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冬の国

黒の印の力

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と、いう訳で。

”春の国”全面協力のもと、氷菓子製造機を作成。
機械の設計図は、すでにラグナルが作ってくれていた。

イチが来たら渡すように、と言付かっていたらしい。
ありがたく使わせてもらうよ。

ありがとう、ラグナル。


材料も、一時的に借金して、”春の国”から購入。売り上げで返す契約にした。
代金などいらない、とヴォルンドルは言ったけど。商売なので、そこんとこはシビアにお願いすると連絡した。


「でも、いっぱい買ってくれると嬉しいな、って言ったら、喜んで買ってくれるってさ。早速、大口顧客ゲットだな」

『ありがとう、イチ』
がしっ、と手を掴まれた。

『いくら感謝しても、し足りない。幸せにす……ダメだっ、愛したらいなくなるんだった! ああもう、神様の意地悪!』

机に突っ伏して、半泣きで机をバンバン叩いてる。
ザラーム面白すぎる。


俺にとって、ザラームは友達って感じで。愛が芽生えるのは難しいかもな。


◆◇◆


しばらく”冬の国”にいて。

ザラームが、あえて意識して、兵士とかに近寄らないようにしてることがわかった。
コートとか放り投げてたの、単にものぐさなのかと思ってたけど。

何か理由があるらしい。

それに、俺と一緒のときと言葉遣いや態度が全然違うのは、王様だからだと思ってた。
若い王様だから、舐められないようにしてるのかな、と。

何で城の兵士とか隊員たちと距離置いてんの? と本人に理由を聞いても。別に何でもない、と言葉を濁すので。


よく見かける、警備隊長のビンニーに聞いてみた。

ビンニーは、茶髪に青い目の超絶美形だ。
黒いコートに、警備隊の腕章をつけている。コートの下は防寒軍服だ。

『陛下は、お優しい方なのです。……イチ様は、大丈夫なのですか?』
「大丈夫って?」


ビンニーは俺の左手を見て。
ああ、とそれで、と納得していた。

ザラームは、黒の”印持ち”だった。

その凄まじい力は、人に影響を及ぼすほどで。
近寄っただけで体調を崩したりする人もいるらしい。

そのため昔は、黒の”印持ち”は魔女のあかしだと言われて、忌み嫌われていたくらいだという。

一応、”印持ち”同士なら、影響はないらしい。


◆◇◆


そういえば。
初めて会ったとき、俺の手にある印を見るまで、近寄ってこなかったっけ。

これも、そういう力があるのかな? お守り的な。


ビンニーら城勤めのみんなは、王が自分たちに距離を置いて、心を開いてくれないのを寂しく思っているようだ。

『イチ様と一緒におられる時。あのように楽しそうなお顔をされる陛下は初めてなのです。どうか、陛下をよろしくお願いします』
頭を下げられた。


よろしく頼まれても。
俺、いつまでいられるか、わかんないからな。って、今のところ、全然そんな気配はないけど。

子供できるような行為もしてないし。
態度も、友達っぽい感じだし。


黒と紫は滅多に生まれない、貴重なんだって言ってたっけ。
まだ紫は生まれてない、と即答できたのは。力の強い、印持ちの仲間を探してたからかもな。自分と一緒にいても、影響がないような。


でも、”印持ち”って。具体的に、何の力が強いんだろ。
伴侶に印を与えられるのと、嘘がわかるってことくらいしか聞いてないけど。

それは本人に聞いてみるか。


◆◇◆


『動物を操れたり、念じただけで人を殺したりできるらしい』

THE・中二病! みたいな能力だった。
動物は、指笛でドラゴン呼んだり、滅多に人に馴れないという狼犬ダーフィに懐かれたりしてたのがそうなのか?


「死ねって思ったら、死んじゃうの?」
『いや、もう少し具体的に念じなければダメだな。脳の血管が切れるように念じたり、心臓を破裂させたり出来る』

集中すると、血管や骨とかを透視して見ることができるようだ。
超能力みたいなものか。


「じゃあ、それって逆に、怪我人を助けることもできるんじゃね?」

『えっ?』
その発想はなかった、みたいな顔してるけど。

マジでなかったの?


と。
外から、凄い重い音が響いてきた。

「え、何だ今の音?」


すぐに報告の兵が来た。
運んでた石が崩れて。下敷きになった人がいるという。

駆けつけてみたら。

大きな石の周りで、人がざわざわしていた。
どうやら足を挟まれたようで。

木を使って、てこの原理でどかそうとしているところだったけど。
そんなことで持ち上がるような重さじゃないと思う。木が折れちゃうよ。


『どいていろ!』
と言って、ザラームが手をかざすと。

大きな石が、ふわりと浮いた。
周囲から、おお、と感嘆の声が上がる。

『どこにやればいい?』

『はっ、あちらにお願いします!』
そのまま目的の場所まで動かして、置いた。


確かにこれは、すごい力だ。重さとか関係ない感じに持ち上げてた。


◆◇◆


石の下敷きになった人は、足の骨が砕けているらしい。痛そう。


ザラームは、さっき俺が言っていたのを試してみるようだ。
「……できそう?」

『やってみる。……動くな、骨を繋ぐ』

ザラームは下敷きになった人の近くに座り、動くなと命じて。
左手で、俺の手を握った。

手、震えてる。

……がんばれ。
と思いながら手を握り返す。


『骨を元の位置に戻し、切れた血管を修復……』
右手は、ピアノを弾くように動いている。

ものすごく、集中しているのがわかる。

石を運んでいた他の人も、救出に来た兵士たちも。
固唾を呑んで、様子を見守っている。


『……終わった……』
ふう、と息を吐いた。

「足の具合はどう?」

『……すごい、痛くないです!』
下敷きになっていた人も、驚いている。そりゃそうだ。

『歩けます! 何ともありません!』
もう立ち上がって、歩けるようだ。


周りがざわめいた。

『これが黒の王の、偉大なる力……』
『神の力だ』

ザラームを讃える声がさざなみのようなものから、歓声へ。


ザラームは、俺を見て。
『出来た……俺に、こんな力があったなんて。……嘘みたいだ……!』

抱きつかれた。
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