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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生
Je réalise mon rêve.(私は夢を叶える)
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表情を消してしるアンリは、氷で作った精巧な人形のようで美しいが。
美味しいものを食べた時など、自然に浮かべる微笑みは、花が咲いたように可憐で可愛らしいのに。
自分にだけは、どうか、その心の内をさらして欲しい。
そう強く願った。
彼を見ると、どうしようもなく胸がざわめくのは、初めての恋のせいだと思った。
傍にいたい。触れたい。
そこまでなら、よくある恋の話だ。
だが。彼の目に映るのものの全てが憎い。彼の何もかもを奪いたい。
誰の目にも触れないよう、塔に閉じ込めて。
手や足に鎖を付けて逃げられないようにして。そうして、すべてを貪りつくしたい。
そんな気持ちは、本当に恋なのだろうか?
アンリには、幸せになって欲しいと思うのに。
この手で幸せにしたいと願っているのに。
恋なんていう可愛らしいものではない、どす黒い感情が自分の中に渦巻いているようで。
自分が恐ろしかった。
*****
12歳の時。
アンリが”完全体”であることを知った。
鍛えても筋肉のつかない華奢なアンリの腕を掴んでみた時。アンドレは俺に殺意を向けた。それは、ただの世話係が見せる態度ではなかった。
俺も、触れなければ気づかなかっただろう。アンリの柔らかな手は、男のものではなかった。
完全体は男女どちらの性を持ち、一人でも子を産むことが可能だ。
魔素の多い子を産むため、産まれれば国家単位で大切にするほど希少な存在である。
ただでさえ珍しい黒髪黒目なだけでなく、完全体だったとは。
それならば、国王譲りの髪色を隠した第七王子であったアンドレが世話係に配置されているのも頷ける。
そして。
完全体なら、貴族の男とも結婚が可能だ。
そうとわかれば、することはひとつ。アンリが絶対に断れない状況を作り出し、結婚を迫るのだ。
そうすれば、ずっと一緒にいられる。
職務中だけでなく。朝も昼も夜も。
俺の目標は決まった。
国王が退位した時。アンリに結婚を申し込み、王佐と同時に王配になるのだ。
それ以外、道はない。
可能な限り、根回しはした。
それまで俺も国王の座を狙う素振りをしていたため、暗殺者を寄こされたが、すべて始末した。アンリを狙っていた暗殺者も。
他の国王候補も蹴落とした。
国王の甥であるヴェルソー侯アレクサンドル=ルイ=ウォルテールは国王の座を欲していないが、それは公にしないように頼んだ。他の候補が諦めるためにはまだ必要だったのだ。
アレクサンドル本人は無害だが、周囲が腐っていた。
それらの排除をし、アンリを国王に願う賛同者を集めた。己の手が何十、いや何百もの血で汚れても。アンリに手出しはさせない。
*****
17歳の時。
ついに、その日が来た。
魔力の衰えを感じた国王が、退位を表明したのだ。
アンリに結婚を申し込む、特別な日である。
それまではしてこなかったことをする。
事前に訪問を告げ。正装に身を包み。馬車と侍従を連れてベリエ領の城を訪れた。
俺にしては珍しい行動に対し、アンリは驚いていた。
それも作戦の内である。
心臓が爆発しそうなほど緊張していたが。幸い、俺も考えが表に出ない性質である。
アンドレが淹れた、俺だけ渋い紅茶をすすって。
「俺は、国王候補から辞退しようと思ってる」
「ロロも、国王になりたかったのではないのか?」
アンリは素直にも、俺の噓をすっかり信じ込んでいたようだ。
「いや、俺は裏に回って色々工作するほうが性に合ってるようでな」
数多の血で手を汚したことは言わず、色々根回しをしてきたことを教えた。
敵には回したくないと思わせるために。
そして。
「国王になりたいなら、俺があんたの王配になって支えてやるが。どうだ?」
これが本題である。
嫌悪されるか。それとも。
「……?」
アンリは目をぱちぱち瞬かせ、不思議そうに小首を傾げた。
あまりに突然すぎて、理解できなかったようだ。
美味しいものを食べた時など、自然に浮かべる微笑みは、花が咲いたように可憐で可愛らしいのに。
自分にだけは、どうか、その心の内をさらして欲しい。
そう強く願った。
彼を見ると、どうしようもなく胸がざわめくのは、初めての恋のせいだと思った。
傍にいたい。触れたい。
そこまでなら、よくある恋の話だ。
だが。彼の目に映るのものの全てが憎い。彼の何もかもを奪いたい。
誰の目にも触れないよう、塔に閉じ込めて。
手や足に鎖を付けて逃げられないようにして。そうして、すべてを貪りつくしたい。
そんな気持ちは、本当に恋なのだろうか?
アンリには、幸せになって欲しいと思うのに。
この手で幸せにしたいと願っているのに。
恋なんていう可愛らしいものではない、どす黒い感情が自分の中に渦巻いているようで。
自分が恐ろしかった。
*****
12歳の時。
アンリが”完全体”であることを知った。
鍛えても筋肉のつかない華奢なアンリの腕を掴んでみた時。アンドレは俺に殺意を向けた。それは、ただの世話係が見せる態度ではなかった。
俺も、触れなければ気づかなかっただろう。アンリの柔らかな手は、男のものではなかった。
完全体は男女どちらの性を持ち、一人でも子を産むことが可能だ。
魔素の多い子を産むため、産まれれば国家単位で大切にするほど希少な存在である。
ただでさえ珍しい黒髪黒目なだけでなく、完全体だったとは。
それならば、国王譲りの髪色を隠した第七王子であったアンドレが世話係に配置されているのも頷ける。
そして。
完全体なら、貴族の男とも結婚が可能だ。
そうとわかれば、することはひとつ。アンリが絶対に断れない状況を作り出し、結婚を迫るのだ。
そうすれば、ずっと一緒にいられる。
職務中だけでなく。朝も昼も夜も。
俺の目標は決まった。
国王が退位した時。アンリに結婚を申し込み、王佐と同時に王配になるのだ。
それ以外、道はない。
可能な限り、根回しはした。
それまで俺も国王の座を狙う素振りをしていたため、暗殺者を寄こされたが、すべて始末した。アンリを狙っていた暗殺者も。
他の国王候補も蹴落とした。
国王の甥であるヴェルソー侯アレクサンドル=ルイ=ウォルテールは国王の座を欲していないが、それは公にしないように頼んだ。他の候補が諦めるためにはまだ必要だったのだ。
アレクサンドル本人は無害だが、周囲が腐っていた。
それらの排除をし、アンリを国王に願う賛同者を集めた。己の手が何十、いや何百もの血で汚れても。アンリに手出しはさせない。
*****
17歳の時。
ついに、その日が来た。
魔力の衰えを感じた国王が、退位を表明したのだ。
アンリに結婚を申し込む、特別な日である。
それまではしてこなかったことをする。
事前に訪問を告げ。正装に身を包み。馬車と侍従を連れてベリエ領の城を訪れた。
俺にしては珍しい行動に対し、アンリは驚いていた。
それも作戦の内である。
心臓が爆発しそうなほど緊張していたが。幸い、俺も考えが表に出ない性質である。
アンドレが淹れた、俺だけ渋い紅茶をすすって。
「俺は、国王候補から辞退しようと思ってる」
「ロロも、国王になりたかったのではないのか?」
アンリは素直にも、俺の噓をすっかり信じ込んでいたようだ。
「いや、俺は裏に回って色々工作するほうが性に合ってるようでな」
数多の血で手を汚したことは言わず、色々根回しをしてきたことを教えた。
敵には回したくないと思わせるために。
そして。
「国王になりたいなら、俺があんたの王配になって支えてやるが。どうだ?」
これが本題である。
嫌悪されるか。それとも。
「……?」
アンリは目をぱちぱち瞬かせ、不思議そうに小首を傾げた。
あまりに突然すぎて、理解できなかったようだ。
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