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藍川透の回想
呪われた侯爵、再び
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来客の女性は、テオドゥルフ侯爵を見据えると。
赤い唇を弓なりにして笑った。
「ルイーザよ。お忘れかしら? 呪いが解けたようで。おめでたいこと」
全然おめでたそうに聞こえない。
なんだかいやな感じだ。
「!」
彼女の名前を聞いて、侯爵は一瞬で緊張した表情になり。
俺を、背に庇うようにして立った。
来客が誰だか思い出したのか。
やっぱり、侯爵が昔弄んでポイ捨てした女の人だったのかな?
「その女が解いたのね! 何が『女性の美しさは顔ではない、心だ』よ。きれいごと言っておいて! やっぱり最終的には見た目が綺麗な若い女を選ぶんじゃない!!」
キー、と悔しそうにハンカチを噛んでいる。
ああ、そう言って口説いたくせに、弄ぶだけ弄んで振ったのか。
最低だな……。
顔についてのコメントは控えるが。
胸は大きいし。下半身はドレスで見えないけど、スタイルの良さそうな、妙齢の女性だった。
彼女の顔を覚えてなかったってことは。つまり、身体だけが目当てで。
ヤるだけヤったらポイしたんだな。……最低だな!
思わず、侯爵を軽蔑の目で見てしまう。
「……何故ト……ラズールまで、そのような目で私を見る?」
「いや、遊び人、ほんっと最低だなって」
反省して欲しい。
って、もう罰は充分受けてるのかな?
*****
ルイーザ嬢は立ち上がって。
血走った眼でテオドゥルフ侯爵をキッ、と睨みつけた。
「呪いが解けて美女と結婚したというから。お祝いを言いに来たのよ!」
こ、こわい……。
全然お祝いを言いに来たって感じじゃない。
「Theodulf・Agnar・von・Bertrand=Nebelhagen・Zio・Montellio」
侯爵を指差すと。彼女は侯爵のフルネームを言った。
「Species vero redire!」
……え?
その呪文は。
”真実の姿”になる魔法では?
その人の魂の持つ、ありのままの姿に変わる魔法。
どういうことだ、と侯爵を見ると。
侯爵は、再び獣……狼男の姿になっていた。
胸ボタンがはじけて、もふもふが出てる。
ええっ!? 何で!?
今の、獣の姿に変える魔法じゃなかったぞ!?
「ほら、御覧なさいな。貴方には醜いケダモノの姿がお似合いよ!」
高らかに嘲笑う。
ああ、そうか。
彼女が、侯爵に呪いをかけた強い魔女だったんだ。
それで、侯爵は彼女の前で俺の本名を言うのを控えたんだな。
魔女に本名を知られるのは、魂を握られるのと同じことだ。名前を添えれば、より強力な呪いになるから。
それにしても、自分に呪いを掛けた魔女の顔を覚えてなかったってのはどうなの?
名前だけは憶えてたみたいだけど。
*****
勝ち誇ったように嗤っているルイーザ嬢を茫然と見ていると。こちらへ向かってくる複数の足音が聞こえた。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけた兵士たちは。
再び獣に変わってしまったテオドゥルフ侯爵と、高笑いしてるルイーザ嬢を交互に見て、何が起こったのか、察したようだ。
魔女ルイーザは、もう呪文を唱えられないように布で口を塞がれて、兵士たちに捕らえられた。
逮捕は覚悟の上だったのか、復讐を終えて気力が尽きたのか。それとも、再び呪いを掛けたことで満足したのか。
彼女は抵抗らしい抵抗もせず、おとなしく連行されていった。
魔法の存在するこの世界では、他人に対して掛ける魔法には厳しい制限があるんだそうだ。そりゃそうだ。イタズラし放題だもんな。
法律で禁止された魔法を私利私欲で使い、悪用した魔女は、神聖オルトヴィン帝国の裁判所で審判を受けることになる。
ルイーザはおそらく、死罪になるだろうという話だ。
侯爵に魔法を掛けたの、二回目だし。
死罪になるかもしれないとわかっていても、ひとこと文句を言ってやりたかったのだろうか。
でも、できれば情状酌量して、減刑してあげて欲しいものだ。
彼女は遊び人に女心を弄ばれただけなんだし。
*****
事情聴取を終えた後。
テオドゥルフ侯爵は無言で、再び獣になった自分の手を見ている。
しかし、侯爵の真の姿って、狼男なのか……。
何か、納得。
ケダモノという意味では、間違ってない。
「Maledictusaperio」
試しに、解呪の魔法を唱えてみると。
侯爵は、人間の姿に戻った。
再び人に戻った手を見て、驚いてる。
……あれ? 普通に元の姿に戻ったんだけど。
じゃあ、もしかして。
侯爵とえっちしなくても。
最初から、解呪の魔法を使っていれば、侯爵の呪い、解けてたんじゃないのか……?
何てこった。
失ったものは大きい。
俺の貞操というか、男としての尊厳が……!?
「……トール。私をまた、獣の姿にすることは可能だろうか」
意気消沈した様子で問われる。
「え、うん。彼女と同じ呪文を唱えればできると思うけど」
「ならば、頼む」
「Species vero redire」
さっき彼女が掛けたのと同じ、真実の姿になる呪文を唱えると。
侯爵は、やはり獣の姿になった。
間違いないな。
これが、侯爵の”真実の姿”なんだ。
「獣の姿だと、どうせ結婚相手は見つからないだろうって、セ……初夜を迎えたら解けるように設定したのかも。俺は何も設定してないから、えっちしても戻らないよ?」
実際、女の人は侯爵の獣に変わった姿を見て怯えて近寄りもしなかったっていうし。
えっちすれば誰でも解けるように設定してたのかな?
中出しで解けるとかどんな仕様だよ、って思ってたけど。結婚して子供が欲しかったからとか?
それとも、侯爵が心から反省した頃に現れて。
自分と結婚すれば呪いは解ける、とでも言おうと思ってたのかもしれない。
彼女、まだ侯爵のことを好きみたいだったし。
でも、そんなことしてまで無理に結婚したって、愛なんて芽生えないと思うんだけど。恨まれるだけだよな。
女心はわかんないな。
「そうか……」
侯爵はしょんぼりして、俯いた。耳もへたれて後ろに向いてる。
何だかかわいそうになってくる。
自業自得なんだけど。
鼻の上を撫でて。
侯爵の大きな身体を、ぎゅっと抱き締める。もふもふだ。
俺は、もふもふで、こっちの姿のほうが可愛いと思うんだけどな。
「トール……」
侯爵は、頬を摺り寄せて、俺を抱き締めた。
「本性は、このような醜い獣である私でも、添うてくれるか?」
「ん、」
頷いてみせる。
っていうか。
三日三晩かけて俺のことをお婿に行けない身体にした責任、ちゃんと取れよな?
あと、狼の姿、醜くないし。
可愛いし!
赤い唇を弓なりにして笑った。
「ルイーザよ。お忘れかしら? 呪いが解けたようで。おめでたいこと」
全然おめでたそうに聞こえない。
なんだかいやな感じだ。
「!」
彼女の名前を聞いて、侯爵は一瞬で緊張した表情になり。
俺を、背に庇うようにして立った。
来客が誰だか思い出したのか。
やっぱり、侯爵が昔弄んでポイ捨てした女の人だったのかな?
「その女が解いたのね! 何が『女性の美しさは顔ではない、心だ』よ。きれいごと言っておいて! やっぱり最終的には見た目が綺麗な若い女を選ぶんじゃない!!」
キー、と悔しそうにハンカチを噛んでいる。
ああ、そう言って口説いたくせに、弄ぶだけ弄んで振ったのか。
最低だな……。
顔についてのコメントは控えるが。
胸は大きいし。下半身はドレスで見えないけど、スタイルの良さそうな、妙齢の女性だった。
彼女の顔を覚えてなかったってことは。つまり、身体だけが目当てで。
ヤるだけヤったらポイしたんだな。……最低だな!
思わず、侯爵を軽蔑の目で見てしまう。
「……何故ト……ラズールまで、そのような目で私を見る?」
「いや、遊び人、ほんっと最低だなって」
反省して欲しい。
って、もう罰は充分受けてるのかな?
*****
ルイーザ嬢は立ち上がって。
血走った眼でテオドゥルフ侯爵をキッ、と睨みつけた。
「呪いが解けて美女と結婚したというから。お祝いを言いに来たのよ!」
こ、こわい……。
全然お祝いを言いに来たって感じじゃない。
「Theodulf・Agnar・von・Bertrand=Nebelhagen・Zio・Montellio」
侯爵を指差すと。彼女は侯爵のフルネームを言った。
「Species vero redire!」
……え?
その呪文は。
”真実の姿”になる魔法では?
その人の魂の持つ、ありのままの姿に変わる魔法。
どういうことだ、と侯爵を見ると。
侯爵は、再び獣……狼男の姿になっていた。
胸ボタンがはじけて、もふもふが出てる。
ええっ!? 何で!?
今の、獣の姿に変える魔法じゃなかったぞ!?
「ほら、御覧なさいな。貴方には醜いケダモノの姿がお似合いよ!」
高らかに嘲笑う。
ああ、そうか。
彼女が、侯爵に呪いをかけた強い魔女だったんだ。
それで、侯爵は彼女の前で俺の本名を言うのを控えたんだな。
魔女に本名を知られるのは、魂を握られるのと同じことだ。名前を添えれば、より強力な呪いになるから。
それにしても、自分に呪いを掛けた魔女の顔を覚えてなかったってのはどうなの?
名前だけは憶えてたみたいだけど。
*****
勝ち誇ったように嗤っているルイーザ嬢を茫然と見ていると。こちらへ向かってくる複数の足音が聞こえた。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけた兵士たちは。
再び獣に変わってしまったテオドゥルフ侯爵と、高笑いしてるルイーザ嬢を交互に見て、何が起こったのか、察したようだ。
魔女ルイーザは、もう呪文を唱えられないように布で口を塞がれて、兵士たちに捕らえられた。
逮捕は覚悟の上だったのか、復讐を終えて気力が尽きたのか。それとも、再び呪いを掛けたことで満足したのか。
彼女は抵抗らしい抵抗もせず、おとなしく連行されていった。
魔法の存在するこの世界では、他人に対して掛ける魔法には厳しい制限があるんだそうだ。そりゃそうだ。イタズラし放題だもんな。
法律で禁止された魔法を私利私欲で使い、悪用した魔女は、神聖オルトヴィン帝国の裁判所で審判を受けることになる。
ルイーザはおそらく、死罪になるだろうという話だ。
侯爵に魔法を掛けたの、二回目だし。
死罪になるかもしれないとわかっていても、ひとこと文句を言ってやりたかったのだろうか。
でも、できれば情状酌量して、減刑してあげて欲しいものだ。
彼女は遊び人に女心を弄ばれただけなんだし。
*****
事情聴取を終えた後。
テオドゥルフ侯爵は無言で、再び獣になった自分の手を見ている。
しかし、侯爵の真の姿って、狼男なのか……。
何か、納得。
ケダモノという意味では、間違ってない。
「Maledictusaperio」
試しに、解呪の魔法を唱えてみると。
侯爵は、人間の姿に戻った。
再び人に戻った手を見て、驚いてる。
……あれ? 普通に元の姿に戻ったんだけど。
じゃあ、もしかして。
侯爵とえっちしなくても。
最初から、解呪の魔法を使っていれば、侯爵の呪い、解けてたんじゃないのか……?
何てこった。
失ったものは大きい。
俺の貞操というか、男としての尊厳が……!?
「……トール。私をまた、獣の姿にすることは可能だろうか」
意気消沈した様子で問われる。
「え、うん。彼女と同じ呪文を唱えればできると思うけど」
「ならば、頼む」
「Species vero redire」
さっき彼女が掛けたのと同じ、真実の姿になる呪文を唱えると。
侯爵は、やはり獣の姿になった。
間違いないな。
これが、侯爵の”真実の姿”なんだ。
「獣の姿だと、どうせ結婚相手は見つからないだろうって、セ……初夜を迎えたら解けるように設定したのかも。俺は何も設定してないから、えっちしても戻らないよ?」
実際、女の人は侯爵の獣に変わった姿を見て怯えて近寄りもしなかったっていうし。
えっちすれば誰でも解けるように設定してたのかな?
中出しで解けるとかどんな仕様だよ、って思ってたけど。結婚して子供が欲しかったからとか?
それとも、侯爵が心から反省した頃に現れて。
自分と結婚すれば呪いは解ける、とでも言おうと思ってたのかもしれない。
彼女、まだ侯爵のことを好きみたいだったし。
でも、そんなことしてまで無理に結婚したって、愛なんて芽生えないと思うんだけど。恨まれるだけだよな。
女心はわかんないな。
「そうか……」
侯爵はしょんぼりして、俯いた。耳もへたれて後ろに向いてる。
何だかかわいそうになってくる。
自業自得なんだけど。
鼻の上を撫でて。
侯爵の大きな身体を、ぎゅっと抱き締める。もふもふだ。
俺は、もふもふで、こっちの姿のほうが可愛いと思うんだけどな。
「トール……」
侯爵は、頬を摺り寄せて、俺を抱き締めた。
「本性は、このような醜い獣である私でも、添うてくれるか?」
「ん、」
頷いてみせる。
っていうか。
三日三晩かけて俺のことをお婿に行けない身体にした責任、ちゃんと取れよな?
あと、狼の姿、醜くないし。
可愛いし!
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