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藍川透の回想
真実の姿は
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わからないことは魔女グレアに相談してみよう、って結論になって。
城の地下へ行って、テオドゥルフ侯爵の姿がグレアからはどういう風に見えているか、訊いてみることにした。
「何を今更。狼男だろう?」
グレアはそう言うと。
わら半紙みたいな紙に、木炭でさらさらと、器用に侯爵の似顔絵を描いてみせた。
黒い狼。グレアも俺と同じような姿に見えていたようだ。絵、上手いな。
「ほら、狼だろ? グレアも、俺と同じに見えてるんだ」
その絵を侯爵によく見えるように掲げてみせる。
俺だけに、違う姿が見えている訳でもなかったようだ。
「……どういうことだ?」
侯爵は首を傾げている。
グレアも訳がわからない、という顔をしたので。
グレアにも説明した。
俺とグレアには侯爵が狼男に見えてるけど、どうやら侯爵本人や他の人には、それぞれ違う姿に見えているようだ、と。
*****
「なるほどね……『真実の姿』が、誰の目にも同じに映るとは限らない、ということかい」
魔女グレアの見解では、テオドゥルフ侯爵の持つ魂の基本形は、狼の姿である。
しかし、侯爵に対して恐れなどのマイナス感情を抱いている人間や、疑心暗鬼に囚われている人間には、侯爵が恐ろしい化け物の姿に見えるのだろう、ということだった。
なら、呪いをかけた魔女ルイーザには、どれほどの化け物に見えたんだろうか。
「狼か……ああ、それで膨らんで、なかなか抜けなかったのだな」
侯爵は、自分の身体は犬と同じ構造だったのか、と納得していた。
おいおい、今やっと気づいたのかよ、と一瞬思ったけど。
ああ、そうか。
魔女ルイーザに呪いをかけられて獣の姿になっちゃって以来、侯爵はずっと、女の人というか色んな人から怯えられて、避けられてたんだっていうし。
その間、エロいことはしなかった……というか、出来なかったんだ。
中身は理性のある人間だから、見境なく女性を襲うなんてこともしないし。
血も涙もない野獣侯爵って呼ばれてる割にけっこう優しいんだよな。
犬の雄って、雌の発情フェロモン嗅がないと発情しないんだっけ?
だから侯爵も、今まで、自分の身体の構造のことを知らなかったんだろう。
なら、仕方ないか。
膨らんだり長時間突っ込まれてたの苦しかったけど、許してやろうかな。
「ふふん。呪いが解けなくても幸せそうで何よりだねえ?」
グレアはにやにやしている。
……うう。
侯爵のバカたれ。
獣の姿でえっちしたこと、バレちゃったじゃないかよ。
「あんたの『真実の姿』は16歳の少年のようだけど。羨ましいねえ」
グレアは俺を見て、心底羨ましそうに息を吐いた。
元の姿になった時、若くなってるとは思ってたけど。16歳の時の俺だったのか。
何でだろ?
「グレアも、かけてみる?」
同じ魔法を掛けてみるか、聞いてみたら。
「いやいや、お断りだよ。普通は、己の『真実の姿』なぞ、怖くて直視したくないもんだ。大抵の場合、おぞましいものを見ることになるからね」
心底嫌そうな顔をして、大袈裟に身体を震わせた。
そんなもんなのか。
見れば、侯爵もうんうんと頷いている。
侯爵の真実の姿、可愛いけどなあ。
「だから羨ましいと言ったのさ。侯爵は幸せものだよ」
グレアはにやりと笑った。
*****
16歳の時の俺、か。
……ああ、そうだ。
高校に入学した頃、俺は、自分で文章を入力してRPGが作れるソフトを使って、自分で考えたシナリオで、ゲームを作ってみたんだ。夏休みをまるまる使って頑張った。
自画自賛だけど。初めて作ったにしては良くできたと思ったから、友達に見せたら。
藍川すげえな、面白いじゃん、って言われて。クラス中に広まるくらい話題になって。みんなから褒められた。
初めて作ったゲームで成功体験を得て調子に乗った俺は、無料のフリーゲームとして自分の作ったゲームをネットで公開した。
もちろん、まだ拙いところも色々あったし、好意的な意見だけじゃなく誤字報告やダメ出しも来たけど。初めてだってこともあってか、俺の初ゲームはおおむね好評だった。
今思えば、運が良かった。
俺が登録させてもらったフリーゲーム紹介サイトの管理人は感想掲示板で「つまんね」、「時間返せ」とかの悪意ある一言コメントをNG設定にしてくれてたお陰もあったと思う。
見知らぬ人が面白いって言ってくれたのが、とても嬉しかった。
それから、プログラムにも手を出すようになり、グラフィックやキャラクターデザインにも興味を持って。
ツールを使わずにゼロから自分の手でゲームを作ってみたくなった。
そういう訳で。
自分の進む道を決めたのが、16歳の時だ。
だから、”真実の姿”が16歳の時の俺の姿になったのかな?
それで俺は、将来ゲームを作る仕事をしたいと思って。大学は理工学部情報工学科を受験して、無事合格。夢の為なら、勉強も苦じゃなかった。
大学では入学式の時に偶然知り合った先輩から電脳部……通称ゲーム部ってサークルに勧誘された。そこは既存のゲームをやるんじゃなくて、プログラムから何から全部チャレンジするサークルだった。そんなの願ったり叶ったりで。喜んで参加したっけ。
俺の作ったゲームを知っていた先輩もいて。プログラムやシナリオ作りの腕を褒められたり。苦手な部分をつつかれて勉強したりして。
卒業した先輩が、今のゲーム部メンバーで会社を立ち上げたいって話になって、企画から参加させてもらった。
最初は大手からの下請け作業から始まって。ミニゲームを作ったり、指名で仕事をもらえるようになったりして。
予算とか期限とか、思うように行かないことも多かったけど。
ゲームを仕事にすることが出来た。16歳の頃の夢を、実現していたんだ。
思えば俺、幸せな人生だったんだなあ。
でも、欲を言えば仲間達と、もっともっと、沢山の世界を作りたかったな。
この世界とは縁で繋がっていて、俺のオリジナルじゃなかったことが残念だ。
……って、他のゲームもそうだったりして。
それは悲しい。
城の地下へ行って、テオドゥルフ侯爵の姿がグレアからはどういう風に見えているか、訊いてみることにした。
「何を今更。狼男だろう?」
グレアはそう言うと。
わら半紙みたいな紙に、木炭でさらさらと、器用に侯爵の似顔絵を描いてみせた。
黒い狼。グレアも俺と同じような姿に見えていたようだ。絵、上手いな。
「ほら、狼だろ? グレアも、俺と同じに見えてるんだ」
その絵を侯爵によく見えるように掲げてみせる。
俺だけに、違う姿が見えている訳でもなかったようだ。
「……どういうことだ?」
侯爵は首を傾げている。
グレアも訳がわからない、という顔をしたので。
グレアにも説明した。
俺とグレアには侯爵が狼男に見えてるけど、どうやら侯爵本人や他の人には、それぞれ違う姿に見えているようだ、と。
*****
「なるほどね……『真実の姿』が、誰の目にも同じに映るとは限らない、ということかい」
魔女グレアの見解では、テオドゥルフ侯爵の持つ魂の基本形は、狼の姿である。
しかし、侯爵に対して恐れなどのマイナス感情を抱いている人間や、疑心暗鬼に囚われている人間には、侯爵が恐ろしい化け物の姿に見えるのだろう、ということだった。
なら、呪いをかけた魔女ルイーザには、どれほどの化け物に見えたんだろうか。
「狼か……ああ、それで膨らんで、なかなか抜けなかったのだな」
侯爵は、自分の身体は犬と同じ構造だったのか、と納得していた。
おいおい、今やっと気づいたのかよ、と一瞬思ったけど。
ああ、そうか。
魔女ルイーザに呪いをかけられて獣の姿になっちゃって以来、侯爵はずっと、女の人というか色んな人から怯えられて、避けられてたんだっていうし。
その間、エロいことはしなかった……というか、出来なかったんだ。
中身は理性のある人間だから、見境なく女性を襲うなんてこともしないし。
血も涙もない野獣侯爵って呼ばれてる割にけっこう優しいんだよな。
犬の雄って、雌の発情フェロモン嗅がないと発情しないんだっけ?
だから侯爵も、今まで、自分の身体の構造のことを知らなかったんだろう。
なら、仕方ないか。
膨らんだり長時間突っ込まれてたの苦しかったけど、許してやろうかな。
「ふふん。呪いが解けなくても幸せそうで何よりだねえ?」
グレアはにやにやしている。
……うう。
侯爵のバカたれ。
獣の姿でえっちしたこと、バレちゃったじゃないかよ。
「あんたの『真実の姿』は16歳の少年のようだけど。羨ましいねえ」
グレアは俺を見て、心底羨ましそうに息を吐いた。
元の姿になった時、若くなってるとは思ってたけど。16歳の時の俺だったのか。
何でだろ?
「グレアも、かけてみる?」
同じ魔法を掛けてみるか、聞いてみたら。
「いやいや、お断りだよ。普通は、己の『真実の姿』なぞ、怖くて直視したくないもんだ。大抵の場合、おぞましいものを見ることになるからね」
心底嫌そうな顔をして、大袈裟に身体を震わせた。
そんなもんなのか。
見れば、侯爵もうんうんと頷いている。
侯爵の真実の姿、可愛いけどなあ。
「だから羨ましいと言ったのさ。侯爵は幸せものだよ」
グレアはにやりと笑った。
*****
16歳の時の俺、か。
……ああ、そうだ。
高校に入学した頃、俺は、自分で文章を入力してRPGが作れるソフトを使って、自分で考えたシナリオで、ゲームを作ってみたんだ。夏休みをまるまる使って頑張った。
自画自賛だけど。初めて作ったにしては良くできたと思ったから、友達に見せたら。
藍川すげえな、面白いじゃん、って言われて。クラス中に広まるくらい話題になって。みんなから褒められた。
初めて作ったゲームで成功体験を得て調子に乗った俺は、無料のフリーゲームとして自分の作ったゲームをネットで公開した。
もちろん、まだ拙いところも色々あったし、好意的な意見だけじゃなく誤字報告やダメ出しも来たけど。初めてだってこともあってか、俺の初ゲームはおおむね好評だった。
今思えば、運が良かった。
俺が登録させてもらったフリーゲーム紹介サイトの管理人は感想掲示板で「つまんね」、「時間返せ」とかの悪意ある一言コメントをNG設定にしてくれてたお陰もあったと思う。
見知らぬ人が面白いって言ってくれたのが、とても嬉しかった。
それから、プログラムにも手を出すようになり、グラフィックやキャラクターデザインにも興味を持って。
ツールを使わずにゼロから自分の手でゲームを作ってみたくなった。
そういう訳で。
自分の進む道を決めたのが、16歳の時だ。
だから、”真実の姿”が16歳の時の俺の姿になったのかな?
それで俺は、将来ゲームを作る仕事をしたいと思って。大学は理工学部情報工学科を受験して、無事合格。夢の為なら、勉強も苦じゃなかった。
大学では入学式の時に偶然知り合った先輩から電脳部……通称ゲーム部ってサークルに勧誘された。そこは既存のゲームをやるんじゃなくて、プログラムから何から全部チャレンジするサークルだった。そんなの願ったり叶ったりで。喜んで参加したっけ。
俺の作ったゲームを知っていた先輩もいて。プログラムやシナリオ作りの腕を褒められたり。苦手な部分をつつかれて勉強したりして。
卒業した先輩が、今のゲーム部メンバーで会社を立ち上げたいって話になって、企画から参加させてもらった。
最初は大手からの下請け作業から始まって。ミニゲームを作ったり、指名で仕事をもらえるようになったりして。
予算とか期限とか、思うように行かないことも多かったけど。
ゲームを仕事にすることが出来た。16歳の頃の夢を、実現していたんだ。
思えば俺、幸せな人生だったんだなあ。
でも、欲を言えば仲間達と、もっともっと、沢山の世界を作りたかったな。
この世界とは縁で繋がっていて、俺のオリジナルじゃなかったことが残念だ。
……って、他のゲームもそうだったりして。
それは悲しい。
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