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どうやら俺が伝説の僧侶だったようです。

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『伝令! 敵襲です! 結界に綻びが……!』
兵士が飛び込んできた。

『すぐ側まで、ゴーストが押し寄せてきています! その数は……千、2千……、ああ、駄目だ、あんなに増えて……!』
兵士の声が、恐怖に震えている。


勇者は、果敢にも立ち上がろうとして。がくりと崩れた。
次元移動というのは、とてつもなく生命力を削るものらしい。

そんな苦労をして、わざわざ異世界へ迎えに行ったというのに。
まさか、勘違いだったとは。

つい、差し出された手を取ってしまった俺が悪い。

連れて来られたはいいが、役に立てないというのが悔しい。
申し訳ない思いでいっぱいになる。

俺が何か、特別な力でも持っていればいくらでも手を貸すのだが。
無力なのが口惜しい。


「波ー、とか言って、悪霊を蹴散らせる力があればよかったのだが。すまない」
と。
”波ー”と言った時点で、何かが出た。


俺の手から、眩いほどの光が溢れ出たのだ。


◆◇◆


……え。
今、何か光ったか? 手から光が出たように見えたが。

いやまさか、人間の手から光が放たれるとか。物理的にありえないだろう。
蛍とかじゃあるまいし、発光体も持っていないんだぞ。ルシフェラーゼ、だったか? 中二心をくすぐるネーミングだったな……。


思わず、自分の手を見る。

何も変わりはない。
普通に俺の手だ。竹刀で出来た、たこがあるくらいで。


『伝令! 一帯にいたゴーストが全て、消滅しました! 全てです!』
兵士が報告に来る。

絶望に打ちひしがれていた先程とはうってかわって、喜びに打ち震えている。

ゴースト全てが消滅したのか。
それは良かった。


……いやいや。
冗談だろう? 何だこの展開。


『先ほどの”清浄なる光”で暗雲が晴れ、光が差してます! 二十日ぶりの日光です!』
喜色満面の兵士たちが飛び込んできた。

”清浄なる光”?
なんだそれは。何かの技の名前か?


『いらっしゃったのですね、救世主が!! 我等がゼンショー様が!』
喜びの声。


まさか。
先程の、眩いほどの光。

あれを。
俺が、やったというのか?


◆◇◆


『は、ははは。……いやはや、冗談を言って驚かすとは、ゼンショー様もお人が悪いですな』
ワルターに、バシンと背中を叩かれた。わりと痛かったのだが。


……嘘だろう?
本当に、俺がやったのか?


『さすがは伝説の僧侶です! ……あんなにやる気のなさそうな覇気のない一撃で、数千ものゴーストを昇天させるとは……!』
レオナルドは頬を染め、キラキラした瞳で俺を見ている。


やる気はなかった。
本当に、なかったのだ。

まさかそんな。
自分の手から、得体の知れない力が出るなどと、思いもしなかったのだから。


テオは。
俺を見て、ほっとしたように笑った。


まあ、安心したなら、良かった、……のだろうか。
納得いかないが。

何だ?

……眩暈がしてきた。
どういうことだか、意識が遠くなっていく。


『……ゼンショー様?』
『ゼンショー殿、いかがなされた!?』


うるさい。
俺の名前は、善正だ。

そんな坊主っぽい名前じゃないと、何度言ったら。


◆◇◆


「……ん、」

ヌチュ、ヌチュ、と。
肉をこねるような音がする。


ああ、そうだった。

今日の夕食はハンバーグだったのだ。
豆腐ではなく、合いびき肉の。

寺だからか、寺子たちの修行に付き合わされて。基本的に我が家は精進料理が多いのだ。
俺はまだまだ育ち盛りだというのに。

久しぶりの肉だったのに。内心、かなり楽しみにしていたのに。


肝試し、などというくだらない遊びで夕食を妨害されて業腹である。
後で卓也には懇々こんこんと説教をしてやらねばなるまい。

来年は受験だというのに、大切な高校二年の夏休みを何だと思っているのだ。

宿題は終わったのか?
夏休みの宿題というのはだいたい7月中に終わらせておき、後は予習をするものだろう。

いいか? 勉強というのは、毎日の積み重ねがだな。


……それにしても、おかしな夢を見たものだ。

西洋の甲冑を身に着けた、俳優かと思うような美貌の男に手を差し出され。
異世界に召喚されて。

美貌の騎士や精悍な剣士にも頼られる、伝説のヒーロー扱いされるという展開だった。
女性のやるゲームか何かのような設定だ。


この俺に、悪霊を祓う力があるなど、滑稽な。
幽霊など、存在するわけがないだろう。

ラノベ好きな鈴木にでも影響されたか? それともゲーマーな前田か?

しかし奴らなら、美貌の男たちに囲まれるのではなく、肌もあらわな美女軍団に囲まれたい、と願いそうである。
若い男なら、それが当然だろう。


◆◇◆


「ぁう、……っ、う、っく、」

何故、身体がぐらぐらと揺れている感覚があるのだろうか。
荒れた海の船にでも乗っているのか?


とても、眠い。
身体が、鉛のように重い。

脱力するような。
とても疲れているような、そんな感じだ。

前に、自分の体力の限界を知るために、倒れる寸前まで練習をしたことがある。その時と似ている。

瞼も開かない。
指先一つ、動かすことすら。


……俺は眠いんだ。
まだ、寝ていたいのだが。何故、そうも身体を揺らすのか。


いい加減、揺するのをやめろ。

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