超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。

篠崎笙

文字の大きさ
49 / 51
黒の王とスキーに行く

白の王子アブヤド

しおりを挟む
15歳の印を授かる儀式の日。

わたしは、今まで離れ離れであった母上を初めて見た。
話だけはたくさん聞かされていた。生まれてすぐに消えてしまったという母上。


わたしの母上は、とても愛らしい人だった。
わたしは幼い頃からかわいいかわいいと言われて育ってきたけれど。

それは、母上に少し似ているから、であったのだ。


皆からかわいいといわれる容姿を得意に思っていた自分が恥ずかしくて。
もう穴があったら入りたいくらいだ。


◆◇◆


元”冬の国”の国王、ザラーム。

300年前にわたしの母上と契りを結び、突然失った母上を探して。
今まで、この世をずっと彷徨っていたという。

父上も、ずっと15年前に消えてしまった母上を想っていた。
いくら勧められても後添えなどいらぬ、と突っぱねて。

そこまで愛されて、母上はとても幸せだと思う。


しかし、そこまで母上を愛しているというのに。
何故、ザラームはわたしを連れて、出てきてしまったのだろう。300年ぶりの再会なのだから、もう少し味わってもよいものでは?

わたしとしては、嬉しいけれど。


「アブヤド、力には頼るなよ」
「はい」

わたしは今、”冬の国”で、ザラームにスキーという遊びのやり方を教わっている。

こんな細い板で雪の傾斜を滑るという。
大丈夫なのだろうか。折れてしまわないだろうか。

勢いがつきすぎたら、転んだときに痛そうである。

「危なかったら、を使ってもかまわないからな?」
からからと笑っている。


少し年上のお兄さんにしか見えないのに。冬の国では神王と呼ばれていて。318歳なんて。
印の力というのは、すごいものなのだなあ。

わたしに力の使い方を教えてくれて。ラクの足を治すことが出来た。

ラクの足は、わたしを庇っての怪我だった。
仕事であるし、怪我は自分が未熟ゆえ、と言っていたが。治せてよかった。

空の飛び方も教えてくれた。
飛竜を呼ばずとも、自由に飛べるとは素晴らしい。


ハノジとは何なのかわからないけれど、とにかく”ハノジ”を”キープ”……維持するらしい。この足の形がハノジであるのか。

母上の国の言葉なのだろうか、ハノジ。後でたずねてみよう。


「ようし、アブヤドは筋がいいぞ。……アズラク、へっぴり腰になってんぞ。しゃんとしろ」

「し、しかし、……うわあ、勝手に板が動く!?」
ラクにも、苦手なものがあったのだな。

え。
こっちに向かってくるのはやめてくれないだろうか。

「よ、よけてください!」

ラクがわたしにぶつかる手前で。
ザラームがラクをひょい、とつまみあげた。力持ちだ。

「アズラクは初心者用コースで自主連な!」


……ふう、びっくりした。

そうだ、を使って回避すればよかったのだ。
まだ使い慣れぬゆえ、戸惑うが。


ザラームが見ていてくれるのであれば、安心できる。


◆◇◆


ラクは練習でくたびれて部屋で寝ているので。
ザラームと二人で風呂に行った。

露天風呂は、雪山が見えて見るからに寒そうであったが、湯は熱すぎずぬるすぎず。丁度良いあたたかさで、心地好い。

白に覆われた、寒々しく思えた景色も悪くないと思うようになった。
”冬の国”が観光地として人気なのも納得であった。


サービスだと、氷菓子を出された。
我が”夏の国”では貴重品だったものである。

こうして温泉に浸かりながら、冷たい氷菓子を食すとは。
なんと贅沢なのであろうか。

「美味しい」
母上の作った氷菓子のほうが美味に思えたが。それは、皆で食したからであろうか?

ザラームはすっかり解放された気分のようで、両脚を放り出している。
……あの、丸見えですよ?


宿ごと貸切だと言っていた。
私とラクを連れて行くと連絡を入れたら、宿の者が気を利かせたそうだ。

ザラームは国王を引退した後も神王と呼ばれ、今も民から慕われている。
今日も温泉を掘り当て、そこは早くも名所となって、多くの人が見物に集まっているという。


”冬の国”は現在、母上の曾孫であるトールとザラームの子孫が国王をしているというが。

どのような気持ちで、子を授かったのだろう。
トールは、自分が身代わりだとわかっていても、何故、ザラームを愛せたのか。

ザラームも。
母上を愛しながら、トールを愛せたのは何故なのか。

大人の愛とは、わからぬものである。


否、わたしももう印を授かった、立派な大人であった。
この印に負けぬ、立派な王となろう。


◆◇◆


「いい湯だな」
ザラームはタオルを額に乗せた。


黒い印を取り巻く模様が、指先まで。
見れば全身、雷が走っているような模様で。それは、老化の細胞を弄ったときにそうなったという。

……模様の下は、よく視えない。

ずいぶん、無茶をしたようだけれど。
死滅した細胞もあるのでは?


「もう、充分生きたと思うんだよなー」
ザラームは空を見上げながら言った。

「イチにも逢えたし。心残りは、ないかな」

それは。まさか。

「ダメです!」
わたしは思わずザラームの腕を掴んだ。


「……イチは、紫の……ウルジュワーン王を愛してる。ずっと、あいつに逢いたいと想いながら、俺に抱かれてたんだよな。戻るために」
俯いてしまった。

「あんな幸せそうな顔見せられちゃ、邪魔できないだろ」


だから。
二人きりにしてやろうと、去ったのだ。

同じくお邪魔虫であろう、わたしを連れて。


ザラームは、優しすぎる。
腹が立つほどに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ
BL
不慮の事故により、異世界に転移することになった神木周。 心残りは、唯一の家族だった愛猫・ネロのことだけだった。 ──目覚めた草原で再会したのは、見覚えのある大きな黒い獣。ネロが追いかけてきてくれたのだ。 わからないことばかりの異世界だけど、ネロがいるからきっと大丈夫。 少しずつ心をほどき、神に招かれた世界で穏やかな毎日を楽しむ周たち。 しかし、そんな彼らに不穏な気配が忍び寄る―― 一人と一匹がいちゃいちゃしながら紡ぐ、ほのぼの異世界BLファンタジー。 こんにちは異世界編 1-9 話 不穏の足音編 10-18話 首都編 19-28話 番──つがい編 29話以降 全32話 執着溺愛猫獣人×気弱男子 他サイトにも掲載しています。

処理中です...