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黄龍大帝のツガイ

思い立ったが厄日

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両親は、子供の頃に事故で死んだ。


母方のじいちゃんとばあちゃんに育てられたけど。
二人は年金生活で、小学生の子供を育てるにはカツカツだった。

子供の頃から内職や家事を手伝って、家計を助けてきた。
でも、そんな生活はそれほど苦でもなかった。


高校二年のときにばあちゃんが死んで。
しばらくして、後を追うようにじいちゃんも死んだ。

他に、親戚はいなかった。
頼れる人も。

資産価値のないボロ家だったのに、立地だけは良かったようだ。高額な相続税とかを請求されてしまい、高校卒業と同時に住んでいた家を売るはめになった。

慌てて寮のある会社を選んですぐに入寮できたのは良かったけど。
最初に入社したのは、超絶ブラックな会社だった。

初日からサービス残業でこき使われて。
働けど働けど我が暮らし楽にならざり、である。

土日祝日も休めず、夜11過ぎまで及ぶサービス残業で寝不足になって。
過労死寸前になって、倒れそうになっていたところで、会社が潰れた。

給料は未払いだ。


*****


次の会社は、一週間でクビになった。

理由は、社長のセクハラだった。
やたらベタベタ触ってくるかと思ったら、トイレで襲われかけた。


昔から俺は、何故だか男にばかりやたらモテた。

告白をされるくらいならまだマシだが。
このように、二人きりになった途端、無理矢理襲い掛かってくるようなのもいた。

やつらの言い分によると、俺からは男を誘うようながするんだという。

こっちはまったく誘ったつもりなんてないし。
男なんか大嫌いだ。


襲われて。
助けて、と声を上げたら人が来て。

俺が誘惑したせいにされた挙句、クビにされたのだ。
社長は妻帯者で、子供もいる身だった。

きちんと訴えれば勝てたのかもしれないけど。
男に襲われただなんて理由は恥ずかしくて、そんな勇気は持てなかった。

社長も、さすがに良心が痛んだのか、それとも口封じのつもりか。
勤続一週間なのに退職金が貰えたのは不幸中の幸いか。


しかし、そんな退職理由が人に言えるはずもなく。
一身上の都合では、こらえ性のない人のように見られてしまう。

寮を追い出され、住所不定。
ネカフェで夜を過ごす。

携帯電話も料金未納でもうすぐ使えなくなりそうだ。


就職活動は20連続で空振りに終わり。
とりあえずのつなぎにしようと受けたバイトの面接は日本語もろくに話せない留学生に負けた。

恐らく俺が小さくて、非力そうだからだろう。


税金はやたら高いし。
支給されるという70歳まで生きられそうにないのに、何で年金なんて払わなくちゃいけないのか理解できない。

ほとんど医者にも掛からないのに、健康保険料もやたら高い。
そもそも医者に行く金銭的余裕もない。

こんな体たらくでは、普通に結婚するどころか、一人で生活すらしていけないのではないだろうか。

夢も希望もない。
生きていてもいいことなんて、何にもない。


辛いばかりの人生だった。
じいちゃんばあちゃんが死んで、どれだけ二人が心の支えだったのかを知った。


*****


この世に思い残すことなんてない。


……そうだ、死のう。


死ねばきっと、楽になれるだろう。
そう思い立ったら、いてもたってもいられなくなって。


なけなしの金が入った財布を掴んで、家を飛び出した。
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