終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 338年

338年1月17-1

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 王妃は一瞬怯んだあと、俺達を見て睨みつけた。睨まれたのはオーサーだ。
 オーサーの痣は昨日から変わっていないようだ。王妃には初見だろう。殴られた青痣が広がった顔は。

「さぞ得意でしょうね。わたくしの子を二人とも手玉にとって哀れみに来たの」
 兄上が何か言おうとしたが、オーサーが止めて前に出た。
 そのまま王妃に近づく。兄上が止めようとしたが手を払って、震えるほど握りしめている王妃の拳を取った。
 王妃が振り払おうとする。

「あなたを哀れんでいる。誰も頼れない。家にも帰れない。親は無理な命令をする。周りは批判ばかりする。ひとりだ」
 王妃がオーサーを見た。怪訝だが、縋るような目をしている。手はそのまま握られている。

「近づいてくる人間は信用できない。してはいけない。利用されるだけ」
 王妃の目に涙が溜まった。
「ひとりで生きていくためには何も聞かない。考えない。ただ一日一日、やらなくてはいけないことだけをこなして生きていく。何も感じないように」

 俯いている。泣いているようだ。
 オーサーは王妃の肩に手を置いた。
「あなたには同情する」

 少しの間そのまま泣いていたが、王妃がともやの胸にもたれた。痛いだろう。王妃の背をゆっくり叩いている。
 オーサー。そんなに痛む体で、元凶の一人に同情するな。
 兄上はいつもの無表情だった。何を考えているんだろう。

「なぜわかるの」
 オーサーが小さく笑った。
「想像力があるから。だから今は亡き王太后にも同情してる。会ったことはないけど、あなたよりももっと孤独だっただろうから。もっと敵が多かった」
「そう・・・そうね」
「あなたももっと人を見下せればよかったのに。私たちは食べるものに困らないし、むしろ太るから食べてはいけないと思っているけど、明日の食事の当てがない人はいる」
 王妃が頷いた。

「病気で希望をなくす人も、殴られるけど別れたら生きていけないから我慢している人も、子供を産めない人も、下を見れば限がないのに。それに比べたらずっとましだって思えるでしょ」
「そうね。わたくしより苦しい人はたくさんいて、わたくしは王妃だからそれに気づかなくてはいけなかった」
「追い詰められると、人間視野が狭くなるから。だけど上を見れば果てがないけど、横と下も限はない。世界はとても広いです」
「そう、その通りね」
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