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第28話 誓い
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走る。走る。走る。
高槻駅から八雲が住んでいる住宅街へ向かって走る。
バキバキに割れたスマホで調べると、八雲の住んでいる住宅街は歩くと三〇分かかってしまう。
だから走る。
こういう時にこそタクシーを使えば良かったと走りながら思ったが、必死のバッチで走ったおかげで、タクシーを使用した予想時間と同じ一〇分で到着した。
これが野球部魂じゃ!
衝撃が強すぎて、とりあえず駅から八雲の住んでいる辺りに走って来たが、あいつはどこにいるのやら。
スマホを取り出して、バキバキの見にくい画面から八雲の連絡先を探す前に彼女が見つかった。
八雲は住宅街にある小さな児童公園にいた。そこのベンチで寂しそうにポツンと座っているのが伺える。
「見つけた」
息を切らせながら、滴る汗も気にせずに彼女へ近づくと、腫れた目でこちらを見た。
「ねぇ、世津」
「ん?」
「私のこと覚えてる?」
潤んだ瞳で訴えるように聞いてくる彼女を見て胸が締め付けられそうになっちまう。
「日夏八雲。一三歳で出雲琴として歌手デビュー。美しい容姿に圧倒的な歌唱力で日本を、世界をわかせた歌姫として降臨。俺の救世主」
「救世主は大袈裟な気がするけど……」
「高校生になると下手くそな変装で大阪府立美ヶ丘北高等学校に降臨なさった」
「ちょっと。その下手くそな変装を見破れていなかったのはどこの出雲琴信者よ」
「訂正。最強の変装でした」
「調子良いこと言っちゃって」
「同年代よりは先に社会を経験したからか、どこか大人ぶっている。でも、それは子供が背伸びをしているだけ」
「は、はぁ? 背伸びなんてしてないわよ」
「不安で泣き叫びたいのに俺の前では泣き顔を絶対に見せないところとか」
「ファンに見せるのは泣き顔じゃだめ。笑顔と歌を届けなくちゃ」
こんな時にもプロ魂を見せてくる姿は天晴れとしか言いようがない。
「八雲」
名前を呼んでからできるだけ優しく、優しく、彼女へ言ってやる。
「俺はもうお前のことを出雲琴としてじゃなくて、日夏八雲というひとりの女の子として見ている。だから無理しなくても良い」
こちらの言葉に八雲は黙ってそのまま抱き着いてくる。
彼女の顔が俺の胸元に埋まる。
「世、津……」
「ん?」
「いつも通りに家に帰ったら、愛する家族に、『誰?』って言われた経験ある?」
「ごめん。俺にはそんな経験ない」
「うん。普通はない、わよ。ない。それが普通。今まで仲良くやっていた両親が私のことを異端児を見る目で……」
ぐすっと鼻をすする音。
「帰る場所もなくなって……」
徐々に弱々しくなっていく声。
「私、芸能界から消えるだけじゃなくて、世界から、消えちゃうのかな……」
ギュッと強く俺のTシャツを握りしめる。
「そんなことはないよ」
「そんなことある!」
顔を上げた八雲の顔から大粒の涙が溢れ出ていた。
「みんな、みんな、みんな……みんな私を忘れた! ファンもマネージャーも両親だって! みんな私を忘れていっている! 私はみんなに忘れられていく。そんなの……そんなの死んでいるのと変わらないじゃない!」
不安が爆発したよな悲痛な叫びを俺は真正面から受け止めてやる。
「みんなが忘れたって俺だけは忘れない。八雲を死なせたりはしない」
「そんな保証どこにあるのよ!」
「現に俺は八雲を忘れてない!」
「っ!?」
引きつった顔の八雲を包み込むように抱きしめる。
宝物を抱えるみたいに大事に、大事に……。
「約束する。俺はこれからも八雲のことを忘れない。忘れたりなんかしてやんない」
「……約束。守れなかったら?」
「八雲の言うことなんでもきいてやる」
そう言ってやると、数秒の沈黙の後、抱擁が解かれる。
彼女は涙を流しながら俺の口元に指を置いた。
「言質取ったからね。約束破ったら承知しないから」
一筋の涙を流しながら無理に笑う彼女を見ていると本当に胸が締め付けられてしまう。
「八雲、行こう」
「どこに?」
「わかんねぇよ。どっか遠く。誰も俺達のことを知らないところへ行こう」
こちらの言葉に彼女は、くすりと泣き笑いの笑みを見してくれる。
「なに、私と駆け落ちしたいの?」
言われて、確かに駆け落ちに誘う男みたいなセリフだったと自分でも思う。
「そう、だな。八雲と駆け落ちしたい」
恥ずかしかったが、素直にそう言ってやる。彼女はイタズラっぽく笑いかけてくる。
「その素直さに免じて世津との駆け落ちに応じてあげるわ」
そう言って震える手を差し伸ばしてくる彼女の手を自然と握り返す。
忘れたりなんかしない。
これから始まるのは、日夏八雲を忘れない駆け落ち劇だ。
高槻駅から八雲が住んでいる住宅街へ向かって走る。
バキバキに割れたスマホで調べると、八雲の住んでいる住宅街は歩くと三〇分かかってしまう。
だから走る。
こういう時にこそタクシーを使えば良かったと走りながら思ったが、必死のバッチで走ったおかげで、タクシーを使用した予想時間と同じ一〇分で到着した。
これが野球部魂じゃ!
衝撃が強すぎて、とりあえず駅から八雲の住んでいる辺りに走って来たが、あいつはどこにいるのやら。
スマホを取り出して、バキバキの見にくい画面から八雲の連絡先を探す前に彼女が見つかった。
八雲は住宅街にある小さな児童公園にいた。そこのベンチで寂しそうにポツンと座っているのが伺える。
「見つけた」
息を切らせながら、滴る汗も気にせずに彼女へ近づくと、腫れた目でこちらを見た。
「ねぇ、世津」
「ん?」
「私のこと覚えてる?」
潤んだ瞳で訴えるように聞いてくる彼女を見て胸が締め付けられそうになっちまう。
「日夏八雲。一三歳で出雲琴として歌手デビュー。美しい容姿に圧倒的な歌唱力で日本を、世界をわかせた歌姫として降臨。俺の救世主」
「救世主は大袈裟な気がするけど……」
「高校生になると下手くそな変装で大阪府立美ヶ丘北高等学校に降臨なさった」
「ちょっと。その下手くそな変装を見破れていなかったのはどこの出雲琴信者よ」
「訂正。最強の変装でした」
「調子良いこと言っちゃって」
「同年代よりは先に社会を経験したからか、どこか大人ぶっている。でも、それは子供が背伸びをしているだけ」
「は、はぁ? 背伸びなんてしてないわよ」
「不安で泣き叫びたいのに俺の前では泣き顔を絶対に見せないところとか」
「ファンに見せるのは泣き顔じゃだめ。笑顔と歌を届けなくちゃ」
こんな時にもプロ魂を見せてくる姿は天晴れとしか言いようがない。
「八雲」
名前を呼んでからできるだけ優しく、優しく、彼女へ言ってやる。
「俺はもうお前のことを出雲琴としてじゃなくて、日夏八雲というひとりの女の子として見ている。だから無理しなくても良い」
こちらの言葉に八雲は黙ってそのまま抱き着いてくる。
彼女の顔が俺の胸元に埋まる。
「世、津……」
「ん?」
「いつも通りに家に帰ったら、愛する家族に、『誰?』って言われた経験ある?」
「ごめん。俺にはそんな経験ない」
「うん。普通はない、わよ。ない。それが普通。今まで仲良くやっていた両親が私のことを異端児を見る目で……」
ぐすっと鼻をすする音。
「帰る場所もなくなって……」
徐々に弱々しくなっていく声。
「私、芸能界から消えるだけじゃなくて、世界から、消えちゃうのかな……」
ギュッと強く俺のTシャツを握りしめる。
「そんなことはないよ」
「そんなことある!」
顔を上げた八雲の顔から大粒の涙が溢れ出ていた。
「みんな、みんな、みんな……みんな私を忘れた! ファンもマネージャーも両親だって! みんな私を忘れていっている! 私はみんなに忘れられていく。そんなの……そんなの死んでいるのと変わらないじゃない!」
不安が爆発したよな悲痛な叫びを俺は真正面から受け止めてやる。
「みんなが忘れたって俺だけは忘れない。八雲を死なせたりはしない」
「そんな保証どこにあるのよ!」
「現に俺は八雲を忘れてない!」
「っ!?」
引きつった顔の八雲を包み込むように抱きしめる。
宝物を抱えるみたいに大事に、大事に……。
「約束する。俺はこれからも八雲のことを忘れない。忘れたりなんかしてやんない」
「……約束。守れなかったら?」
「八雲の言うことなんでもきいてやる」
そう言ってやると、数秒の沈黙の後、抱擁が解かれる。
彼女は涙を流しながら俺の口元に指を置いた。
「言質取ったからね。約束破ったら承知しないから」
一筋の涙を流しながら無理に笑う彼女を見ていると本当に胸が締め付けられてしまう。
「八雲、行こう」
「どこに?」
「わかんねぇよ。どっか遠く。誰も俺達のことを知らないところへ行こう」
こちらの言葉に彼女は、くすりと泣き笑いの笑みを見してくれる。
「なに、私と駆け落ちしたいの?」
言われて、確かに駆け落ちに誘う男みたいなセリフだったと自分でも思う。
「そう、だな。八雲と駆け落ちしたい」
恥ずかしかったが、素直にそう言ってやる。彼女はイタズラっぽく笑いかけてくる。
「その素直さに免じて世津との駆け落ちに応じてあげるわ」
そう言って震える手を差し伸ばしてくる彼女の手を自然と握り返す。
忘れたりなんかしない。
これから始まるのは、日夏八雲を忘れない駆け落ち劇だ。
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