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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生

Mon sort,(私の運命)

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[いや、俺が死んだのはあんたのせいじゃないよ。元々、もらい事故だったんだろ? それに、あの時は色々な偶然が重なってて。もうそういう運命だったとしか思えないし]

本気で言っているようだ。
どう考えても、死因は前世の俺だ。恨んでもいいだろうに。

なんと度量が大きいのだろう。


英司が倒れた後の話をし、名前などを確認するために手荷物を調べた、と言ったら。
アンリの頬がぴくりと動いた。目が泳いでいる。

俺に、というか。
ヘンリーに所持していた同人誌を見られてしまったことが気になるようだ。

まあ、かなり人を選ぶ内容だったからな。
ヘンリーは気にしてなかったが。には刺激が強すぎる。


この世界には、ああいった書物は存在しないしな。


*****


[わたしは、……わたしが貴方を幸せにしたい、と思いました]

あの時、ベッドに横たわる意識のない英司を見ながらヘンリーが思っていたことを伝えた。
それまで生きてきたすべてを擲ってでも、手に入れたかった。

その思いは、純粋な愛だけではなかったが。


アンリは困ったような顔をした。
ヘンリーが英司の境遇に同情したから、そう思ったように聞こえたのだろう。

残念ながらヘンリーはそんなに甘い男ではないのだが。冷血といってもいい。

[いえ、貴方を幸せにしたいと願ったのは、同情や責任感だけではありません。わたしには、があったのです]
同情ではないということだけは、伝えておこう。

[……下心? 持ってた同人誌とかからガチオタとみて、オタクカルチャーについての取材をしようと思ったとか?]
それくらいなら、もし意識があれば協力したと思う、なんて可愛いことを言う。

41歳だった英司の記憶を持っているのに。何故そんなに純粋なんだろう。
抱きしめたくなってしまう。


[貴方は、41という年齢にはとても思えないほど愛らしく。顔も身体も、わたしの理想そのものだった。……わたしは、意識のない貴方を見て、心を奪われたのです]

英司の肉体。
こうして瞼を閉じれば、目に浮かぶ。

今のアンリの姿も勿論美しく芸術的だが。英司は英司でぬいぐるみのような愛らしさを持っていた。日本人は肌がきめ細かく、触り心地も良いのだと知った。


[……はあ!? ええと。……今、何て?]

[貴方はわたしより5つ年上には見えないほど可愛くて顔も身体もわたしの理想そのもの。意識がなくとも、わたしが貴方に恋をしたのは無理からぬことだと]

もう一度言うと。
アンリはえー、マジでーと頭痛を堪えるように額を押さえた。

まさか前世での自分がヘンリーのハートを射止めたなんて思いもよらなかった、という様子だ。奥ゆかしい。


*****


[わたしはゲイですが。それまで決まったパートナーはいませんでした。ああ、わたしの運命の人は日本にいたのだと、目を覚ますのを待っていたのに。……神は無慈悲にも、わたしの元から貴方の魂を強引に連れ去った]

ヘンリーは魔術を使って、この世界まで英司の魂を追いかけてきた。
その魂が器を得て、生まれ変わったのが今の俺だ。

異世界の壁を破るのは、到達者レベルの魔術師が数人がかりでもかなり困難なものだった。
この世界のように、魔素が豊富ではないから。

それで少々無茶をしたため、疲弊して、魂を休ませていたようだ。
だから今まで前世のことを思い出せなかったのだろう。


それでも、英司の魂を。アンリを見つけ出し、欲したのだから。
我ながら執念深いというか、すごい執着心だ。

さすがに、36年分の記憶が一気に溢れたため、さっきまでは酷い頭痛がしていたが。
もう馴染んだようだ。

幸い、ヘンリーの記憶に乗っ取られることもないまま。俺は俺のままで、ヘンリーの記憶を持っている状態だ。
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