クーデレお嬢様のお世話をすることになりました

すずと

文字の大きさ
36 / 51

第36話 お嬢様とテスト勉強しています

しおりを挟む
 そうなんだよな。そうなんだよ。主観だけど、見た目は今まで見てきた全ての女性の中で1番タイプなんだよ。
 今まで全て見てきたって言うのはテレビや動画に出てる人全てを含めて、俺の中でど真ん中直球のドストライクな女性なんだよな。アヤノは。

 長くて綺麗な髪。整った顔立ち。スタイルも良い。――おっぱいはドンマイ。

 最近聞かなくなったけど、以前はよく告白とかされてたしな。それも話した事もないどこの馬の骨かも分からない奴に。それってのは相当見た目が良くないとされない事だと思うから、アヤノは群を抜いて美しいと断言出来る。

 見た目は完璧なんだよな……。見た目は――。

「なに?」

 アヤノの家。ソファーの前にあるローテーブルにて2人して勉強をしている。
 いや……。今アヤノは、俺のお手製対策プリントをやっており、俺は次なる対策プリントを作成しているので、2人で勉強と言えるかは微妙な所だな。

 そんな折、アヤノの顔を見ていると不愉快そうな表情で俺を見てきた。
 なんだか最近機嫌が悪い。それが表情に出ている。
 以前までなら無表情で、どういう感情なのか全く理解出来なかったので、それを考えると多少は心を開いてくれたのかな? と思いたい。だが、表情が表情なだけに喜んで良いのか微妙である。

「そこ、間違えてるぞ」

 素直に「お前の顔見てた」なんて言うと更に不愉快な顔をされそうなのでパッと彼女のプリントを見て言ってやる。

「どこ?」
「問3」
「これ間違えてるの?」
「そうだな。それの答えはAだわ」
「なんで?」
「んっとな」

 解説する為に俺は彼女の隣に行く。

 親切丁寧に解説したつもりなのだが――。

「――納得いかない」
「へ?」
「これって作者の心情を答えよでしょ? なのにAっておかしくない?」
「そうか? 俺はそうだと思うけど」
「リョータロー。この作者に会って聞いたの?」
「いや、そんな訳ないけど」
「だったらBかもしんないじゃん」
「うーん……。Bは……。作者の心情とは遠い気がするな……」

 そう言うとペンを置いて溜息を吐いた。

「もう……。良いや……。疲れた」
「おいおい。赤点取っても良いのか?」
「別に良い」
「夏休み補習でも?」

 そう言うとアヤノの親指と人差し指をくっ付けて丸を作る。

「何とでもなる」
「げっす! おまっ! 下衆過ぎるだろ」
「何とでも言って。そんな罵声より夏休み優先」
「え? お前……。まじで?」

 そう言うと鼻で笑う。

「冗談」

 無表情で言うので本当に冗談なのか不安になる。

「ま、根詰めても効果薄いし、少し休憩しようぜ」
「紅茶」

 即座に注文が入る。

「あいあい」

 こんな扱いにはすっかりと慣れてしまっている自分がいる。いくら仕事だからってまるで尻に敷かれた旦那や彼氏の様な気分だ。
 だが、そちらの方が男女の関係は円滑に回ると聞いた事があるが……。実際どうなんだろうな……。

 そんな擬似体験を経験しながらも俺は素早くキッチンで紅茶を用意してアヤノに提供する。

 そこまでめちゃくちゃ長い時間勉強をしていないが、アヤノはまるで長い労働から解放された様に紅茶を召し上がっている。安物の紅茶を。

 そんなアヤノの傍で俺は他の対策プリントを作成している。

「――それ暗記したら点数取れる?」

 甘い物が体内に注入され、少しストレスが解消されたのか、アヤノが俺の作業を覗き込んで聞いてくる。

「保証はないが、赤点位なら回避できるだろうよ」
「そっか」

 アヤノは頷きながら紅茶を飲む。

「――なぁアヤノ? 今回は赤点回避でも良いかもしんないけどさ。それだけで良いのか?」

 俺の質問にアヤノは首を傾げる。

「どういう意味?」
「進路とか。大学に行くにしても、就職するにしても赤点ギリギリラインよりもっと成績上げた方が選択肢増えるからさ、勉強した方が良いってこった」
「それは……。そうだね……」
「将来の夢とかないの?」

 そう聞くとアヤノは考え込んでしまった。
 そこまで重く聞いたつもりはなく、フラットな質問だったのだが……。

 まだ2年の夏前と考えるか、もう2年の夏前と考えるか……。
 高校生活も半分が過ぎたので将来の事も色々と考えないといけない時期になってきたと自分で相手に質問したのに関わらず、自分も考え込んでしまった。

「――リョータローは? 将来の夢とかあるの?」

 逆にそう聞かれて俺は苦笑いを浮かべてしまった。

「偉そうな事聞いたけど、俺も将来の事までは考えてないんだよな。漠然と自分に合った大学に進学かなーって感じで」
「進学……」
「なんやかんやキャンパスライフとか憧れだよな。サークルとか飲み会とか。1人暮らしとかしてみたいし。あと彼女とかも出来るかも。大学なら出会い多いって聞くし」

 俺はそんな夢妄想を考えてちょっと語る。

「彼女……」

 そんな俺の語りを不快に思ったのか、アヤノは呟きながらジト目で見てくる。

「なんだよ?」
「リョータローにショートヘアの彼女何か出来る訳ないよ」

 俺の夢妄想が1撃で砕け散った。

「わ、わかんないぞ?」

 何とか体勢を整えたいが、1撃が重すぎて反論の言葉が見つからない。

「リョータローみたいな変態を好きになるなんて相当変態だよ。変態を通り越して異常者だよ。それか異世界から現実世界に転移してきた右も左も分からない異世界人だよ」

 普段言葉数が少ないのに何て言葉の暴力だ。
 まるでオラオララッシュを喰らっている気分になっちまう。やれやれだぜ……。

 というか、そんなん言われたらシンプルに泣きそうになるわ。
 あ、ちょっと目頭が熱くなっちゃった。

「と、ともかくだ!」

 ウルっとした目を誤魔化す様に強めに言葉を放つ。

「将来の為にも、そして今回の為にも勉強しないとな! 今回は【赤点回避】がノルマなんだから、それだけは何としても達成させる。俺のプライドにかけて」
「しょぼいプライドだね」
「誰の為にやっとると思ってんだ? おんどれわ」
「ま、頑張ってよ」
「ほんと何で他人事なの? きみわ」



♦︎



 なんやかんや、ゴタゴタと言っていても根は真面目な子であるアヤノお嬢様は、休憩終わりから俺の作った対策プリントを解いていってくれている。
 ブツブツと対策問題に文句を言っているが、それで成長してくれるなら本望よ。

 俺は俺で自分の分の勉強もあるので、自ずと無言での作業となってしまった。



「――んー!」

 俺はペンを転がしてノビをした。かなり集中してたので筋肉が固まってしまっている。

「うわっ」とつい言葉が出てしまった。
 窓の外の景色はいつの間にか真っ暗になっており、時計を見るともう良い子のちびっ子の皆なら寝ていてもおかしくない時間帯になっていた。

 すげー集中してたな。

「あ……」

 ふとアヤノの方を見るといつの間にか机に伏せて眠ってしまっていた。
 寝顔が丸見えである。
 朝起こしに行く時に見せる、眠り姫みたいな顔とはちょっと違う少し間抜けな寝顔。

 あはは。お嬢様のくせにヨダレ垂らしてやがらぁ。

 そんなアヤノの寝顔を堪能させてもらう。
 やはりヨダレを垂らそうが何しようが黙っているとドストライクな顔をしているな。黙っていたらね。



 こんな所で寝ると風邪ひくぞ。

 なんて声をかけようとしたが、あまりにも気持ち良さそうに寝ているので起こすのもしのびない。

 寝ている時は体温が低くなると言うからな。こんな季節でも何か羽織る物でも、と思い勝手知ったる波北家。立ち上がりアヤノの部屋へ向かった。



 いつも勝手に入って彼女を起こしているけれど、アヤノ不在の部屋に入るのは妙な緊張感があった。
 アヤノがいないのにアヤノの甘い匂いがする部屋。なんだか妙に意識してしまうな。
 しかしあれだ。相変わらずの微妙に片付けてない部屋である。
 
「――これでいっか」

 床に適当に寝ていた服を拾い上げる。

 それを持って部屋を出て行こうとした時にふと机の上に置かれている写真たて気が付いた。

「あれ……。こんな写真たてあったっけか?」

 そう思い失礼ながら写真を拝見させてもらうと、どうやら家族写真の様だ。

 親子3人が仲良く写っていた。
 
 アヤノは無邪気な笑顔を見せており、父親の秀さんは今とあまり変わらない気がする。
 そして、この年齢不詳の美しい女性が霧乃さんなのだろう。綺麗過ぎて詐欺写でも見せられている気になる。

 しかし……。ふむ……。この人何処かで会った気がする様な……。
 脳の片隅にある記憶が蘇りそうで――蘇らない。

 まぁ親同士が幼馴染なり、先輩後輩なりだから何処かで出会っていても不思議ではないか。物心着く前とかに会ってたりしたのかもな。

 バイク乗りの俺としては、写真の奥の方に写っているグレーのバイクの【隼】が気になったね。あれ、めっちゃ速いんだよな。乗ってみてー。



 リビングに戻ると、体勢を変えることなくアヤノはぐっすりであった。

 羽織る物を見繕ってきたので彼女の背中に掛けてやる。

 そして俺は手元に置いてある対策プリントを拝借して赤ペンを取り出す。

 自分の作った対策プリントを文句を言いながらも眠気限界までやってくれたお嬢様。それには素直に喜びを感じて、もっと対策プリントを作成してやりたい気持ちになる。

 ――採点が終わって一言。

「ははっ! ほぼ間違ってやがるぜ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン
青春
記憶をなくすほど飲み過ぎた翌日、俺は二日酔いで慌てて駅を駆けていた。 すると、たまたまコンコースでぶつかった相手が――大学でも有名な美少女!? 「また飲みに誘ってくれれば」って……何の話だ? 俺、君と話したことも無いんだけど……? カクヨム・小説家になろう・ハーメルンにも投稿しています。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...