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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生

Il ne suffit pas de dire à quelqu’un qu’on l’aime. (愛してると言うだけでは物足りない)

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「今日は普段よりも視線を感じる。アンドレ、もう少し離れていてくれないか?」
アンリは、図体の大きい男が二人並んでいると目立つから、いつもより注目を浴びていると思っているようだ。

「うう……、わかりました……」
アンドレは打ちひしがれた様子で数歩下がった。もっと離れろ。


「皆が見ていたのは、俺とあいつが目立つからじゃなくて、あんたが色っぽくて綺麗になったせいだぞ?」
そう教えても、信じてない。


「ロロが私を見る目は、何重にも膜が掛かってるのではないか?」

恋は盲目? 随分しゃれた言い回しをするもんだ。
吟遊詩人の歌の一節だろうか。


*****


周囲の視線を集めているのは。
行方をくらませていた第七王子が突然現れ、アンリにべったりで驚かれているせいも少しはあるが。

無意識か、壁の代わりか。アンリが俺にしどけなく寄りかかっているせいだろう。
そして、時折俺を見上げたりするから。

他者から見れば、アンリにそのつもりはなくとも、あからさまに情事後だとわかる色っぽい顔をして、愛人に婀娜っぽくしなだれかかっているようにしか見えない。


そのおかげで、娘を嫁に望む貴族やアンリに近寄ろうとする女達がすっかり戦意を喪失し、諦めた様子で近寄って来ないのだ。
アンリに求婚する輩を追い払う計画としては、大成功といえよう。

しかし、こんな可愛いアンリを他人に見られてしまったことが悔しい。


いつも通り、威嚇しておけばよかった。
殺意を込めた視線を向ければ、大概の奴は寄ってこない。

さすがに国王やヴェルソー侯には威嚇しなかったが。


遠巻きに、俺のアンリをじろじろ見ている男どもの多いこと。鬱陶しい。
蹴散らせるものなら蹴散らしてやりたいくらいだ。

王に招待された吟遊詩人まで、王の退位を嘆く歌ではなく、アンリを讃える歌を作る始末。
しかもそれを国王が大絶賛して、もう一度歌わせている。

早く終われ……。


*****


城に戻り、馬車を降りる時からアンリを抱え、寝室へ向かった。

城内を移動する間も、アンリはもどかしげに膝をすり合わせていた。
焦らすなと怒られる。

移動魔法で寝室へ移動すると、がっつくなと怒るくせに。そんなところも可愛いが。


寝室に入るなり唇を奪い、ポンタクールを引き下げ。
正面から抱きかかえた格好で挿入した。

「んんっ、」

中は熟れたように熱く。
美味そうにしゃぶりつかれている。

挿入したまま、寝台まで歩くと。
びしゃびしゃと、腹の辺りを大量の蜜で濡らされたのがわかった。


寝台に腰掛け、アンリの上着を脱がしながら、その華奢な肢体を突き上げる。

口づけを解くと、アンリの視線が俺の腹辺りへ。
黒の正装に散った、白い蜜。

服を汚してすまない、と謝られたが。

射精を我慢できないほど感じてくれて、嬉しいだけだ。
それに、残念なことにアンリの蜜が染みた服を洗うのは俺じゃないしな。

それを言うと恥ずかしがるから、言わないが。


アンリの手が、俺の服を脱がしていく。
積極的に感じられて嬉しい。肌に布が擦れるのが嫌なだけだとしても。

「私の服と、構造が違う……」
服飾産業にも改革が必要だ、と呟いている。


俺は着せるのも脱がすのも楽しいので、今のままでいいが。
アンリが望むのなら、いくらでも手を貸そうと思う。


*****


「アンリ、愛している」

抱く度に、言っているが。
アンリはそれに対して、一度も応えてはくれなかった。


俺のことを、どう思っているんだ?

嫌ってはいないのなら、それを口に出して欲しい。
アンリからしたら、断れなくて仕方なく身を任せているだけで。俺以外の誰かから同じことを言われたら、同じように承諾するのか?

せめて、それだけでも知りたかったが。
アンリの口から真実を語られ、現実を知るのも怖かった。


今だけは。
夢を見させてくれ。
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