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建国記念日をつくろう。

皇妃:建国記念日を考える

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この国は、今年で建国100年になるそうだ。
記念にお祭りとかやらないのかな、と思って聞いてみたら。

この世界、建国記念日とか無かったようで。
建国記念日には何をするのかと聞かれたので、必死に思い出した。

俺が考え込んでても、いつもにこにこしながら待ってくれる。
優しい。


日本では祝日だけど。
それだけで、他に何もしないよな。

外国では派手に打ち上げ花火を上げたり、パレードとかコンサートとかのイベントを開いたり。
各家庭ではバーベキューとかピクニックとかして家族や友人と過ごす日で。
商店ではバーゲンセールをしてた、と言うと。


「……そうか、とにかく祭りなのだな?」
ガイウスは笑顔で言った。


「神祇官のルキウスと、按察官のマルクスを呼ぼう」


*****


……またしても、按察官に投げたな。

水道の濾過の話の時もそうだった。
そう思ったけど、まあいいや。

同じ話を何回もするより、専門の人が来てくれた方が話が早くていい。


それにしても、按察官って仕事いっぱいで大変だよなあ。
神殿や祭り、闘技会(剣闘士)の管理をする祭事局、治安、都市機能の監視など警察みたいな仕事をする公安局、公共建築の補修や建築を管理する造営局。主に水道橋や下水などの管理をする水道局や、物流や通貨などの管理をする財務局などを取り仕切ってて。

神祇官は、いわば神社の神主の組合の一番偉い人みたいなものだ。

だから若く見える人がやっててびっくりしたけど。
神祇官のルキウスって、150歳だもんな。大ベテランだよ。


でも、この国は能力重視、実力主義なので。
その職に就きたい人は、努力してなるしかない。

コネとか年齢とかは一切関係ないんだって。
ある意味、厳しいけど。

ここは頑張って努力すれば、好きな仕事に就ける世界だし。


年上ってだけで威張る人がいない世界って考えれば、天国だよ……。
年功序列とか、全く無駄な文化だもんな。


*****


按察官と神祇官が来たので、さっきの話をした。


「建国記念日、ですか」
按察官は目を瞬かせた。

「少々お待ちくださいね、」

按察官は、手帳を開いた。予算を確認しているようだ。
いやほんと、毎回突然の思いつきで呼びつけてしまって、申し訳ない……。


「お祭り、いいですね。今までは特に何もしなかったけど。建国百年を記念して派手に式典とか楽しそう……」
神祇官は乗り気だ。


「あ。そういえば、建国したのって、正式には百年前の何月何日?」

暦的には、あっちの世界と変わらないようだけど。
もう終わっちゃってたら悲しい……。

「ええと……確か、12月の、25日あたりだったか?」
ガイウスは首を傾げて按察官を見た。

按察官は頷いた。
「ガイウス陛下が皇帝に成られた日であれば、そうですね」

「じゃ、その日で大丈夫だ」


よかった。
まだこれからだった。

ていうかクリスマスじゃん。
こっちには無いけど。

日本ではクリスマスよりイブの方が盛り上がって、そっちが本番みたいになっちゃってる傾向があるよな……。


*****


「とりあえず、祝日の方は、今年から組み込むことは可能ですね」

皇帝の結婚式の翌日、結婚祝いで急遽祝日になったくらいだっていうし。
そういうお報せは簡単なのかな? 按察官が優秀なだけかも。 

「他に、祝日ってないの?」

「ええと。『太陽神の誕生祭トリブイスティ』や『農耕神への収穫祭サグラ』の日は祝日ですよね?」
神祇官が按察官に確認する。

頼られまくりだな按察官……。

太陽神の誕生祭は、家族だけで過ごし、静かに神様に祈る日、だそうだ。
こっちでのクリスマスかな?

収穫祭は実りに感謝して、神様に豚とか牛とかを奉げたりする。
結婚式の時にやったアレか……。

太陽神の誕生祭が4月8日、農耕神の収穫祭が10月最終の週末だって。

2~4世紀ごろの古代ローマでは、太陽神を崇拝する教徒が力を持っていて、12月25日を太陽神を祭る日として祝祭日にしてたんだけど。
こっちでは4月なんだ……。

色々微妙に違うけど、やっぱりローマっぽいんだよな。
この世界。


「ええ。そうです。それと世間的には土曜と日曜が休みですよ。私は休みませんが」

按察官はもっと休もうよ……。
いやほんと余計な仕事増やしちゃってごめん……。

「前居たとこは、国の象徴……ええと、ここではガイウスになるのかな? の誕生日が休みだったよ」

天皇誕生日を何と説明するか、悩ましいところだ。
簡単に説明できる自信がない。


「私の誕生日よりも、カナメの誕生日や舞い降りてきた日を祝いたい」

いや、『舞い降りてきた日』とか、真顔で言われても。
天使じゃないんだから。


……みんなも同意しないで欲しい。


*****


「っていうか、ガイウスの誕生日っていつなの?」

さすがに250回も祝わないだろうけど。俺も自分の誕生日とか、よく忘れてたし。
45にもなって誕生日もねえや、って感じだった。

でも、好きな相手の生まれた日なら、祝いたいと思うようになった。
変われば変わるもんだ。


「私は12月25日だが、カナメは?」
「おお、建国記念日と一緒じゃん。ダブルでめでたいな。……俺? ……6月6日……」

しかも、朝の6時生まれでさ。
ああ、オーメンのダミアン呼ばわりされた過去の暗い思い出が。

……あれ? もしかして俺、魔王が天職だったんじゃないか?
この世界でも、木の股から発生した感じだったしな。

やったー悪魔っぽーい!

ガイウスはキリストの誕生日なのに。
キリストと悪魔のツガイって、ある意味奇跡的な組み合わせだな。


「ここに来た時ではないか……!」
ああ、とっくに終わっている、とガイウスはがっくりしていた。


そうだ。
俺、誕生日に死んだんだっけ。

45になって。
さすがにいい加減童貞卒業しなきゃ! って焦ったんだよな。

その晩、童貞じゃなく、アナルバージンを失うことになったけど。

それも今ではいい思い出……にはならないよ。
さすがに。


「来年は国民の休日にして、カナメ様降臨及び聖誕祭を盛大にお祝いしましょう。予算を確保しておきます」
按察官は本気だった。

降臨及び聖誕祭って。

「それについては後で打ち合わせをしようではないか」
ガイウス……。


今日一番のやる気を、こんなところで見せないで欲しい。


*****


「じゃあ、建国記念日兼、皇帝生誕祭(仮)ということで……」
日付と仮のミッション名は決まった。


「出し物はどうしよう……」

後は、式典の内容である。
皇帝の挨拶と。コンサート? いや、誰が歌うんだ? 歌手とか居るの?


「じゃあ、その日に特別試合をしたらどうだろう?」
兵士に案内されて、丁度入って来たのは。

「ルプス。どうしてここに?」
元剣闘士、現剣術指南役で、建国時の立役者でもあるルプスだった。

「私がお呼びしました。祭りならば、記念闘技会を開く可能性も高いので」

ああ、按察官は闘技場や剣闘士の給金とかも仕切ってるもんな……。


「よかろう。その勝負、受けて立とう」
ガイウスはやる気満々だ。

「言っておくが、わざと負けたりしないからな」
「当たり前だ」


……わあ、ガイウス皇帝VSルプス剣術指南役、レベルMAX同士、伝説のガチンコ勝負再び、か。

これ、絶対盛り上がるカードだよね。わくわくするもんな。
当日に騎士長官が知らせただけで、コロッセウムいっぱいに観客来てたし。


でも、祝われる本人が記念闘技、やっちゃうの?
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