終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 338年

338年1月10-2

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「王妃、あなたは想像力がない」
 柳眉を顰めるという言葉が実に合う。私は文字に萌えるタイプだ。

「想像力の有無は人間と獣を分ける。つまりあなたは獣だ」
「何を言っているのこの者は。わたくしは人間に決まっているわ。ファリオン、離れなさい」
「相手の立場を想像できていない」
 痛い。

 小声でも響くけど、ここは怒鳴るくらいの意気込みで話さないと聞こえない。
「子を奪われた悲しさ、悔しさ、辛さを私は想像できる。だがあなたは親を奪われた子の苦しさを想像できない」
 怒ったようだ。いい傾向。無視されるともう言葉は届かない。
「勝手なことを言わないで! あの子は王太后の子になった。私には関係ない」

「ただ完璧であることを求められた。失敗は許されなかった。頼れる人はいなかった。あなたと同じだったのに、あなたは想像しなかった」
 口が動きにくい。殴られた頬や噛んだところが腫れてきている。

「わかり合えたはずなのに、あなたは自分の苦しさだけが大事だった。苦しさを忘れるためにファリオンを利用した。だから誰からも好かれないんだ。自分の子からも好かれない」

 手を振り上げた。王妃にまで叩かれるのか。私は正論を言っているつもりなんだけど。王妃に叩かれる筋合いはないんだけど、防ぐこともできない。
 叩かれた後に言おうと思っていたけど、ファリオンが止めてくれた。

「民も哀れだ。獣を王妃として敬わなければいけない。人間であったはずなのに、いつの間にか獣に変わってしまった哀れな王妃」

 限界。言いたいことは言った。あとはいいや。なかなかいい展開だった。罵って哀れむって、言われた方はダメージがあるよね。

 気を失えたらいいのに。こういうとき、物語だと失神しない? 失神したい。立ちくらみで一瞬記憶がないことはあるけど、こういうときこそ失神よ来い。
 いや気を失うよりも、死にたくないのなら王妃を人質として拘束するのが一番いいんだろうけど、体が動かない。ファリオンが王妃に近づいたら二人一緒に保護されちゃうだろうし、膠着状態だな。魔法が切れるまでは。

 ソサイゾにかかっている魔法が切れるか、私が痛みに耐え切れなくなるか、何か起こるか。
 あの男が動きそう。ファリオンは身構えているけど、疲れたり隙を見せたりして私から離されたときが、私が殺されるときだ。
 瞬間を待っていたけれど、先に何か起こった。
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