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おまけ/小咄

カワイイは幸せ

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うまれたばかりの小鹿のよう。

誰が一番初めにそんな表現を生み出したのか。
素晴らしい、の一言だ。


「ハルぅ、これ、こわいんだけど……」

ふらふらしながら、ぼくを頼りない感じに見上げているアブヤドの、なんたる殺人的なかわいさよ。
ああもう、きゅんきゅんする。

ピンヒールを履いて、ワンピースを着て歩く、かわいい少年。

ヤバいよ。ヤバすぎる。
こんなカワイイの、外に出したら絶対襲われるに決まってる!


「大丈夫、ぼくが守るから!」
ひしっ、とばかりに抱き締める。

「? ありがと、ハル」
アブヤドはにこっと笑った。

んもー。カワイイなあ。

何て小さい身体なんだろう。イっちゃんを思い出す。
あの子もかわいかったなあ。


ぼくもああいう風に生まれてたら、人生違ってたかも。


◆◇◆


「一番危ないのは貴様だ、ハル」
背をぺしりと叩かれた。

ラクだ。
出たな、超過保護・世話係め。

もうじきアブヤドも15、大人になるというのに、まだ性教育もしてないとか。
どういうつもりなんだ。

ぼくは絶対教えるなっていわれたけど。どういうことだろう。
特殊性癖みたいに言わないで欲しいな。


だってさ。
強い力を持って生まれた男なら、自分より屈強そうな男を押し倒したいもんじゃない?

涙目で哀願されるの、滾るじゃない。
そんなんだから、なかなか子を授からなかったんだけど。


イっちゃんが消えてからウーさんの落ち込みようったら、見てらんなくて。

辛うじて、イっちゃんとの愛のあかし、アブヤドを授かっていたから留まれたって感じかな?
そうじゃなかったらとっくに世を儚んでたよね。

思い出してはため息ついてるし。

それじゃ忙しくして、回想してるどころじゃなくしようぜ! ってことで。
子作り大作戦実施したんだよね。


いや、愛情はちゃんとあったから、授かったんだけどさ。
あの時の相手とは別れちゃった。人の縁ってわりと儚いよね。

ウーさんは、あれでわりと責任感強いから。
みんなの子供を押し付けられても、文句はいいつつ、きっちり面倒見てくれたんだ。
子供達が学校に行くようになったら、寂しそうだったっけ。

意外にかわいいとこあるんだよね。ウーさん。

さすがに押し倒す勇気はないけど。
全然冗談通じないから。


◆◇◆


ウーさんは、一人で一人、子を生したから義務は果たした、と言って。
周囲が再婚を勧めるのを断った。

イっちゃんの他に、后をもつつもりはないんだって。
一途だね。


”夏の国”って、わりと、関係はゆるい人多いのに。
前の王様もかなりの遊び人だったし。
なのに、ウーさんてば夜遊びもしないんだから。真面目すぎるよ。

それだけ、イっちゃんのことが好きだったんだろうけど。


……ほんと、どこに行っちゃったんだろうね。イっちゃん。
戻っておいでよ。

ウーさんは、今もイっちゃんの帰りを待ってるよ?


「余の息子で遊ぶな」
よたよた歩いてるアブヤドを、ウーさんはひょいと抱えあげた。

「父上ー!」
父上大好き! って感じで抱き着いてるアブヤド、めっちゃかわいい。


いつまでもそのままでいて欲しいけど。
もうすぐ成人だなんて。かなしい。

アブヤドも、自分のこと”余”とか言っちゃうようになるのか。
ウーさんみたいにえらそげな物言いになっちゃうの? ヤダー。

ま、実際偉いんだけどさ。


世が世なら、ぼく不敬罪じゃない?
ウーさんってば寛大だよね。大好きだよ!


「……今、寒気がした」
ウーさんはぶるっと身体を震わせた。

失礼だな。


◆◇◆


アブヤドの儀式の最中。
イっちゃんが、どっかから降ってきた。

愛しのイっちゃんが帰ってきたよ! よかったね、ウーさん。


そして、夢のような、カワイイ親子が揃ったわけですよ。
カワイイが並んで、もう二倍以上カワイイ。
至福過ぎません?

録画装置持ってきてよかった。
儀式に参加できないラクのためだったけど。


イっちゃんは過去の世界で何人もの王をたらしこんで帰ってきたらしい。すごい。
あんなに印って、つけられるもんなんだね……。

カワイイのも、大変なんだな。


アブヤドは、儀式で白い印を授かった。
神に匹敵する力だとか。
カワイイ上に強いんだ。それって最強じゃない?


その後、イっちゃんは黒の王にさらわれたけど。すぐに戻ってきた。

黒の王ってば、イっちゃんに飼い馴らされてるみたい。
カワイイって、やっぱり強いんだなあ。

好きな人からは嫌われたくないし、逆らえないよね。


それにしても、黒の王って、そそるなあ。ぼくの好みだ。
いいカラダしてそう。

いや、押し倒さないけど。

印の力で若さを保つとか、すごいこと考えるよ。
イっちゃんと別れた時と、そのまんま同じ姿で、逢いたかったんだ。

こっちも一途だなあ。
300年も一人の人を想うなんて。気が遠くなっちゃう。


イっちゃんてば、イイ男から愛されすぎだよ。
ラグナル王とか、もう、伝説級のイイ男じゃないか。


◆◇◆


アブヤドが、何だか悩んでるみたいだった。
よくよく聞いてみたら。

自分より母上のほうがカワイイ? って。
んもう。
悩みまでかわいすぎ!


「ばかだなあ。アブヤドとイっちゃんのかわいさは、全然違うよ?」
ぼくはアブヤドの頭を撫でた。

「イっちゃんは天然だけど。アブヤドは、強くてかわいいんだから。唯一無二のかわいさだよ? ぼくはアブヤドのあざといかわいさも、イっちゃんの素であれなとこも、どっちも違ったかわいさだし、大好きだよ!」

「???」
ぼくの深い愛が理解できないようだった。
かなしい。


「ありがとう、ハル。わたしはわたしってことで。自信を持つね!」

アブヤドが、そんな悩みを持つなんて。
好きな子でもできたのかな?

こうしてみんな巣立っていくんだなあ。うんうん。


◆◇◆


ウーさんとイっちゃんが、子を授かってた。

また、カワイイが増えてしまうのか。
幸せすぎる。


やっぱりカワイイは正義だよね。
人を幸せにしてくれる。


神様、ぼくたちの世界にイっちゃんを連れて来てくれてありがとう。
心からお礼を言うよ。




おわり
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