終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 338年

338年1月11

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 母上が現れるとは思わなかった。
 相変わらず俺しか目に入らないんだな。鬱陶しいがチャンスだ。
「父上、なぜこんなところにファリオンを連れてきたの? ファリオン、帰りますよ」
 皆驚いているし母上が近付くことで男達が少し怯んだ。
 その隙に肩で突き飛ばした。オーサーの側へ。
 早く。縄を。手を切ってもいい。むしろ切った方がいい。深くていい。

 ようやく自由になった両手でオーサーを抱き締めた。痛いだろう。すまない。
 細かった。こんな体で耐えていたのか。大きく見えるが実際はとても細い。
「近寄るな。お前達が魔法を恐れているなら、これで何もできない」
 オーサーの手は冷たかった。容態は大丈夫だろうか。

「何をしているの、離れなさい」
 母上は、いや王妃は何も知らないらしい。エンディオの独断か。
 王妃は俺をつかむが、止めてくれ。もう俺は小さな子供ではない。見るものや行く場所を制限できない。あなたの思い通りにはならない。
 そしてオーサーが言った。

「王妃、あなたは想像力がない。想像力の有無は人間と獣を分ける。つまりあなたは獣だ」
「何を言っているのこの者は。わたくしは人間に決まっているわ。ファリオン、離れなさい」
「相手の立場を想像できていない。子を奪われた悲しさ、悔しさ、辛さを私は想像できる。だがあなたは親を奪われた子の苦しさを想像できない」
 オーサーは兄上がかわいそうだといっていた。こんなときでもそう思うのか。かわいそうなのはオーサーだ。

「勝手なことを言わないで! あの子は王太后の子になった。私には関係ない」
 あなたが、あなた達が献上した。保身の為に兄上を捨てた。

「ただ完璧であることを求められた。失敗は許されなかった。頼れる人はいなかった。あなたと同じだったのに、あなたは想像しなかった」
 同じか。確かにそうだ。親子で同じだったはずなんだ。

「わかり合えたはずなのに、あなたは自分の苦しさだけが大事だった。苦しさを忘れるためにファリオンを利用した。だから誰からも好かれないんだ。自分の子からも好かれない」
 泣きそうだ。オーサー俺の事も考えていたのか。オーサー、もっと自分の事を考えればいい。人の事ばかりだ。

 王妃が手を上げたので、その手を叩き落した。
「民も哀れだ。獣を王妃として敬わなければいけない」
 この状態のオーサーに手を上げるなんて、確かに人間ではない。事実を突かれたからと怒るのは王妃ではない。

「人間であったはずなのに、いつの間にか獣に変わってしまった哀れな王妃」
 王妃は震えている。怒りか。オーサーは守る。
 だが長くはもちそうにない。エンディオの決断はいつだろうか。あの男の動きは警戒しなくてはいけない。王妃の反応はどうか。何よりオーサーの容態は。

 焦りが刻々強くなる。俺は何も出来ない。昔からそうだったし今もそうだ。
 ずっと利用されてきてそれが嫌だったが、利用価値がなければまともな人間とは付き合えない。ろくな価値のない俺を利用したがるのはろくでもない人間だ。
 もっと強ければ。もっと賢ければ。もっと、兄上のようであれば。
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