欲しい。
痛くしないよう、気を遣ってくれてるんだろうけど。
ねちっこいっていうか。
『いい?』
耳元で囁かれて。
こくこくと頷いてみせる。
だから、なるべく他人に近寄らないようにしていた。
それで、同じ強い”印持ち”だというのに他人から慕われている発明王に憧れていた、と。
ラグナルも、はじめから慕われていたわけじゃない。
謂れのない差別に悩み、苦しんでいた。
それでも、なんともない風に笑ってみせた。強い人だった。
『じゃあさ。幸運を運んできたのは、オッドアイじゃなくて、イチだったんだな』
「え?」
『発明王は、イチがたくさんの喜びと愛と幸福を与えてくれたって言ってたじゃん。俺も、もらったよ』
まさか、自分に人を助ける力があるなんて。今まで、思ってもみなかったことだという。
壊すだけの力だと。
『この力の可能性を気付かせてくれたのが、イチだ』
黒の印にマイナスのイメージがあったために、良くないものだと思い込まされていたようだ。
傍目八目ってやつで。当事者じゃないから気軽に言えただけ。買いかぶりだ。でも。
「じゃあ、俺がこの国に飛ばされた意義、あったかな?」
『当然、』
ザラームはいたずらっ子みたいな笑顔で。
俺に、キスをした。
◆◇◆
偉大なる発明王ラグナルが、生涯かけて愛した、后妃イチ。どんな人だったのだろう。
ひと目で恋に落ちたという。とても愛らしい人だったと。
俺も、運命の相手に出会えたらいいのに。
視察の旅の途中。
見たこともないくらい、かわいい子を拾って。
それがあの、発明王の后妃イチだった。
何という運命的な出会い!
俺の運命の相手かもしれない、と胸が高鳴った。
まさかシグルズ前王が、その子の子供だとは思わなかった。
自伝には、そのことについては書かれてなかった。
愛し合って、子を授かってたんだ。
発明王は魅力的だもんな。惚れるのも当然か。
ヴォルンドル現王から、イチは神によって使わされた存在なのだと言われた。
発明王は、その出逢いにより、世界を変えた。
次は、貴方の番だと。
だが俺に、何が出来るというのだろう。
強い力を持っていても、これは、人を傷つけることしかできない。
衰え行く自国を救う手立ても何も思いつかない、この無能な王に。
連れ帰って。
国王としての自覚のなさを指摘されてしまった。
しかし、見捨てることはなく、国を立て直すのを手伝ってくれると言ってくれた。
未来の知識は素晴らしいものだった。大変勉強になった。
そして。
自分の力が、人を傷付けるだけではないことを教えてくれた。
力も使い方次第で、人を救えるのだと。
発明王も、こうして励ましてもらっていたのだろうか? 悩みを聞いてもらい、心を癒してもらったのだろうか?
かけがえのない存在となったのに。
愛し合えばいなくなってしまうのが、恐ろしくはなかったのだろうか。
触れたい。
抱き締めたい。
その肌の熱を、知りたい。
だけど、愛し合ったら消えてしまうことがわかっているから。
失うのがこわくて、触れることすら躊躇った。
◆◇◆
……という、たいへん情熱的な告白をされてしまった。
ずっと触れないよう我慢してたけど、我慢も限界になったらしい。
自分のことを好きにならなくていいから、抱かせて欲しいって。
わりと、とんでもないこと言ってるけど。
まあ、俺も男だから、その気持ち、わからなくはない。
ザラーム、俺のことかわいいって思ってたんだ。
全然わかんなかった。
態度も、普通の友達にするみたいな感じだったし。
うっかり忘れてたけど。
この超絶美形だらけの世界で。俺は、”カワイイ”というカテゴリーに位置づけられていたんだった。
『で。……恥ずかしながら、俺、経験無くて……』
うん?
『下手でも、笑わないで欲しい』
真っ赤になって、そんなこと言われても。
「いや、俺も、そんな、比較できるほど経験豊富ってわけじゃないし……、」
上手いとか下手って、あるもんなんだろうか。
……痛くはなかったから、二人とも、上手かったのかな?
◆◇◆
ザラームが上着を脱いだ。いつも厚着だったからわからなかったけど。
かなりいい身体をしていた。
おお。
はじめて見た。これがザラームの、黒の印か。
胸に、左右対称に、イナズマモチーフのタトゥーみたいな模様と。中央に、黒い星。
腰を引き寄せられて。
ぎゅっと抱き締められる。
『王の寵愛を、受けよ』
胸の辺りが熱くなった。
俺のは稲妻じゃなく、雲っぽい模様になってる。
これが。
”冬の国”の后妃の印なんだ。
ザラームは、俺の胸についた印を見て。
『……知らなかった。俺って。嫉妬深かったんだな』
俺の左手を掴んで。
言った。
『黒に染まれ』
「えっ!?」
赤かった紋章が、黒くなってしまった。
『全部、俺色に染めたい。俺のものにしたい』
押し倒されて。告げられる。
『俺のことは、愛さないで。……ずっと、ここにいてくれ』
それは。
ある意味、熱烈な告白だった。
◆◇◆
初めてとか。絶対嘘だろ。
自分と同じモノは、そりゃ自分にするように弄ればいいだけの話だけど。
すごく手馴れてる感じがするのは何でだろう。
「ふぁ、あ、やだ、」
『ここ? ……想像より反応が良くて嬉しい』
妄想の中で何回も抱いてたとか、そういうのは本人に報告しなくていいから!
『慣らすの、もういい? 中、熱くてぬるぬるで気持ちよさそう。早くここに、挿れてえんだけど』
いちいち聞くのやめて欲しい。
痛くしないよう、気を遣ってくれてるんだろうけど。
ねちっこいっていうか。
『いい?』
耳元で囁かれて。
こくこくと頷いてみせる。
応援ありがとうございます!
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