30 / 38
建国記念日をつくろう。
皇帝:皇帝としての想い
しおりを挟む
按察官のマルクスと神祇官のルキウスが来て。
カナメは先ほどの話をした。
帝政にして百年。
魔王となったプロカスを封じた英雄の一人として讃えられた私は、意外にも新たに国民になった者にも好意的に受け入れられ。
そのせいか、大した内乱も無く、水道など環境を整えたり国政のことで色々走り回っているうちに百年過ぎていた。
丁度建国百年となるこの年に、私の運命のツガイであるカナメが異世界より舞い降りてきたのは、神が与えてくれたご褒美なのだろうか、と考えるのは些か自惚れすぎか?
カナメは、これまで娶る者もなく、心から愛した者も居なかった私に。
誰かを愛し、愛される幸せを教えてくれた。
私の元へカナメを寄越してくれた神に、心から感謝したい。
*****
「あ。そういえば、建国したのって、正式には百年前の何月何日?」
「ええと……確か、12月の、25日あたりだったか?」
マルクスを見ると。
「ガイウス陛下が皇帝に成られた日であれば、そうですね」
呆れたような顔をされた。
そういえば、忘れないようにと誕生日と建国……正式に皇帝に就任する日取りを合わせたのだった。
すっかり忘れていた。
まあ百年も前の話だし、私の生まれた日などはどうでもよかったが。
「じゃ、その日で大丈夫だ。よかったあ。まだこれからだった」
カナメがほっとしている。
ああ、愛らしい。
適当な日に決めなくて良かった。
皆で我が国の祝日の話をしていて。
職種により休める日は各々違うので、特に多く祝日を設けていなかったが。
「前居たとこは、国の象徴……ええと、ここではガイウスになるのかな? の誕生日が休みだったよ」
国王が、国民に自分の誕生を祝わせるのか?
それは図々しいと思われないのだろうか。
士気を上げるための古来よりの決まりだというが。
兵達が何かと「皇帝陛下万歳」と讃えるのもどうかと思っているのに。
「私の誕生日よりも、カナメの誕生日や舞い降りてきた日を祝いたい」
再び襲ってきた魔王を、その偉大なる魔力で斃したカナメを、国民は英雄だと認識しているのだ。
私の個人的な感想ではなく、おそらく皆もそう思うだろう。
見ると、確かにそうだ、とマルクスとルキウスが頷いていた。
この正直者らめ。
*****
「っていうか、ガイウスの誕生日っていつなの?」
丁度、さっき思い出したところである。
「私は12月25日だが、カナメは?」
「おお、建国記念日と一緒じゃん。ダブルでめでたいな」
めでたい、と言ってくれるのは嬉しい。
ああ、愛する人に祝ってもらえるならば、誕生日というのも、意味のある日であったのかと思える。
で。
肝心のカナメの誕生日は? と期待の目で見ていると。
「……俺? ……6月6日……」
言いにくそうに言った。
6月6日だと!?
忘れもしない、その日は。
「カナメがここに来た時ではないか……! ああ、とうに終わっている……!!」
あの日がカナメの誕生日であったと知っていれば。
盛大に祝っていたものを……!!
まさか、私の天使が我が国へ舞い降りてきてくれた日と、私の最愛の后が生まれた日が同じだとは……!!
「来年は国民の休日にして、カナメ様降臨及び聖誕祭を盛大にお祝いしましょう。予算を確保しておきます」
さすがはマルクス。
派手に花火など上げて、盛大にやろう。
よくできた按察官を得られ、我が帝国はこの先も安泰であろう。
150年ほど前に、能力があるものの閑職に追いやられていたマルクスを按察官として誘っておいて良かった。
私は臣下に恵まれているな。
「それについては、後で打ち合わせをしようではないか」
マルクスも頷いた。
本人の目の前で話してしまっては、色々台無しである。
*****
まだ期間もあるし、正式な名称を考えるのは後回しにしておこう、と。
「じゃあ、建国記念日兼、皇帝生誕祭(仮)ということで……」
仮の名称で計画を進めることになった。
「出し物はどうしよう……」
カナメは首を傾げて悩んでいる。
その日の催しの内容か。
国民の休日にし、テルマエを無料開放。
コロッセウムなどに人を呼び、記念闘技会を催すのが通例だろうか。
建国百年の記念に見合うような切り札はあったか……?
「じゃあ、その日に”特別試合”をしたらどうだろう?」
ルプスが兵士に案内され、会議室に入って来た。
臣下になるのは断られたが、ルプスは建国前、かなり尽力をしてくれたのだ。
我が国にとっては、元筆頭剣闘士であり、魔王封印及び此度の魔王討伐の英雄でもあるためか。
剣闘士を引退した今でも根強い人気がある。
”特別試合”か。
なるほど、先日の勝負も魔王の介入でうやむやになったし。
再戦をするのも良いだろう。
人気剣闘士であったルプスの復活には、国民も喜びそうだ。
先日も、どこから聞きつけたか、短時間のうちにコロッセウムが満員になるほど大勢の国民が集まっていた。
おかげでこちらも剣闘士流の戦いをする羽目になり、無駄な体力を消耗してしまったが。
真剣勝負ではあった。
久しぶりに師と剣を交えることが出来、楽しかった。
*****
「ルプス。どうしてここに?」
「私がお呼びしました。祭りならば、記念闘技会を開く可能性も高いので」
カナメの問いに、マルクスが答える。
どうだ、やるか? というルプスの視線に。
「よかろう。その勝負、受けて立とう」
ここで受けねば男ではあるまい。
「言っておくが、わざと負けたりしないからな」
ルプスは、未だに現役で戦えるほど、己を鍛えている。
それは、復活した魔王と戦うためだったが。
プロカスが捕らえられた後も、その目に宿る闘志は消えていない。
「当たり前だ」
ひとたび剣を握れば、決して気を抜かない。
それでこそ、戦場で”死を運ぶ狼”と恐れられた男ある。
「牙を抜かれた狼に勝っても武功にはならないしな? 本気で行こう」
私の言葉に、ルプスが苦笑する。
「剣闘士を引退した男に勝って、どうするんだかな?」
ルプスの元には、未だに手合わせを希望する挑戦者が来るそうだ。
カナメの助言のおかげだが、ゴーレムをあっさりと二体も斃したことで、更に名が上がったからな。
また増えるだろう。
私も、同じだけ斃したのだが。
こちらには、なかなか挑戦者は現れない。
勝てば、皇帝を継ぐことになるせいか?
まず、私に勝つことができれば、の話だがな。
*****
カナメは毎朝私に『神の加護』を掛けてくれる。
魔力を777も削る神聖魔法である。
効果は、対象者を一日、あらゆる災厄から身を護るというものだ。
どんなにカナメを貪った翌日でも、それを欠かさない。
私を心配し、愛してくれているあかしであると感じる。
魔力は無限大だから、気軽に出来るんだよ、と言うが。
神がカナメにそれだけ膨大な魔力を与えたのは、カナメならば悪いことには使わないとわかっていたからであろう。
実際、姿を変えるのと、”天使の羽”くらいしか自分に掛けているのを見たことがない。
攻撃魔法も、コロッセウムでルプスに指定されたのと、『神の怒り』くらいか?
それも人の命を奪ってはいないし、死んでもそれは自業自得であるものだ。
魔力の高い者が率先して治安を守っている我が国で、死罪になるほどの悪行など、そうそう出来るものではない。
次元魔法の最大攻撃魔法である『彗星の矢』を魔王プロカスに放ったのは驚いたが。
「まさかこんなのでダメージを負うとは思わなかった」と言っていた。
魔王といえど、身体は人であるのだが。
どうやら自分を基準に考えていたようだ。
カナメを魔法攻撃で傷付けるのは不可能だ。物理攻撃もである。
常に、神の加護が掛かっているのだから。
それは、初めて見た時にわかった。薄い光の膜があるので。
膨大な魔力を持っていることも。
*****
うっかり尾を引っ張ってしまった時、10しかなかった体力を3も削ってしまったが。
あの時は驚いた。
何人たりとも傷付けられない筈のその身を、唯一、カナメのツガイである私のみが害せるのである。
神は、私にカナメの身を託したのだ。
見極めろと。
その夜。
てっきりカナメも私とツガイであることを承知の上、こちらに来たものだと思い込んでいた私は。
大人の姿になったカナメを抱いて、魂結の術まで掛けてしまった。
カナメにとって、それは強姦であった。
それなのに。
憎いであろう、私のことを。魔法で攻撃することもなく。
受け入れ、私を赦し。
愛してくれた。
この国が好きで。
この国を作った私を、立派な皇帝だと云ってくれたのだ。
私は、カナメの期待に恥じぬ、立派な皇帝であろうと思った。
カナメが私の側で、皇妃として支えていてくれる限り。
その思いが変わることはないだろう。
カナメは先ほどの話をした。
帝政にして百年。
魔王となったプロカスを封じた英雄の一人として讃えられた私は、意外にも新たに国民になった者にも好意的に受け入れられ。
そのせいか、大した内乱も無く、水道など環境を整えたり国政のことで色々走り回っているうちに百年過ぎていた。
丁度建国百年となるこの年に、私の運命のツガイであるカナメが異世界より舞い降りてきたのは、神が与えてくれたご褒美なのだろうか、と考えるのは些か自惚れすぎか?
カナメは、これまで娶る者もなく、心から愛した者も居なかった私に。
誰かを愛し、愛される幸せを教えてくれた。
私の元へカナメを寄越してくれた神に、心から感謝したい。
*****
「あ。そういえば、建国したのって、正式には百年前の何月何日?」
「ええと……確か、12月の、25日あたりだったか?」
マルクスを見ると。
「ガイウス陛下が皇帝に成られた日であれば、そうですね」
呆れたような顔をされた。
そういえば、忘れないようにと誕生日と建国……正式に皇帝に就任する日取りを合わせたのだった。
すっかり忘れていた。
まあ百年も前の話だし、私の生まれた日などはどうでもよかったが。
「じゃ、その日で大丈夫だ。よかったあ。まだこれからだった」
カナメがほっとしている。
ああ、愛らしい。
適当な日に決めなくて良かった。
皆で我が国の祝日の話をしていて。
職種により休める日は各々違うので、特に多く祝日を設けていなかったが。
「前居たとこは、国の象徴……ええと、ここではガイウスになるのかな? の誕生日が休みだったよ」
国王が、国民に自分の誕生を祝わせるのか?
それは図々しいと思われないのだろうか。
士気を上げるための古来よりの決まりだというが。
兵達が何かと「皇帝陛下万歳」と讃えるのもどうかと思っているのに。
「私の誕生日よりも、カナメの誕生日や舞い降りてきた日を祝いたい」
再び襲ってきた魔王を、その偉大なる魔力で斃したカナメを、国民は英雄だと認識しているのだ。
私の個人的な感想ではなく、おそらく皆もそう思うだろう。
見ると、確かにそうだ、とマルクスとルキウスが頷いていた。
この正直者らめ。
*****
「っていうか、ガイウスの誕生日っていつなの?」
丁度、さっき思い出したところである。
「私は12月25日だが、カナメは?」
「おお、建国記念日と一緒じゃん。ダブルでめでたいな」
めでたい、と言ってくれるのは嬉しい。
ああ、愛する人に祝ってもらえるならば、誕生日というのも、意味のある日であったのかと思える。
で。
肝心のカナメの誕生日は? と期待の目で見ていると。
「……俺? ……6月6日……」
言いにくそうに言った。
6月6日だと!?
忘れもしない、その日は。
「カナメがここに来た時ではないか……! ああ、とうに終わっている……!!」
あの日がカナメの誕生日であったと知っていれば。
盛大に祝っていたものを……!!
まさか、私の天使が我が国へ舞い降りてきてくれた日と、私の最愛の后が生まれた日が同じだとは……!!
「来年は国民の休日にして、カナメ様降臨及び聖誕祭を盛大にお祝いしましょう。予算を確保しておきます」
さすがはマルクス。
派手に花火など上げて、盛大にやろう。
よくできた按察官を得られ、我が帝国はこの先も安泰であろう。
150年ほど前に、能力があるものの閑職に追いやられていたマルクスを按察官として誘っておいて良かった。
私は臣下に恵まれているな。
「それについては、後で打ち合わせをしようではないか」
マルクスも頷いた。
本人の目の前で話してしまっては、色々台無しである。
*****
まだ期間もあるし、正式な名称を考えるのは後回しにしておこう、と。
「じゃあ、建国記念日兼、皇帝生誕祭(仮)ということで……」
仮の名称で計画を進めることになった。
「出し物はどうしよう……」
カナメは首を傾げて悩んでいる。
その日の催しの内容か。
国民の休日にし、テルマエを無料開放。
コロッセウムなどに人を呼び、記念闘技会を催すのが通例だろうか。
建国百年の記念に見合うような切り札はあったか……?
「じゃあ、その日に”特別試合”をしたらどうだろう?」
ルプスが兵士に案内され、会議室に入って来た。
臣下になるのは断られたが、ルプスは建国前、かなり尽力をしてくれたのだ。
我が国にとっては、元筆頭剣闘士であり、魔王封印及び此度の魔王討伐の英雄でもあるためか。
剣闘士を引退した今でも根強い人気がある。
”特別試合”か。
なるほど、先日の勝負も魔王の介入でうやむやになったし。
再戦をするのも良いだろう。
人気剣闘士であったルプスの復活には、国民も喜びそうだ。
先日も、どこから聞きつけたか、短時間のうちにコロッセウムが満員になるほど大勢の国民が集まっていた。
おかげでこちらも剣闘士流の戦いをする羽目になり、無駄な体力を消耗してしまったが。
真剣勝負ではあった。
久しぶりに師と剣を交えることが出来、楽しかった。
*****
「ルプス。どうしてここに?」
「私がお呼びしました。祭りならば、記念闘技会を開く可能性も高いので」
カナメの問いに、マルクスが答える。
どうだ、やるか? というルプスの視線に。
「よかろう。その勝負、受けて立とう」
ここで受けねば男ではあるまい。
「言っておくが、わざと負けたりしないからな」
ルプスは、未だに現役で戦えるほど、己を鍛えている。
それは、復活した魔王と戦うためだったが。
プロカスが捕らえられた後も、その目に宿る闘志は消えていない。
「当たり前だ」
ひとたび剣を握れば、決して気を抜かない。
それでこそ、戦場で”死を運ぶ狼”と恐れられた男ある。
「牙を抜かれた狼に勝っても武功にはならないしな? 本気で行こう」
私の言葉に、ルプスが苦笑する。
「剣闘士を引退した男に勝って、どうするんだかな?」
ルプスの元には、未だに手合わせを希望する挑戦者が来るそうだ。
カナメの助言のおかげだが、ゴーレムをあっさりと二体も斃したことで、更に名が上がったからな。
また増えるだろう。
私も、同じだけ斃したのだが。
こちらには、なかなか挑戦者は現れない。
勝てば、皇帝を継ぐことになるせいか?
まず、私に勝つことができれば、の話だがな。
*****
カナメは毎朝私に『神の加護』を掛けてくれる。
魔力を777も削る神聖魔法である。
効果は、対象者を一日、あらゆる災厄から身を護るというものだ。
どんなにカナメを貪った翌日でも、それを欠かさない。
私を心配し、愛してくれているあかしであると感じる。
魔力は無限大だから、気軽に出来るんだよ、と言うが。
神がカナメにそれだけ膨大な魔力を与えたのは、カナメならば悪いことには使わないとわかっていたからであろう。
実際、姿を変えるのと、”天使の羽”くらいしか自分に掛けているのを見たことがない。
攻撃魔法も、コロッセウムでルプスに指定されたのと、『神の怒り』くらいか?
それも人の命を奪ってはいないし、死んでもそれは自業自得であるものだ。
魔力の高い者が率先して治安を守っている我が国で、死罪になるほどの悪行など、そうそう出来るものではない。
次元魔法の最大攻撃魔法である『彗星の矢』を魔王プロカスに放ったのは驚いたが。
「まさかこんなのでダメージを負うとは思わなかった」と言っていた。
魔王といえど、身体は人であるのだが。
どうやら自分を基準に考えていたようだ。
カナメを魔法攻撃で傷付けるのは不可能だ。物理攻撃もである。
常に、神の加護が掛かっているのだから。
それは、初めて見た時にわかった。薄い光の膜があるので。
膨大な魔力を持っていることも。
*****
うっかり尾を引っ張ってしまった時、10しかなかった体力を3も削ってしまったが。
あの時は驚いた。
何人たりとも傷付けられない筈のその身を、唯一、カナメのツガイである私のみが害せるのである。
神は、私にカナメの身を託したのだ。
見極めろと。
その夜。
てっきりカナメも私とツガイであることを承知の上、こちらに来たものだと思い込んでいた私は。
大人の姿になったカナメを抱いて、魂結の術まで掛けてしまった。
カナメにとって、それは強姦であった。
それなのに。
憎いであろう、私のことを。魔法で攻撃することもなく。
受け入れ、私を赦し。
愛してくれた。
この国が好きで。
この国を作った私を、立派な皇帝だと云ってくれたのだ。
私は、カナメの期待に恥じぬ、立派な皇帝であろうと思った。
カナメが私の側で、皇妃として支えていてくれる限り。
その思いが変わることはないだろう。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,142
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる