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黒の王とスキーに行く

白の王子アブヤド

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15歳の印を授かる儀式の日。

わたしは、今まで離れ離れであった母上を初めて見た。
話だけはたくさん聞かされていた。生まれてすぐに消えてしまったという母上。


わたしの母上は、とても愛らしい人だった。
わたしは幼い頃からかわいいかわいいと言われて育ってきたけれど。

それは、母上に少し似ているから、であったのだ。


皆からかわいいといわれる容姿を得意に思っていた自分が恥ずかしくて。
もう穴があったら入りたいくらいだ。


◆◇◆


元”冬の国”の国王、ザラーム。

300年前にわたしの母上と契りを結び、突然失った母上を探して。
今まで、この世をずっと彷徨っていたという。

父上も、ずっと15年前に消えてしまった母上を想っていた。
いくら勧められても後添えなどいらぬ、と突っぱねて。

そこまで愛されて、母上はとても幸せだと思う。


しかし、そこまで母上を愛しているというのに。
何故、ザラームはわたしを連れて、出てきてしまったのだろう。300年ぶりの再会なのだから、もう少し味わってもよいものでは?

わたしとしては、嬉しいけれど。


「アブヤド、力には頼るなよ」
「はい」

わたしは今、”冬の国”で、ザラームにスキーという遊びのやり方を教わっている。

こんな細い板で雪の傾斜を滑るという。
大丈夫なのだろうか。折れてしまわないだろうか。

勢いがつきすぎたら、転んだときに痛そうである。

「危なかったら、を使ってもかまわないからな?」
からからと笑っている。


少し年上のお兄さんにしか見えないのに。冬の国では神王と呼ばれていて。318歳なんて。
印の力というのは、すごいものなのだなあ。

わたしに力の使い方を教えてくれて。ラクの足を治すことが出来た。

ラクの足は、わたしを庇っての怪我だった。
仕事であるし、怪我は自分が未熟ゆえ、と言っていたが。治せてよかった。

空の飛び方も教えてくれた。
飛竜を呼ばずとも、自由に飛べるとは素晴らしい。


ハノジとは何なのかわからないけれど、とにかく”ハノジ”を”キープ”……維持するらしい。この足の形がハノジであるのか。

母上の国の言葉なのだろうか、ハノジ。後でたずねてみよう。


「ようし、アブヤドは筋がいいぞ。……アズラク、へっぴり腰になってんぞ。しゃんとしろ」

「し、しかし、……うわあ、勝手に板が動く!?」
ラクにも、苦手なものがあったのだな。

え。
こっちに向かってくるのはやめてくれないだろうか。

「よ、よけてください!」

ラクがわたしにぶつかる手前で。
ザラームがラクをひょい、とつまみあげた。力持ちだ。

「アズラクは初心者用コースで自主連な!」


……ふう、びっくりした。

そうだ、を使って回避すればよかったのだ。
まだ使い慣れぬゆえ、戸惑うが。


ザラームが見ていてくれるのであれば、安心できる。


◆◇◆


ラクは練習でくたびれて部屋で寝ているので。
ザラームと二人で風呂に行った。

露天風呂は、雪山が見えて見るからに寒そうであったが、湯は熱すぎずぬるすぎず。丁度良いあたたかさで、心地好い。

白に覆われた、寒々しく思えた景色も悪くないと思うようになった。
”冬の国”が観光地として人気なのも納得であった。


サービスだと、氷菓子を出された。
我が”夏の国”では貴重品だったものである。

こうして温泉に浸かりながら、冷たい氷菓子を食すとは。
なんと贅沢なのであろうか。

「美味しい」
母上の作った氷菓子のほうが美味に思えたが。それは、皆で食したからであろうか?

ザラームはすっかり解放された気分のようで、両脚を放り出している。
……あの、丸見えですよ?


宿ごと貸切だと言っていた。
私とラクを連れて行くと連絡を入れたら、宿の者が気を利かせたそうだ。

ザラームは国王を引退した後も神王と呼ばれ、今も民から慕われている。
今日も温泉を掘り当て、そこは早くも名所となって、多くの人が見物に集まっているという。


”冬の国”は現在、母上の曾孫であるトールとザラームの子孫が国王をしているというが。

どのような気持ちで、子を授かったのだろう。
トールは、自分が身代わりだとわかっていても、何故、ザラームを愛せたのか。

ザラームも。
母上を愛しながら、トールを愛せたのは何故なのか。

大人の愛とは、わからぬものである。


否、わたしももう印を授かった、立派な大人であった。
この印に負けぬ、立派な王となろう。


◆◇◆


「いい湯だな」
ザラームはタオルを額に乗せた。


黒い印を取り巻く模様が、指先まで。
見れば全身、雷が走っているような模様で。それは、老化の細胞を弄ったときにそうなったという。

……模様の下は、よく視えない。

ずいぶん、無茶をしたようだけれど。
死滅した細胞もあるのでは?


「もう、充分生きたと思うんだよなー」
ザラームは空を見上げながら言った。

「イチにも逢えたし。心残りは、ないかな」

それは。まさか。

「ダメです!」
わたしは思わずザラームの腕を掴んだ。


「……イチは、紫の……ウルジュワーン王を愛してる。ずっと、あいつに逢いたいと想いながら、俺に抱かれてたんだよな。戻るために」
俯いてしまった。

「あんな幸せそうな顔見せられちゃ、邪魔できないだろ」


だから。
二人きりにしてやろうと、去ったのだ。

同じくお邪魔虫であろう、わたしを連れて。


ザラームは、優しすぎる。
腹が立つほどに。
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