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俺は伝説の僧侶として召喚されてしまったようです。

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『ご高名な僧侶という割には、随分と年若く見えるが……?』
ワルターは、訝しげに首を傾げてこちらを見ている。

実際、俺は僧侶ではないからな。

『……だが、確かに、彼が、周りの子供達にゼンショーと呼ばれ、慕われていたのを見た……、』
テオは、つらそうに息を荒げながら言った。


子供達? ……一応、あれは全員俺と同い年の高校生なのだが。

俺はそんなに老けて見えるのか?
皆、俺よりも背が小さかったからか? 複雑である。


◆◇◆


見れば、テオはつらそうに膝をついて、鼻血を出している。

先程よりも顔色が良くない。
かなり具合が悪くなっているようだが。大丈夫だろうか?


「よかったら、これを」
ポケットティッシュを取り出して、テオの鼻に当てた。

『す、すまない』

『おや。布ではなく、これは、紙なのですか? それも、こんなやわらかな……貴重品ではないですか!』
ポケットティッシュを見て、レオナルドが驚いていた。

こうして畳まれていると、取り出しやすいのですね! と、随分感心しているようだが。

いや、駅前で貰った安物で、沢山ある。
紙質も、それほど良くないのだが。この国では、紙は貴重品なのか?


などと細かい事を考える前に。
まず、訊かねばならないことがあるのだ。

「ところで、何故俺がここに呼ばれたのか、まだ理由を聞かされてないんだが」


『えっ…………?』
『おいティボルト、お前……』

二人は、非難するような眼差しでテオを見た。


◆◇◆


この国……いや、この世界は、未曾有の危機に脅かされていた。

魔界の扉が開き。
何万何千もの魔族が地上に降り立ち、各国を襲ったのだ。

しかし、ここエリノア国には、世界一を誇る精鋭騎士団と、歴戦の勇者がいた。

彼らは果敢に戦った。
襲い来る魔族を次々とたおし、勝利は目前に見えた……かに思えた。

だが。
彼らには、唯一の弱点があった。


『……ゴーストには、剣が通じないのです……』
レオナルドは、天に祈るようなポーズをしていた。

騎士に、戦士に、勇者。
見事に物理攻撃に偏ったジョブしかいない。脳筋パーティーか。

ああ、僧侶がいないパーティに、アンデッド系モンスターは辛いな……。
魔法使いすらいないとは。回復も出来ないのではないか。

と、ゲームにたとえて納得する。


敵を倒すにも、相性というものが存在するのだ。
自分よりもレベルが弱い相手でも、相性が悪いと負けることもあるのだ。

五行思想に相剋そうこくというものがある。
相手を打ち滅ぼして行く、陰の関係だ。すなわち木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木。
ゲームでも、よく見かける基本的な概念だろう。

簡単に言えば、じゃんけんのようなものだ。

ここでは、肉体を持たない霊に対抗するには、聖なる力しかないそうだ。
闇属性に対する光属性のようなものか?


◆◇◆


レオナルドは聖騎士みたいな顔をしているが、属性は火らしい。ゆえに火系の魔法しか使えない。
テオも火で、ワルターも魔力は少ないながら、火属性だそうだ。


……火魔法使いしかいないとは。ジョブといい、随分と偏ったパーティーである。勝つ気があるのかと問いたい。

マントが赤だからだろうか?
いやそんな、まさかな。


一応、アンデッドでも骸骨系のモンスターは粉々にすれば斃せたらしいが。

何しろ、敵の数が多すぎた。
勇者の魔法も、ほぼ物理攻撃系のみで。

これまでは、唯一、聖なる力を使える神官が一人で頑張っていたというが。
今はそれがない、となると。

「まさか、亡くなられたのか?」

『過労で倒れました……』
ああ、過労で。

一人しかいないのでは、そうもなろう。配分を考えろと言いたい。


とにかく、神官が回復するまでは法力というか魔法が使えないので。対ゴーストだと手も足も出ない。
その神官が張った結界も、もう限界で。そろそろ突破されてしまいそうだという。

それで、異世界にいるという”伝説の僧侶、ゼンショー”に助けを求めることにした、というのだが。


この国に、昔からあった書物に、その輝かしい冒険譚が書かれていて。
”僧侶ゼンショー”は、国民的英雄なのだそうだ。

伝説の僧侶とは、アーサー王伝説とか、桃太郎のようなものだろうか?


しかし、伝説にもそれぞれモデルになった人物はいるだろうが。
まさか伝説がそのまま真実であるとは、普通、誰も信じないと思うのだが。

ここの世界の人間は純粋なのか。
はたまたノンフィクションしか存在しない世界なのか?


◆◇◆


……言いにくい。
この状況下で、とても言いにくいのだが。

誤解は早めに解いておかなければ、ここの方々にも、迷惑になるだろう。
とても心苦しい。


「……ものすごく、申し訳ないのだが。俺は、僧侶ではなく、ただの高校生だ」

『!?』
三人は息を呑んだ。


「さらに言うと、俺の名前は高槻善正であって。ゼンショーというのは、名前の読みを変えただけの、友人のつけたあだ名だ」

『!!!???』
言葉も出ないほど驚いている様子だ。


ああ、胸が痛い。

皆、真っ青になっている。
決して俺のせいではないはずだが、非常に胸が痛い。胃も痛くなってきた。
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