彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

第61話 エピローグ

「京太お兄ちゃん、お姉ちゃんと付き合ったってほんと？」

　優美ちゃんの家庭教師の日。

　いつも通りにリビングで勉強を教えていると、唐突にそんなことを言われてしまう。

「あ、ああ。付き合っているよ」
「それって恋人って意味だよね？」

　言葉に出されると非常に恥ずかしいのたが、優美ちゃんは純粋に聞いてくる。

「恋人って意味」
「そっ、かー……」

　落胆の声を出されてしまう。

「ゆうみが京太お兄ちゃんと結婚したかったんだけどな」
「あ、いやー、あははー」

　なんとも反応に困り、笑って誤魔化していると、「ま、いいや」なんて切り替えるような声を出す。

「京太お兄ちゃんがお姉ちゃんと結婚したら、京太お兄ちゃんはゆうみの本物のお兄ちゃんになるもんね」
「結婚って……」
「え？　お姉ちゃんと結婚しないの？」
「しないと言うのですか？」
「ちょっと待て。優乃。お前、いつの間に現れた？」

　唐突に優乃の声がして振り向くと、本当にいつ現れたのか、目の前に優乃が立っていた。

「ふふ。このステレス機能高めの彼女の能力。恐ろしいでしょう」
「ただ単に影が薄いだけでは？」
「あ！　京太くんが陰キャボッチに言っちゃいけないこと言いました！　言っちゃいけないこと言いました！　そんなこと言われた陰キャボッチは３０年は引きずりますからね！」
「えらく長いな、おい」
「ねぇねぇ京太お兄ちゃん。お姉ちゃんと結婚しないのなら、ゆうみと結婚してよー」
「なっ！？　陽キャ気質の妹に京太くんを取られる訳にはいきませんよ！」

　ガシッと優乃に腕を掴まれる。

「いくら妹といえ、京太くんを渡す訳にはいきませんからね！」

　ビシッと優美ちゃんに言い放つと、優美ちゃんが俺達を見比べて一言。

「ふたり共。本当にお似合いだね♪」

　優美ちゃんのくれた言葉に俺達は目を合わせて、頬を赤らめてしまった。



♢



　優乃と付き合ってから数日が経過していた。

　意外なことに、俺の悪い噂というのは立っていなかった。

　立ち入り禁止の屋上から叫んだと言うのにだ。

　これは嬉しい誤算というべきか。

　だが、屋上の鍵は没収となってしまった。

　告白を終えたあと、先生達が屋上に押し寄せて来た。

　幸せムードから一変、先生達からの事情聴取が始まった。

　屋上の鍵をどうやって手に入れたか。

　紫藤先生は汗をタラタラと流して、処刑前みたいな顔をしていたけど、俺が真実を話す訳もなし。この先生がいなかったら今の俺はない。

　拾った、なんて適当に誤魔化すと、紫藤先生の俺を見る目が神を見る目であったな。

　そんなわけで鍵を返した俺は、今後屋上に行けなくなってしまったとさ。

　いや、返すべきだったのだろう。

　あそこは俺が落ちていた時の癒しの空間。

　今はもうその場所の必要もなし。

　だって俺には──。

「京太くん」

　呼びかけてくれる恋人の声に反応すると、ニコッと微笑みかけてくれる。

「今日はなにして遊びます？」
「そうだなー。優乃の好きなことして遊ぼう」
「だったら、今日はカフェに寄り道したいです」

　ガシッと俺の腕にしがみついてくれる優乃。

　高校デビューはさせてあげられなかった。俺も元の高校生活には戻らなかった。

　だけど──。

「幸せですね」
「ああ、幸せだな」

　俺達はとても幸せである。