17 / 19
レティシアにて
イザヤ:焦燥
しおりを挟む
「イニス……?」
オリバー伯は。
イニスを見て、驚いたように言った。
「生きていたのか。更生施設にもいないというから、てっきり……」
何故。こいつがイニスの名を知っている?
……娼館の客だったのか。
更生施設を、探した?
こいつも、イニスを求めていたと?
オリバー伯は、イニスの首の飾りを凝視していた。
嫌な、予感がした。
◆◇◆
「その首飾りは……まさか、」
しまった。
「総員、オリバー伯を確保!」
指示を出したが、一拍遅かった。
それは致命的な遅れだった。
伯爵相手と思い、証拠がなければ、と。一瞬の躊躇が判断を遅らせたのだ。
やつはイニスを掴み。
もう片方の手で、イニスの側にいた兵士を斬った。
兵士は血飛沫を上げて倒れた。
宣戦布告である。
私の兵に手をかけ、私のイニスを連れて行こうとは。
もはや伯爵相手だろうが、手加減は必要ない。
「追え! 今、この時より、ニューエル伯オリバーは我が騎士団の敵と相成った!」
応、と叫び声が上がる。
幸い、急所は外れたようだ。兵士は生きていた。
救護班に処置を頼み、駆ける。
やつは奪った騎士団の馬に乗って逃走した。
イニスを抱いているため、下手に攻撃ができない。
そのための人質と取ったか?
首飾りを見ていた。
私の、大事なものだとわかったはずだ。
もし、落馬などすれば。か弱いイニスは死んでしまうだろう。
◆◇◆
自分の屋敷に逃げ込んだオリバーを追う。
警備の兵が邪魔をするが。
総て切って捨てた。
……どこだ。
どこへ逃げた。
屋敷を見てまわり、気付いた。
家族の絵姿。
見覚えがあった。
あの盗賊のリーダー。……赤毛の男。
オリバーの髪も、同じ色だった。
弟だったのだ。
怯え、青褪めたのではない。
弟の死を知り、ショックを受けたのだ。
イニス。
私への恨みまで、イニスにぶつけられたら。
私のものだというしるしを持たせたばかりに。
恐怖で、頭がおかしくなりそうだった。
屋敷の者を切り捨てながら、虱潰しに、オリバーが逃げ込んだ部屋を探す。
イニスはどこだ。
私の小鳥。
◆◇◆
迷路のように入り組んだ廊下を走り、地下室へたどり着いた。
堅牢な鉄の扉だったが、魔術で溶かす。
……早く。
早くしないと。私のイニスが。
殺されてしまうかもしれない。
恐怖で、手が震える。
「孕めっ、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、まだ、孕まないのか!」
苛立ったように男が腰を叩き付けているのが見えた。
ぐちゃぐちゃと、交接音が響いている。
大きな男に、イニスが犯されていた。
巨大なもので犯され、イニスは意識が朦朧としているようだ。
人形のように、ただ、揺さぶられている。
胃の中のものを、すべて吐いたらしい。緑色の、胃液。
饐えたにおいと、精液の獣臭いにおい。
男は、気が狂ったように叫びながら、腰を打ち付けている。
「孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め!」
その浅ましい姿に、私は気付いた。
◆◇◆
……こいつと、どこが違うのだ。
イニスにとっては、同じなのではないか?
私も、こいつも。
一方的に、押し付けて。
犯して。
イニスを苦しめたのは。
だが、もう聞くに堪えなかった。
男の頭部に刃を走らせる。
「孕、」
もう、何も言えなくなったそれは、ゆっくりと後ろ向きに倒れた。
切り離された頭部が、床に落ち。
遅れて、本体から血が噴き出した。
やつが最期に、大量に吐き出したのだろう精液が、イニスのぼっかりと開いた後孔から、ごぽごぽと溢れ出していた。
私の罪を、見せ付けられたような気がした。
イニスはこちらを振り向いて、固まっていた。
恐怖で凍り付いているようだ。
我ながら、酷い姿だ。
全身、返り血で真っ赤で。屋敷の者、目にした者は総て屠ってきた。
大きな目を見開いて。
そんな、醜い私を見ていた。
手を差し出したが。
顔を背けられた。……顔を見たくもない、か。
◆◇◆
「すまない。いやかもしれないけど……来て?」
マントで、汚された身体を包んでやる。
イニスはいやいやと、力なく首を横に振っている。
しかし、いつまでもここには置いておけない。
抱き上げると。
「だめ……イザヤのマント、汚れちゃう、」
そんなことを気にしていたのか。
そんな、泣きそうな声で。
きゅう、と胸を締め付けられる。
「こんなもの。どうでも良いのだ。イニスに比べられるものなど何も無い」
そっと、小さな身体を抱き締めた。
「イザヤ、……顔も、きたないし、見ないで、」
私は汚いとは思わないが。
イニスが気にするのならば、と顔を拭ってやり。
懐から水筒を取り出して、口をゆすがせると。
少しは落ち着いたようだ。
「あいつ、最初の、客だったんだ……」
イニスの、初めての相手か。
殺しても飽き足らないと思っていた相手だった。
オリバーは、かなりイニスに執着していたらしい。
常連客となり、当時から、孕めと言われていたという。
天使だと呼ばれて。孕めと言われながら犯されて。
気持ち悪くなって、吐いたのだと。
同じことをしてしまっただけに、何も言えない。
◆◇◆
「あいつに犯されて、初めて気付いたんだ。……僕、イザヤが好きみたい」
「………………?」
今。
何と?
「殿下ー、どこで……ひえええ!? なんじゃこりゃあああ!?」
ハーマンがオリバーの死体を見て、情けない声を上げた。
気が抜けて、笑ってしまう。
こんな、凄惨な現場で。
オリバー公は、盗賊の頭を張っていた腹違いの弟と結託し、ウェンデルに麻薬や攫った人間を売り、ひそかに私腹を肥やしていた。
そして、人に言えない趣味を解消しに、度々ウェンデルに通っていたらしい。
……少年趣味である。
屋敷から、その証拠が続々と出てきたのだ。
屋敷にいた者たちも、犯罪者であった。
結果的に、皆殺しもやむなしということになる。
さすがに理由なく伯爵とその家の者を断じたのでは、私といえどもその責を免れないところだった。
「殿下? 何故そんな嬉しそうなんです……?」
「聞かない方が良い予感がします……」
ハーマンとアンドリューが薄気味悪いものを見るような目で私を見ていたが。
ほくそ笑みたくもなる。
イニスは、オリバーのことを、名前を呼ばれるまで気づかなかったというのだ。
常連客だったというのに。
性器と服の色でしか、客を認識してなかったという。
そうすることで、自分の心を護っていたのだ。
しかし、私が助けに行った時は、すぐにわかったという。
一度しか逢ってなかったのに。
そうか。
私は特別なのか。
……しかし、私も少年趣味の変態だと思われていたのは切ない。
確かに無毛の股間を愛でて息を荒げていたのだから、そう思われても仕方ないのだが。
子供に興奮するのではない。
イニスにしか、興奮しないのだと。
一生かけて、わかってもらうしかあるまい。
オリバー伯は。
イニスを見て、驚いたように言った。
「生きていたのか。更生施設にもいないというから、てっきり……」
何故。こいつがイニスの名を知っている?
……娼館の客だったのか。
更生施設を、探した?
こいつも、イニスを求めていたと?
オリバー伯は、イニスの首の飾りを凝視していた。
嫌な、予感がした。
◆◇◆
「その首飾りは……まさか、」
しまった。
「総員、オリバー伯を確保!」
指示を出したが、一拍遅かった。
それは致命的な遅れだった。
伯爵相手と思い、証拠がなければ、と。一瞬の躊躇が判断を遅らせたのだ。
やつはイニスを掴み。
もう片方の手で、イニスの側にいた兵士を斬った。
兵士は血飛沫を上げて倒れた。
宣戦布告である。
私の兵に手をかけ、私のイニスを連れて行こうとは。
もはや伯爵相手だろうが、手加減は必要ない。
「追え! 今、この時より、ニューエル伯オリバーは我が騎士団の敵と相成った!」
応、と叫び声が上がる。
幸い、急所は外れたようだ。兵士は生きていた。
救護班に処置を頼み、駆ける。
やつは奪った騎士団の馬に乗って逃走した。
イニスを抱いているため、下手に攻撃ができない。
そのための人質と取ったか?
首飾りを見ていた。
私の、大事なものだとわかったはずだ。
もし、落馬などすれば。か弱いイニスは死んでしまうだろう。
◆◇◆
自分の屋敷に逃げ込んだオリバーを追う。
警備の兵が邪魔をするが。
総て切って捨てた。
……どこだ。
どこへ逃げた。
屋敷を見てまわり、気付いた。
家族の絵姿。
見覚えがあった。
あの盗賊のリーダー。……赤毛の男。
オリバーの髪も、同じ色だった。
弟だったのだ。
怯え、青褪めたのではない。
弟の死を知り、ショックを受けたのだ。
イニス。
私への恨みまで、イニスにぶつけられたら。
私のものだというしるしを持たせたばかりに。
恐怖で、頭がおかしくなりそうだった。
屋敷の者を切り捨てながら、虱潰しに、オリバーが逃げ込んだ部屋を探す。
イニスはどこだ。
私の小鳥。
◆◇◆
迷路のように入り組んだ廊下を走り、地下室へたどり着いた。
堅牢な鉄の扉だったが、魔術で溶かす。
……早く。
早くしないと。私のイニスが。
殺されてしまうかもしれない。
恐怖で、手が震える。
「孕めっ、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、まだ、孕まないのか!」
苛立ったように男が腰を叩き付けているのが見えた。
ぐちゃぐちゃと、交接音が響いている。
大きな男に、イニスが犯されていた。
巨大なもので犯され、イニスは意識が朦朧としているようだ。
人形のように、ただ、揺さぶられている。
胃の中のものを、すべて吐いたらしい。緑色の、胃液。
饐えたにおいと、精液の獣臭いにおい。
男は、気が狂ったように叫びながら、腰を打ち付けている。
「孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め、孕め!」
その浅ましい姿に、私は気付いた。
◆◇◆
……こいつと、どこが違うのだ。
イニスにとっては、同じなのではないか?
私も、こいつも。
一方的に、押し付けて。
犯して。
イニスを苦しめたのは。
だが、もう聞くに堪えなかった。
男の頭部に刃を走らせる。
「孕、」
もう、何も言えなくなったそれは、ゆっくりと後ろ向きに倒れた。
切り離された頭部が、床に落ち。
遅れて、本体から血が噴き出した。
やつが最期に、大量に吐き出したのだろう精液が、イニスのぼっかりと開いた後孔から、ごぽごぽと溢れ出していた。
私の罪を、見せ付けられたような気がした。
イニスはこちらを振り向いて、固まっていた。
恐怖で凍り付いているようだ。
我ながら、酷い姿だ。
全身、返り血で真っ赤で。屋敷の者、目にした者は総て屠ってきた。
大きな目を見開いて。
そんな、醜い私を見ていた。
手を差し出したが。
顔を背けられた。……顔を見たくもない、か。
◆◇◆
「すまない。いやかもしれないけど……来て?」
マントで、汚された身体を包んでやる。
イニスはいやいやと、力なく首を横に振っている。
しかし、いつまでもここには置いておけない。
抱き上げると。
「だめ……イザヤのマント、汚れちゃう、」
そんなことを気にしていたのか。
そんな、泣きそうな声で。
きゅう、と胸を締め付けられる。
「こんなもの。どうでも良いのだ。イニスに比べられるものなど何も無い」
そっと、小さな身体を抱き締めた。
「イザヤ、……顔も、きたないし、見ないで、」
私は汚いとは思わないが。
イニスが気にするのならば、と顔を拭ってやり。
懐から水筒を取り出して、口をゆすがせると。
少しは落ち着いたようだ。
「あいつ、最初の、客だったんだ……」
イニスの、初めての相手か。
殺しても飽き足らないと思っていた相手だった。
オリバーは、かなりイニスに執着していたらしい。
常連客となり、当時から、孕めと言われていたという。
天使だと呼ばれて。孕めと言われながら犯されて。
気持ち悪くなって、吐いたのだと。
同じことをしてしまっただけに、何も言えない。
◆◇◆
「あいつに犯されて、初めて気付いたんだ。……僕、イザヤが好きみたい」
「………………?」
今。
何と?
「殿下ー、どこで……ひえええ!? なんじゃこりゃあああ!?」
ハーマンがオリバーの死体を見て、情けない声を上げた。
気が抜けて、笑ってしまう。
こんな、凄惨な現場で。
オリバー公は、盗賊の頭を張っていた腹違いの弟と結託し、ウェンデルに麻薬や攫った人間を売り、ひそかに私腹を肥やしていた。
そして、人に言えない趣味を解消しに、度々ウェンデルに通っていたらしい。
……少年趣味である。
屋敷から、その証拠が続々と出てきたのだ。
屋敷にいた者たちも、犯罪者であった。
結果的に、皆殺しもやむなしということになる。
さすがに理由なく伯爵とその家の者を断じたのでは、私といえどもその責を免れないところだった。
「殿下? 何故そんな嬉しそうなんです……?」
「聞かない方が良い予感がします……」
ハーマンとアンドリューが薄気味悪いものを見るような目で私を見ていたが。
ほくそ笑みたくもなる。
イニスは、オリバーのことを、名前を呼ばれるまで気づかなかったというのだ。
常連客だったというのに。
性器と服の色でしか、客を認識してなかったという。
そうすることで、自分の心を護っていたのだ。
しかし、私が助けに行った時は、すぐにわかったという。
一度しか逢ってなかったのに。
そうか。
私は特別なのか。
……しかし、私も少年趣味の変態だと思われていたのは切ない。
確かに無毛の股間を愛でて息を荒げていたのだから、そう思われても仕方ないのだが。
子供に興奮するのではない。
イニスにしか、興奮しないのだと。
一生かけて、わかってもらうしかあるまい。
2
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる