かのじょにせつなき青春なんてにあわない~世界から忘れられた歌姫を救いだせ~

すずと

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第16話 俺を救ってくれてありがとう

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 なんだかんだと、その後にちゃんとした写真撮影ができたので、めでたし、めでたし。

 バックに移る海の景色と、微妙に見えるBE KOBEの文字はデートしてる感があって、良い写真だと思っちまうね。

 超人気チェーンのカフェも港町にあるってだけでオシャレに見える。なんだか全然違った店に入った感覚になっちゃうよね。

 でも、やっぱり中身は行ったことのあるカフェなので、どこか安心しながら持ち帰りで好きなドリンクを飲みつつ、日夏とメリケンパーク内を歩いて行く。

 海から通って来る風が日夏のミディアムヘアを揺らした。キラキラ光って見える彼女の髪が綺麗でつい見惚れてしまっていると、チューチュー飲んでいたストローから口を離して日夏が首を傾げてくる。

「どうかしたの?」

「日夏は神戸が似合うと思ってな」

「私を誰だと思っているの?」

「超有名歌手」

「あはは。ね……」

 少しだけ沈んだ声を出しながら、日夏が海の方へと視線を配るので、つられてそっちに視線をやる。

 水平線の彼方まで見渡せはしないが、船があり、ビットが見えて、港町から見える海の景色って感じ凄く良いんだけど、日夏は景色とは真逆に曇った顔をしていた。

「あ、ごめんなさい。私から関わるなって言ったのにその話題出しちゃって」

「いや……」

 謝ってくる彼女に対して、俺は海を見ながら口を開く。

「俺はさ、本当に出雲琴の歌に救われたんだ」

「……」

 彼女からの反応はなかったので、誤解を解く様にすぐさま言い訳をする。

「違うんだ。歌うのをやめてくれってわけじゃなくてだな」

 下手くそな言い訳など並べても意味がないよな。

「今日、どうしてもデートしたかった理由を話すよ」

「デートしたかった理由?」

「俺、中学の頃は野球のU―15の日本代表エースだったんだ」

 唐突な俺の言葉に、日夏は海からこちらへと視線を向けたのがわかった。それでも俺は海を見つめたまま語る。

「小学生の頃から野球始めてさ、俺はずっとエースピッチャーだった。誰もが認めるエース。それは中学に上がっても変わらなくて、ずっと周りからチヤホヤされてた。嫉妬の目もあったけど、俺を尊敬の眼差しで見てくれていた数の方が多かったと思う」

「四ツ木くんは凄いピッチャーだったのね」

「いいや。大したことはない。本当にな。だから俺はそんなので天狗になったつもりはない。その逆で、みんなの期待に応えられるように毎日必死に練習してた」

「うん」

「結果が実って日本代表に選ばれたけど、決勝でアメリカに負けてしまった」

 あの時の試合のことは今でも鮮明に思い出せる。だからこそ、胸の内から熱いものが込み上げて、昔を語っていると、ついつい自分の右肩を握ってしまう。

「アメリカに負けて、悔しくて、悔しくて、悔しくて……。でも、世界と戦えた経験は俺には十分すぎる経験になった。この悔しくも、世界で戦った経験を活かして、高校野球で、プロ野球で、メジャーリーグで、大活躍してやる」

 そう思ったのに──。

「神様ってのは残酷だ。中学の練習中に右肩をやっちまってさ。もう右肩は一生上がらないって診断されちまった。野球は二度とできないだろうって」

 こちらの事情に、彼女は相槌をうつのも忘れて俺をなんとも言えない表情で見守ってくれる。

「絶望したよ。もう何回死のうか悩んだ。それくらい、俺には野球しかなかったんだ」

 そんな時。そう、言いながら日夏の顔を見る。

「お前の歌と出会った」

「私の、歌?」

「ああ。今でも覚えている。出雲琴の歌を聴いた瞬間に、今まで考えていたことがちっぽけなことに思えてな。特に、『シンデレラは死んでいない』って部分が、まるで俺に言ってくれている様でさ。『そうだよな。俺は死んでないよな。生きているんだ』って思わせてくれた」

 そこで、明るい未来を表現するように、ニコッと微笑んでみせる。

「右肩は上がらないかもしれない。甲子園には行けないかもしれない。野球はできないかもしれない。でも、それでも俺は死んではいない。生きているんだ。出雲琴の歌のおかげで生きているんだ。ってな」

 そう。だから。

「俺を救ってくれて、ありがとう」

「四ツ木くん、私……」

 泣きそうになりながらも、耐えて彼女がなんとか口を開く。

「私はあなたの辛い過去を知らずに、あんな酷いこと……」

「日夏の秘密を知ったのに、自分のことも話さず、正体を知った途端に絡んで来たら、そりゃ関わるなってなるよ。ごめん」

 彼女は、ふるふると首を横に振る。

「ありがとう。四ツ木くんの過去を教えてくれて」

 礼を言うと、日夏は海を眺める。

「この世の中には、好きなことをやりたくても、できない人もいるのよね」

「野球はできなくなっても、違う形で関わっているから、これはこれで、また違う楽しさがあるさ」

「あ、野球愛好会のコーチ」

「そゆこと」

「……いくら事情を知らなかったとはいえ、私、あなたに、簡単に入れば、なんて言ってしまったわね」

「いやいや。普通はそう思うだろうから気にしないでくれ」

「ちょっと踏み込んだことを聞いても良い?」

「いいよ」

「野球は嫌いにならなかったの?」

「嫌いになんてならなかったな」

 即答して、続けて彼女の問いに答える。

「野球ができなくて死にたくなったくらいだ。それだけ好きなんだよ。なにが起ころうとも嫌いになることはない」

「なにが起ころうとも嫌いになることはない……」

 日夏は俺の言葉を噛み締めるように繰り返す。

「明日、野球愛好会が試合するんだ。見に来てって誘われたんだけど、断っちまった。試合を見てるときっと野球がやりたくなるから。肩が上がらないのにやりたくなるくらい好きなんだなって自分でも思う」

 無意識に右肩を上げてみる。予想通りの痛みが来るかと思ったが、今日に限っては来なかった。

「……?」

 訳がわからず、くるくると肩を回してみる。

「痛む?」

「全然……。あり?」
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