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海瑠の使命
演じるもの
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「……気づいたことがあるんだ」
海瑠は、王子と騎士たちに自分の推論を話した。
海神の神官から聞いた話。
海瑠の歩いた後、花が咲いて。
花びらは、清浄な空気を残して消えたらしいということ。
不思議な黒いキツネから聞いたこと。
泣いた途端、窒息したようになり、どす黒く顔色を変えた赤ん坊。
これらを総合すると。
「この世界の空気は、女性にとって、毒になるんだ。だから、空気を吸った女性は皆、死んでしまう。……女神は、女性をこの世界から呪いによって消したんじゃなくて、さっきみたいに、別の世界に避難させてあげたんじゃないかと思う」
◆◇◆
噂では、女神の呪いで女性を消した、というが。
1800歳のメレディスの話によると、段々女性の数が減っていって。ある日忽然と消えたという話だ。
女性が減ったのは、何らかの理由で、この世界の空気の耐性がなくなっていったせいではないだろうか。
海神の神官は引きこもりなので、そういう話は他国には出ない。
だから、誤解ばかりが広まったのだ。
消したのではない。
おそらく、シーナと同じように、他の世界に送ったのだろう。
海瑠が歩いた後には、花が咲く。
花は、清浄な空気を残して消える。
あの花には、女性の危害になるそのなにかを、浄化させる役割があるのではないか。
だから。
「この世界を、こうして、女性の存在をアピールしながら、見てまわるのが。おれの……新しく誕生した女王の役割だと思う」
”女”という、もう一つの性の存在を思い出させて。
清浄な空気へと浄化された世界で。
後に女性が生まれてくる、その時のために。
喜びを持って、その誕生を祝えるように。
その前触れとして、選ばれたのだ。
民から愛される”女王”を”演じる”ようにと。
海瑠は。
女神から直々に選ばれた、”役者”だった。
◆◇◆
『え、でも。陛下は女性なのに、何故ご無事なのですか? 異世界の生まれだからですか? それとも、女神のご加護で……?』
ウォーレンが不思議そうに首を傾げた。
それに対し、ジェラルドが呆れたように言った。
『……陛下が女性であったら、卵ではなく、その身の内で御子を育てられた筈だろう』
そう。
千年以上の、長い、男性のみの世界で。
女神の加護により、当たり前だった常識が失われていたのである。
そもそも人間は、卵を産まない。
孕んで一日で赤ん坊は生まれない。
基本的に、男は子を産めない。そのための器官を、持っていないのだ。
『あっ……。で、では、男性なのですか!?』
この二人は、海瑠が本当は女ではないことを知らされてなかったのか。
どうやらジェラルドは気付いていたようだが。
『女王陛下は女王陛下だ。ウォーレン』
『……そうでした。取り乱し、失言をお許し下さい。失礼いたしました、陛下』
ジェラルドに窘められ、ウォーレンが頭をかいた。
「視察はこのまま続けます。……これからも、護衛の役、よろしくお願いしますね?」
海瑠は、生まれながらの女王のように。
優雅に美しく微笑んで見せた。
騎士たちのみならず。
二人の王子もその笑顔に頬を染めたのだった。
◆◇◆
「ところで、何でオーランドはおれに丁寧語で話すわけ?」
『レディには丁寧な言葉遣いで話すものだと、書物で勉強したのです。敬語を使う男からの下克上はことのほか燃える、とありましたので! 敬語攻め、と呼ぶそうです!』
オーランドは得意げだった。
「そうか……」
城の図書室とは、いったいどんなマニアックな蔵書揃いなのだろう。
海瑠は遠い目をした。
ふと。クリシュナと目が合った。
ふっ、と優しい笑みを浮かべたクリシュナを見て。
海瑠の鼓動が跳ね上がった。
彼の子を産んだからだろうか。
旦那だと紹介して、親公認になったからだろうか。両方か。
クリシュナが海瑠を見る目が、やたら甘い。
どきどきしてしまう。
……はっ。
そっと馬車の窓から騎士の様子を見たら。ナイジェルが海瑠に肩を竦めてみせた。
……さすがに、空気を読んだようだ。
あやうく、せっかく産まれた子供を死なせてしまうところだったのだ。
異世界で無事とわかっているとはいえ、我が子を失ってしまった。
しばらくは子作りしよう、などと言える雰囲気ではない。
もしまた、生まれてきたのが女の子だったら。
今度こそ。
女神が異世界に送るのも間に合わず、一呼吸で死んでしまうかもしれない。
もう、あの紅い宝石は無いのだ。
あのキツネは、こうなることがわかっていて、あの宝石をくれたのだろうか。
◆◇◆
『視察旅行が終わったらでいいのですが、次は私の子を産んでくださいね! 約束ですからね! ね!』
オーランドは海瑠の肩を掴んで揺すって。駄々っ子のようなおねだりをした。
「おまえは、もう少し、空気を、読もうな?」
クリシュナも、呆れ顔で弟を見ている。
『香油、箱でいっぱい持ってきたのどうしましょうかね……』
「リッター。聞こえてんぞ」
それは、そんな悲しそうな声を出すような内容なのだろうか。
油を箱いっぱい用意したなら、相当重かったのだろうが。
そんなものを運ばされている馬が気の毒である。
『ナカで出さなければいいんじゃないすか?』
『その手があったか……! あ。そういえば兄上と一緒にしていた時は、どうしてできなかったんだろう。精が中で攪拌されて混ざっちゃったからかな?』
『あ、じゃあ交互にすれば問題ないってことですかね?』
『いっそ魔法で綺麗にするとかはどうすかね?』
『あれはちょっと。香油も消えるし、無粋じゃないかな……』
『継ぎ足せば問題ないでしょう。どんどん使いましょう』
「ナイジェル……オーランド……リッター……おまえらなあ……」
下世話な話で盛り上がる三人に、海瑠は呆れた。
この世界の倫理感、どうなってるんだ。
頭が痛くなった海瑠だった。
海瑠は、王子と騎士たちに自分の推論を話した。
海神の神官から聞いた話。
海瑠の歩いた後、花が咲いて。
花びらは、清浄な空気を残して消えたらしいということ。
不思議な黒いキツネから聞いたこと。
泣いた途端、窒息したようになり、どす黒く顔色を変えた赤ん坊。
これらを総合すると。
「この世界の空気は、女性にとって、毒になるんだ。だから、空気を吸った女性は皆、死んでしまう。……女神は、女性をこの世界から呪いによって消したんじゃなくて、さっきみたいに、別の世界に避難させてあげたんじゃないかと思う」
◆◇◆
噂では、女神の呪いで女性を消した、というが。
1800歳のメレディスの話によると、段々女性の数が減っていって。ある日忽然と消えたという話だ。
女性が減ったのは、何らかの理由で、この世界の空気の耐性がなくなっていったせいではないだろうか。
海神の神官は引きこもりなので、そういう話は他国には出ない。
だから、誤解ばかりが広まったのだ。
消したのではない。
おそらく、シーナと同じように、他の世界に送ったのだろう。
海瑠が歩いた後には、花が咲く。
花は、清浄な空気を残して消える。
あの花には、女性の危害になるそのなにかを、浄化させる役割があるのではないか。
だから。
「この世界を、こうして、女性の存在をアピールしながら、見てまわるのが。おれの……新しく誕生した女王の役割だと思う」
”女”という、もう一つの性の存在を思い出させて。
清浄な空気へと浄化された世界で。
後に女性が生まれてくる、その時のために。
喜びを持って、その誕生を祝えるように。
その前触れとして、選ばれたのだ。
民から愛される”女王”を”演じる”ようにと。
海瑠は。
女神から直々に選ばれた、”役者”だった。
◆◇◆
『え、でも。陛下は女性なのに、何故ご無事なのですか? 異世界の生まれだからですか? それとも、女神のご加護で……?』
ウォーレンが不思議そうに首を傾げた。
それに対し、ジェラルドが呆れたように言った。
『……陛下が女性であったら、卵ではなく、その身の内で御子を育てられた筈だろう』
そう。
千年以上の、長い、男性のみの世界で。
女神の加護により、当たり前だった常識が失われていたのである。
そもそも人間は、卵を産まない。
孕んで一日で赤ん坊は生まれない。
基本的に、男は子を産めない。そのための器官を、持っていないのだ。
『あっ……。で、では、男性なのですか!?』
この二人は、海瑠が本当は女ではないことを知らされてなかったのか。
どうやらジェラルドは気付いていたようだが。
『女王陛下は女王陛下だ。ウォーレン』
『……そうでした。取り乱し、失言をお許し下さい。失礼いたしました、陛下』
ジェラルドに窘められ、ウォーレンが頭をかいた。
「視察はこのまま続けます。……これからも、護衛の役、よろしくお願いしますね?」
海瑠は、生まれながらの女王のように。
優雅に美しく微笑んで見せた。
騎士たちのみならず。
二人の王子もその笑顔に頬を染めたのだった。
◆◇◆
「ところで、何でオーランドはおれに丁寧語で話すわけ?」
『レディには丁寧な言葉遣いで話すものだと、書物で勉強したのです。敬語を使う男からの下克上はことのほか燃える、とありましたので! 敬語攻め、と呼ぶそうです!』
オーランドは得意げだった。
「そうか……」
城の図書室とは、いったいどんなマニアックな蔵書揃いなのだろう。
海瑠は遠い目をした。
ふと。クリシュナと目が合った。
ふっ、と優しい笑みを浮かべたクリシュナを見て。
海瑠の鼓動が跳ね上がった。
彼の子を産んだからだろうか。
旦那だと紹介して、親公認になったからだろうか。両方か。
クリシュナが海瑠を見る目が、やたら甘い。
どきどきしてしまう。
……はっ。
そっと馬車の窓から騎士の様子を見たら。ナイジェルが海瑠に肩を竦めてみせた。
……さすがに、空気を読んだようだ。
あやうく、せっかく産まれた子供を死なせてしまうところだったのだ。
異世界で無事とわかっているとはいえ、我が子を失ってしまった。
しばらくは子作りしよう、などと言える雰囲気ではない。
もしまた、生まれてきたのが女の子だったら。
今度こそ。
女神が異世界に送るのも間に合わず、一呼吸で死んでしまうかもしれない。
もう、あの紅い宝石は無いのだ。
あのキツネは、こうなることがわかっていて、あの宝石をくれたのだろうか。
◆◇◆
『視察旅行が終わったらでいいのですが、次は私の子を産んでくださいね! 約束ですからね! ね!』
オーランドは海瑠の肩を掴んで揺すって。駄々っ子のようなおねだりをした。
「おまえは、もう少し、空気を、読もうな?」
クリシュナも、呆れ顔で弟を見ている。
『香油、箱でいっぱい持ってきたのどうしましょうかね……』
「リッター。聞こえてんぞ」
それは、そんな悲しそうな声を出すような内容なのだろうか。
油を箱いっぱい用意したなら、相当重かったのだろうが。
そんなものを運ばされている馬が気の毒である。
『ナカで出さなければいいんじゃないすか?』
『その手があったか……! あ。そういえば兄上と一緒にしていた時は、どうしてできなかったんだろう。精が中で攪拌されて混ざっちゃったからかな?』
『あ、じゃあ交互にすれば問題ないってことですかね?』
『いっそ魔法で綺麗にするとかはどうすかね?』
『あれはちょっと。香油も消えるし、無粋じゃないかな……』
『継ぎ足せば問題ないでしょう。どんどん使いましょう』
「ナイジェル……オーランド……リッター……おまえらなあ……」
下世話な話で盛り上がる三人に、海瑠は呆れた。
この世界の倫理感、どうなってるんだ。
頭が痛くなった海瑠だった。
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