聴かせてよ、ラブソング。

めぇ

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LOVE1.TOMORI/奏でてよ、Love song

Song4.)-2

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「一緒に歌おうよ」

今度は微笑んで私を見た。

強く握られた腕が少しだけ緩んだ。

「俺がギター弾くから、灯璃は歌って」
 
「えっ、何言ってるの!?歌えないよ!」

「こないだ歌ってくれたじゃん、今からいつものとこ行って歌おうよ!」

「いやいやいやいや!それは違うでしょっ、こないだと状況も違うしあれはちょっとだけだったし恥ずかしいし…っ」

声が小さくなっていく、そんなの自信もないしまた下を向いてしまった。

「灯璃すごい上手だったよ」

「あんなのたいしたことないから」

「俺が聴いた中で1番上手だった」

「普通だってば!」

腕を掴んでいた奏くんの手がスルっと下の方に移動した。

優しく包み込むように私の手を握った。

「好きだよ」

「…っ!」

「灯璃の歌、俺は好き」

真っ直ぐ見つめる視線は一切の曇りもなく穏やかで、握った手のひらは温かかった。  

そんなこと言われたらもっと恥ずかしくて、頬まで熱くなって隠すように髪の毛を触るしかなかった。

そんな私を見て奏くんがくすっと笑った。

「行こう、灯璃!」

握った手をぐっと引っ張って、奏くんが走り出した。

「ちょっと!奏くん!?」

向かう先は駅、人ごみから遠くまで来たのにまた人が集まる方まで。

でも手を振りほどくことは不思議としたくなくて、なぜだか離せなかった。

奏くんに連れられて戻るとまだベンチの前には人が集まっていた。

咄嗟に奏くんがそこにいた女の子たちにギターを見ててもらえるよう頼んだらしくて戻って来るのを待っててくれたらしい。

そんなとこにのこのこと入っていくのは…


ちょっと怖かった。


しかも手!

まだ手…!


繋いだまま…っ!!


奏くんに手を引かれて、掻き分けるようにベンチの前に立った。

周りの様子を見ることができない私は手持無沙汰だった片方の手でTシャツの裾を握りしめて、その手をひたすら見ていた。

全然前見れないんだけど…
どんな風に見られてるの!?

なんかコソコソ聞こえるし、絶対睨まれてるとしか…!

「じゃあ、灯璃」

前を見るのは怖かったから奏くんの方を見た。

「何!?何歌うの!?」

「やっぱあれじゃない?俺が作った灯璃が好きだって言ってくれた」

「それ歌詞なくない!?」

一応小声で、てゆーか大きな声で話すこともできなくて。

必死に奏くんの目を見ながら訴えた。

「テキトーに歌詞付けてよ」

「えっ!?」

なのにサラッと返して来る。

なんて言う超無理難題…っ!

「じゃあラでいいよ」

それもめちゃくちゃな!

頭の中がごちゃごちゃで自分でもわかるぐらいテンパった顔をしていた私に奏くんが近付いた。

そぉっと頭を撫でるように、私にしか聞こえないぐらい小さな声で。

「大丈夫だから」

そう言って微笑んだ。

繋いだ手を離した奏くんがギターを持ってベンチに腰掛けた。

心臓がドキドキうるさい。


本当に歌うの?

歌えるの?


全然自信なんかないけど、周りを見ることもできなくてまだ前すら向けてないけど…


奏くんと目を合わせた。


うん、と奏くんが頷いた。

優しい瞳で私を見ながら。


右手で胸をさすって、すぅーっと息を吸った。

乱れた呼吸を整えて、もう一度奏くんと目を合わせる。


そして、私も頷いた。


奏くんがギターのボディをトントントンと叩いた。

そのリズムを聞いて目を閉じる、奏くんがギターに触れる音を感じて…


心臓の音を消すように声を出した。

聴き慣れちゃったメロディーに歌を乗せる。

聴き過ぎちゃって奏くんが強弱を付けるタイミングも、音が変わる動きも、どこで声を入れたらいいかもわかってしまって。


やっぱいい曲だな、どうしたらこんな曲が作れるんだろう。

私の“ラ”ではもったいないよ。



「~っ♬」


歌が終わる曲が終わる、実際は歌うことよりも終わってしまう方が怖かったかもしれない。

聴いていた人たちはどう思ったかな、変だったよね!?おかしかったよね…!?

ブーイングとか来たらどうしよう…!

きゅっと目をつぶって前を見ないように、どうしても前が向けなくて歌い終わりに俯いてしまった。

このあとどうしたら…!?


パチパチパチ…

拍手が聞こえた。
まばらでどこか不安げな拍手だった。 

あんなに人がいたのに帰っちゃったのか…
でも拍手をしてくれる人がいるだけでも嬉しい、最後まで聴いてくれた人がいただけでも嬉しい。

せっかく奏くんの演奏であんなに集まってたのに申し訳ないけど…

ふぅっと息を吐いて、いい加減閉じたまんまだった目を開けることにした。

「!?」

びっくりした、思わずもう一度閉じて開け直しちゃった。

さっきの人だかりよりも人が増えて私たちを囲った人の列は3列も4列も後ろまで作られて、みんながこっちを見てる。

まばらだった拍手も次第に大きくなって、私のドキドキと鳴っていた心臓の音よりも大きくなった。


え、何…?

これって、今… 


バッと奏くんの方を見た。

この状況を受け止められない私に奏くんは…


笑っていた。


目の力を緩めて、柔らかい瞳で私を見る。

あ、またドキドキが大きくなった。


奏くんを見たら…っ


「灯璃!」

グーにした右手を上げ、叫んだ。

「最高ーっ!」

その声を聞いてさらに拍手の音が大きくなった、圧倒されて後ずさりしそうになるぐらい。



ずっとドキドキしてる。


だけど歌う前のドキドキとは全然違って、ワクワクしていた。


私にもこんなことできるんだ。


手が震える、まるで地に足のついてないような感覚。



このドキドキは永遠に鳴りやまなそうになくて。



「灯璃っ」

ギターをベンチに置いた奏くんが私の隣に並んだ。

奏くんと比べて小さい私に合わせるように、身をかがませ近付いた。

「楽しかったね」

路上で歌うなんて考えもしなかったのに、手を引かれるまま歌うなんて…



こんなの初めてだった。



初めてのことで自分が自分じゃないみたいに思えた。

前を見ればたくさんの人がこっちを見て拍手しながら笑ってる、やっぱり上手く見られなくて隣を見た。



隣を見れば…

奏くんがいて。



ドキドキが心地よくも、苦しくて。


静かに笑う姿が眩しかった。



何もないと思っていた私の日常にキラリと光る一等星を見付けた気分だった。




そんな私の夏休み、私の人生最大の記憶を残して夏が終わった。
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