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Ⅰ
異世界で、第一国民発見。
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風になびく鮮やかな金髪に、空をそのまま映したような綺麗な蒼い瞳。
彫りも深く、顔立ちはやたら整っている。
これまた目にも鮮やかな青いマントに、白い騎士風の装束で。
白馬が似合いそうな風貌なのに、世紀末覇者が乗るようないかつい黒い馬に乗っている。
どこからどう見ても、西洋人の風貌だった。
服装も。
*****
第一村人……じゃなかった。
異世界で、初めての、人間との遭遇である。
こうして、異世界だというのにこの人の言葉が普通に理解できているのは、神様が『それだけじゃ足りないだろう。これもつけなさい』と言って、色々おまけにつけてくれた能力のひとつで、この世界の言葉ならどんな言語でも理解できる、というとんでもない能力だ。
そういえば、異世界なんだから言葉も違って当たり前だった。
そういう考えは全く頭になかったのだから、我ながらマヌケである。神様優しい。
しかし俺、この顔で大丈夫なのだろうか? めちゃくちゃ浮いてないか?
……いや、まだわからない。
この人だけが特別、西洋人っぽい容姿だったという可能性もある。
色々な人種がいる世界かもしれないし。
エルフとか獣人とかいる世界なら、多少の髪や肌の色の違いくらい許容範囲だろう。
突然の遭遇で固まってしまい。
言葉もなく、ぽかんと青年を見上げていたら。
青年は、ひらりと身軽に馬から降りた。
「このような呪われた荒野に子供が一人でいるので、魔物と勘違いしたようだ。私の連れが驚かせてしまい、すまなかった」
俺と目線を合わせるようにしゃがみ込んで。申し訳なさそうに謝ってきた。
こんな、どう見ても子供にしか見えない俺に、わざわざ馬から降りて、屈んで目線を合わせてまで、誠意ある謝罪をするなんて。
顔がいい上に、いい人そうだ。世の中間違ってる。天は二物を与えずというのは嘘だ。いや俺も色々神様からスキル貰ったけど。
……っていうか。
ここって、呪われた荒野だったんだ? いいけど。
「気性の荒いナムグンがこれほど懐くとは。非常に珍しいことなのだよ」
青年は、馬の鼻面を撫でながら、不思議そうに言った。
この馬の名前は、ナムグンというのか。
自分にしか気を許さない愛馬が、俺に対してはおとなしく、敵意を示さないので。魔物ではなく、人間の子供だと判断したようだ。
異世界転生してすぐに魔物と間違われて討伐されなくてよかった。
と、彼の腰にある剣を見ながら思った。
ナムグン、ありがとう。きみは命の恩人……恩馬だ。
よしよし。
すり寄ってきて、かわいいな。サイズ、めちゃくちゃでかいけど。
毛足が長いから、触り心地も良い。
異世界初の動物が友好的な馬で良かった。生き物も地球と似てるのかな。だといいけど。
「この辺りでは見かけないような顔立ちだが。どこから来たのかな? 名は? 保護者はいないのか?」
子供に見える容姿なためか、当然のことながら質問責めである。
……ああ、やっぱり、この世界ではあまり見かけないような顔立ちなのか。
どう見てもモンゴロイド系だもんなあ。
身体は若返ったとはいえ、俺の実年齢は35。いいトシした大人なので、一人でいても別に問題ないはずだ。
しかし、アジア系でも日本人は更に若く見えるらしいし。保護者の必要な年齢に思われるだろうことは確実である。
何と言ったらいいのやら。
とりあえず、迷子ではないことは伝えておかねば。
「ええと。リン・クレーバーンです。保護者はいませんが……、」
「何と、神の使いか!」
神様からもらった名前を名乗ると、青年は目を瞠った。
「こことは異なる世界から、我が国キングスレイへようこそ。国を代表し、歓迎しよう」
彼は手を胸に当て、腰を折り。
騎士のように、華麗に礼をしてみせた。
……いきなり異世界から来たことがバレてしまったんだが。
ちょっと。
神様、どういうことだよ!?
*****
あわあわしているうちにひょいと抱え上げられ、ナムグンの背に乗せられて。
そのままどこかへ連行されがてら、彼は名乗った。
この国は、キングスレイという名の国で。彼の名前はウィリアム・ヘンドリック・ゲインズ。
年齢は17歳だそうだ。思ったより若かった。
洋風な名前だ。どこかで聞いたことのあるような響きの名前なのは、管理している神様が地球と同じだからだろうか?
そして。
彼は一人ではなくて、他に二人のお供がいたことに、ここでようやく気づいたのだった。
ぼんやりしすぎである。
オズワルド・ランサムという、気の良さそうな赤毛で緑の目をした騎士姿の青年と。
オーソン・スチュワートという黒髪に青い目の、従者……というか執事っぽい格好をした無表情な青年だ。
この二人も、鹿毛と栗毛で毛色は違うが、毛足が長く脚の太い馬に乗っていた。
ウイリアムとオズワルドは赤いマントを羽織った西洋の騎士、オーソンは英国執事みたいな服装で。
全員、いかにも白馬にでも乗っていそうな容姿をしているのに、乗ってる馬が揃って世紀末覇王の馬っぽいのが違和感があって面白い。
惜しむらくは、この面白さはこの世界では誰とも共感されないだろうと思われることだが。
それは仕方ない。
子供の頃に体験した引き馬以外の乗馬は初めてで、地面との距離もあって少々不安もあったが。ウィリアムが手綱を持った両腕と太ももでしっかりと支えてくれているので、かなり安定感があった。
35歳のいいトシしたおっさんが17歳の青年の腕の中、という状況は情けないというかちょっとアレだが。
今は子供の姿で、巨大な馬の手綱や鐙には足も手も届かないのだから、しょうがないと諦めよう。
一人で乗馬なんてできないだろうし。
彫りも深く、顔立ちはやたら整っている。
これまた目にも鮮やかな青いマントに、白い騎士風の装束で。
白馬が似合いそうな風貌なのに、世紀末覇者が乗るようないかつい黒い馬に乗っている。
どこからどう見ても、西洋人の風貌だった。
服装も。
*****
第一村人……じゃなかった。
異世界で、初めての、人間との遭遇である。
こうして、異世界だというのにこの人の言葉が普通に理解できているのは、神様が『それだけじゃ足りないだろう。これもつけなさい』と言って、色々おまけにつけてくれた能力のひとつで、この世界の言葉ならどんな言語でも理解できる、というとんでもない能力だ。
そういえば、異世界なんだから言葉も違って当たり前だった。
そういう考えは全く頭になかったのだから、我ながらマヌケである。神様優しい。
しかし俺、この顔で大丈夫なのだろうか? めちゃくちゃ浮いてないか?
……いや、まだわからない。
この人だけが特別、西洋人っぽい容姿だったという可能性もある。
色々な人種がいる世界かもしれないし。
エルフとか獣人とかいる世界なら、多少の髪や肌の色の違いくらい許容範囲だろう。
突然の遭遇で固まってしまい。
言葉もなく、ぽかんと青年を見上げていたら。
青年は、ひらりと身軽に馬から降りた。
「このような呪われた荒野に子供が一人でいるので、魔物と勘違いしたようだ。私の連れが驚かせてしまい、すまなかった」
俺と目線を合わせるようにしゃがみ込んで。申し訳なさそうに謝ってきた。
こんな、どう見ても子供にしか見えない俺に、わざわざ馬から降りて、屈んで目線を合わせてまで、誠意ある謝罪をするなんて。
顔がいい上に、いい人そうだ。世の中間違ってる。天は二物を与えずというのは嘘だ。いや俺も色々神様からスキル貰ったけど。
……っていうか。
ここって、呪われた荒野だったんだ? いいけど。
「気性の荒いナムグンがこれほど懐くとは。非常に珍しいことなのだよ」
青年は、馬の鼻面を撫でながら、不思議そうに言った。
この馬の名前は、ナムグンというのか。
自分にしか気を許さない愛馬が、俺に対してはおとなしく、敵意を示さないので。魔物ではなく、人間の子供だと判断したようだ。
異世界転生してすぐに魔物と間違われて討伐されなくてよかった。
と、彼の腰にある剣を見ながら思った。
ナムグン、ありがとう。きみは命の恩人……恩馬だ。
よしよし。
すり寄ってきて、かわいいな。サイズ、めちゃくちゃでかいけど。
毛足が長いから、触り心地も良い。
異世界初の動物が友好的な馬で良かった。生き物も地球と似てるのかな。だといいけど。
「この辺りでは見かけないような顔立ちだが。どこから来たのかな? 名は? 保護者はいないのか?」
子供に見える容姿なためか、当然のことながら質問責めである。
……ああ、やっぱり、この世界ではあまり見かけないような顔立ちなのか。
どう見てもモンゴロイド系だもんなあ。
身体は若返ったとはいえ、俺の実年齢は35。いいトシした大人なので、一人でいても別に問題ないはずだ。
しかし、アジア系でも日本人は更に若く見えるらしいし。保護者の必要な年齢に思われるだろうことは確実である。
何と言ったらいいのやら。
とりあえず、迷子ではないことは伝えておかねば。
「ええと。リン・クレーバーンです。保護者はいませんが……、」
「何と、神の使いか!」
神様からもらった名前を名乗ると、青年は目を瞠った。
「こことは異なる世界から、我が国キングスレイへようこそ。国を代表し、歓迎しよう」
彼は手を胸に当て、腰を折り。
騎士のように、華麗に礼をしてみせた。
……いきなり異世界から来たことがバレてしまったんだが。
ちょっと。
神様、どういうことだよ!?
*****
あわあわしているうちにひょいと抱え上げられ、ナムグンの背に乗せられて。
そのままどこかへ連行されがてら、彼は名乗った。
この国は、キングスレイという名の国で。彼の名前はウィリアム・ヘンドリック・ゲインズ。
年齢は17歳だそうだ。思ったより若かった。
洋風な名前だ。どこかで聞いたことのあるような響きの名前なのは、管理している神様が地球と同じだからだろうか?
そして。
彼は一人ではなくて、他に二人のお供がいたことに、ここでようやく気づいたのだった。
ぼんやりしすぎである。
オズワルド・ランサムという、気の良さそうな赤毛で緑の目をした騎士姿の青年と。
オーソン・スチュワートという黒髪に青い目の、従者……というか執事っぽい格好をした無表情な青年だ。
この二人も、鹿毛と栗毛で毛色は違うが、毛足が長く脚の太い馬に乗っていた。
ウイリアムとオズワルドは赤いマントを羽織った西洋の騎士、オーソンは英国執事みたいな服装で。
全員、いかにも白馬にでも乗っていそうな容姿をしているのに、乗ってる馬が揃って世紀末覇王の馬っぽいのが違和感があって面白い。
惜しむらくは、この面白さはこの世界では誰とも共感されないだろうと思われることだが。
それは仕方ない。
子供の頃に体験した引き馬以外の乗馬は初めてで、地面との距離もあって少々不安もあったが。ウィリアムが手綱を持った両腕と太ももでしっかりと支えてくれているので、かなり安定感があった。
35歳のいいトシしたおっさんが17歳の青年の腕の中、という状況は情けないというかちょっとアレだが。
今は子供の姿で、巨大な馬の手綱や鐙には足も手も届かないのだから、しょうがないと諦めよう。
一人で乗馬なんてできないだろうし。
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