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親切な同乗者との出会い

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飛行機が離陸して。


しばらくして、ベルトを外していいってサインが出た。
未成年なので、サービスで出されたドリンクはシャンパンじゃなくてアランチャータ……オレンジジュースだった。

あ、これ、ヴァレンティーノの農園で作ったやつかな。
美味しい。

……ドリンクに添えてあったチョコにもヴァレンティーノの文字が刻まれてるんだけど。
どういうこと!?


っていうか。
さっきから客室乗務員の好奇の視線が痛いんだけど!

またね、って言ってチャオで返したんだから親戚じゃない? 親しそうだったし親戚の子供かも、とかひそひそ言われてる。
聞こえてますよ!?

そうだね全然似てないよね! 他人だもん!

元々は幼馴染みだったんだけど。
友達にしても、年齢が離れすぎてるように見えるのは、僕が童顔だからかな?

これでも3学年……年齢でいうと4歳くらいしか違わないようには見えないよね。


*****


それにしても。
崇がくれた服を着ていて良かった……。

ギリギリまでエッチなことされてふらふらしてたから、着せて貰ったんだけど。

来る時に着てた服だったら、滅茶苦茶浮いてるよ。
浮き浮きだよ。

周りみんな、ロイヤルなセレブリティなんだもん! なんか、アラブの王子様っぽいのもいるし!


気分的に息苦しくなって、襟元を緩めようとして。
胸に赤い痕がついてるのに気付いた。

慌ててトイレに行って、鏡で確認してみたら。

襟を開いたらすぐ見える位置にも、痕がつけられてた。
何か虫除け、とか言って吸い付いてた記憶が。

……崇……。
これじゃ自分が虫っぽいよ?


こんな痕をつけられたら、しばらく家の中でもラフな格好できなくなっちゃったじゃん!

他人に見せるなってことだろうけど。
家族もアウトだよ!


*****


襟を直して席に戻ろうとしたら。

「むぐ、」
白い壁にぶつかった。

「أنا آسف」
白い壁だと思ったのは、アラブの王子様っぽい人だった。


白い民族衣装で、浅黒い肌、琥珀色の瞳に金髪だ。
珍しいな。

しかも、崇に匹敵する美形なんて他にも存在したんだ!
世界って広い。


いけない。
思わずぽかんと見上げてしまった。

「あ、ごめんなさい……、ええと、I'm sorry」

英語なら通じるかな?
と思ったら。

「日本人かな? こちらこそごめんね。気にしないで」

うわ、日本語しゃべった!


用事を済ませたアラブの王子様っぽい人が、席に戻って来て。
席、近かったんだね? と声を掛けてきた。

王子様っぽい人は、見た目通り、本物の王子様だった。

人生のパートナー、つまり結婚相手が日本人なんだそうだ。
世界は広いのに、狭いな……。

王子様のパートナーは、日本人の男の人だ。
大学生くらいかな?


経済にも詳しかった王子様が、ヴァレンティーノ・カンパニーがどれだけ凄い企業か教えてくれた。

質の良いワインやチーズ、オリーブオイルやレモン、オレンジなどの柑橘類。
食品部門も評判が良くて。

不動産だけじゃなく、銀行とかも持ってる世界的に有名な大企業だなんて知らなかった。
もっと社会勉強するべきだったと反省しきりだ。


前から有名な企業ではあったけど、世界的優良企業の五指に入るようになったのは今の代表の手腕で。
その機械のような精確無比さと一切無駄の無い経営手段で、世間からは”氷のインペラトレ帝王・スペタット”とか呼ばれてるんだって。


経済界で世界のトップ10に入る人たちはみんな二つ名がついていて、他には魔王シャイターンとか魔術師トリックスターって呼ばれてる人もいるとか。

凄すぎて。
もはや別世界、他人事のように聞いてた。


*****


帰りの飛行機は、快適なファーストクラスだってこともあったけど。行きほど退屈なものではなく、とても有意義で楽しかった。

崇に感謝だ。
後でお礼を言わなきゃ。


笑顔がチャーミングなパートナーの人も感じが良くて、緊張しないで話せた。
全然VIPっぽくないので安心した、というのは黙っておこう。

恋人がイタリア人なのでイタリア語を勉強中なのだと言ったら、悪戯っ子みたいな顔をしてわざと難しいイタリア語で僕に話しかけてくる王子様を叱るパートナー。

アラビア語で叱ってたから、何を言ってるかはわからなかったけど。

お互いの母国語を教えあったか、頑張って覚えたんだろうな。
仲が良くて幸せそう。


いいなあ。
僕も早く卒業して、崇に会いたくなった。

って早すぎるよ。
今日別れたばっかりなのに、もう寂しくなっちゃった。


彼らは今から日本人のパートナーの実家へ、結婚報告に行くそうだ。
……他人事じゃないなあ、それは。

大型客船を買ったので、それで日本へ挨拶するついでに新婚旅行に行こうと思ってたら、パートナーは船酔いする体質だったので断念したらしい。

あはは、新婚旅行のために豪華客船買っちゃうとか。
石油の国の王子様は規模がすごいや。

でも買い物はパートナーと相談してからの方がいいと思うよ?


*****


飛行機が成田空港に到着して。
王子様一行は、黒服のガードマンに囲まれて去っていった。

チャオ、って言われた。
気安い王子様だ。


何だか、イタリアに行ってから、まるで夢みたいに現実離れした出来事ばっかり起きてるなあ。
中には悪夢も含まれてるけど。


王子様とも仲良く話して、何なのこの子、みたいな客室乗務員たちの視線に見送られて。
スタッフに案内されて、出口まで行ったら。


両親と義兄あにたちが、困惑顔で待ち構えてた。

わざわざ迎えに来てくれたんだ。いいのに。
みんな末っ子を甘やかしすぎだよ?

でも、何でそんな顔してるの?


何か、一般の出口で出てくるのを待ってたら、黒服の人に宇佐美奏太様のご家族の方、と呼ばれて。

宇佐美奏太様がお帰りになられるのはこちらの出口になります、と。
ファーストクラス専用待合室に案内されたそうだ。

ドリンクや食事は無料だっていうけど、水すら頼めなかったって。
うん、それは困惑するよね。


ここ、ファーストクラス専用の待合室だったんだ。
そんなのあるんだね。初めて知ったよ。
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