聴かせてよ、ラブソング。

めぇ

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LOVE2.TOMORI/惑わしてよ、Sick song

Song3.)-2

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あんなことを言われて嬉しくないはずがなくて、もう気付いてしまったんだからそれは顔にも出るし気分も上がるし…

あんなにどーでもよかった学校が今楽しみで仕方ないなんて夏休み前の私には考えられなかった。

「…あ、鍵開いてない」

それがわかりやすく行動にも出ちゃって、張り切ってるみたいで恥ずかしい。

部室1番乗りかぁー…

ガタガタとドアが開くか試してみたけど、誰も来てないみたいで開かなかった。

そっか、いつでも開いてるわけじゃないよね楽器も置いてあるし。

「……どうしよっかなぁ」

鍵のことは何も聞いてないし…、今日は部活するって言ってたから待ってたら来るかな。

廊下中に充満していたもわもわした空気が暑くて窓を開けた。こっちから見る景色は山しかなくて、気分的には落ち着きそうな気がした。

開けないよりは全然いいかな、日陰だから涼しい風も入って来るし。

意味もなくぼぉーっと外を見て揺れる葉っぱを目で追っていた。

昨日さっそく駿ちゃん先輩からLINEが来た。

明日は文化祭の話し合いだって。
軽音部なんだから演奏するんだよね?始業式の時みたいに、みんなの前で。


私も歌うことになるんだ、もう一度ステージの上で。


「灯璃!」

軽音部部室と書かれたタグの付いた鍵を持った奏くんがやって来た。

「早いねー、部室開いてなかったでしょごめんね」

「ううん、鍵って職員室?取りに行った方がよかったかな?」

「ううん、基本は俺が行くよ。部長だからね」

ドヤァと顔をしてグッと親指を立てながら言われたんだけど、そっか…そうだった奏くん部長だった。 
今の反応からすると部長なこと気に入ってるんだね、たぶん。

ガチャッと鍵を開けて部室に入る。部室の中も、もちろん暑くてとりあえず窓を開けた。

「あ、そうだ灯璃。新曲聞いてよ」

窓を開けながら奏くんがこっちを見た。
名前を呼ばれたから必然的に目が合って、パチッと瞬きをした。

“ねぇ灯璃、これに歌詞付けてよ”って、言われていたけど結局それはそのままだった。もらった楽譜もそのまま家に置いてある。

「まだ聞いたことないでしょ?」

楽譜の読めない私はどんなメロディーかも想像が付かなくて、だけど気になって読めもしない楽譜を出してきては見つめてた。
手書きで書かれた音符や記号を見て、これからどんなメロディーが流れてくるのか考えながら。

「灯璃に聞いてほしいってずっと思ってたんだよね」

スクールバッグを床に置いて、その代わりにギターを持ってパイプ椅子に座った。
今から奏くんが新しく作った曲を聞けると思うとちょっとだけ身が引き締まる感じがして、隣に座るのはやめておいた。

そのまま開いた窓にもたれながら少し後ろから奏くんのギターを弾く姿を見た。

トントンッとリズムを取って、奏くんの手が動き始める。


一音目から違った。


前の曲と、全然…

前のはこう、ぎゅーっと締め付けて来るようなえぐられ方をしたけど…

今回のはもっと繊細な、明るいんだけど、でも寂しような気持ちにさせる。

奥行きがあるようなもの寂しさと、それなのに光りを見ているような…


こんな曲も作ることができるんだ。



すごいね、奏くんは。



「…どうだった?」

ギターを弾き終えた奏くんがすぐに感想を求めるように振り向いた。
 
「なんとなく…ほっとけないメロディーだった」

「え、何それ?どんな感想?」

くすくすと笑って、また戻っていった。

え…感想今のでよかったの?
自分で言っといて結構意味わかんない感想だったとは思うんだけど。

「いいね、その表現。気に入っちゃった」

ニッと笑って顔だけこっちに向けた。

いつもはにこっとかにこりって感じなのに、そんなやんちゃな顔もするんだ。

それもなんか…
可愛いなぁって思えちゃって。

「駿二遅いねー、文化祭の話し合いするって言ったのに」

「文化祭の話し合いって曲決めるの?」

「うん、そうだよ。まぁ無難にブルスカかなー」

また手を動かした。ブルスカの曲を伴奏し始める。

確かに普通に上手いんだけど、こないだちょっと合わせた時だって歌いやすかったことはそうなんだけど、でも…

「奏くんの作った曲じゃないの?」  

そんな時こそ新曲じゃないないのかなって、何気なく思っただけだったんだけど。ピタッと奏くんがギターを弾く手を止めたから。

「軽音部で自分の曲やることないから」

こんな時は振り返らなくて目が合わなかった。

「え、そうなの!?」

「いつも流行りの曲が多いかな、その方が盛り上がるし。オリジナル学校でやるってなんかね、あれじゃん」

「でも始業式あの時は…っ」

もたれていた背中を離した。
一歩踏み出したから近付いた、その瞬間奏くんが振り返った。

「あれは灯璃が歌ってくれると思ったから」

ふわっと頬に熱を帯びた。 

やばい、ドキドキが加速する。

そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうよ。

「あれは路上でしかやらないから、だから灯璃しか知らない曲だよ」

そんな顔で笑わないで。

「1回やっちゃったからみんな知ってる曲になっちゃったけどね」

勘違いしちゃう、私のものって思っちゃう。

「まぁいっか」


私を奏くんのものにしてくれたらいいのに。 
 

そんな風に思っちゃうよ。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!鮎森駿二見参!!」

ヤァッ!と両手を広げ飛び込むように部室に入って来た。

「駿二先輩、声大きいです」

その後ろで冷静に折原さんが指摘している。今日は折原さんも部活に参加なんだ。

「さぁさぁさぁみんな揃ってる~!?文化祭の話するよー!」

「ずっと駿二待ってたよ」

「ごめんごめん、ちょっと久野ちゃんに呼ばれて!」

久野ちゃんは60歳のおじいちゃん先生で、軽音部の顧問。こないだ入部届出しに行ったけどあんまりここには来ないって言ってたんだよね、将棋部顧問と掛け持ちだから忙しいって。

「決めようか!灯璃ちゃん、ホワイトボード用意して!」

「は、はい!」

急に言われてビクッとしながら壁に寄せてあったホワイトボードを引いて来た。ペンも持った方はいいのかと思って一応持ってスタンバってみた。

「久野ちゃんからさっき言われたんだけど、今年の持ち時間は15分で来週までに曲決めて…」

駿ちゃん先輩が1枚の紙を取り出した。

「これ提出だって!」

文化祭演目申請書と書かれた紙は各部活に配られ、文化祭で何か披露する場合はあらかじめ決めて提出しなきゃいけない。書類審査みたいなものであまりにあれなものはここで止められるから変なことも書けないんだとか。

「それで藍ちゃんが候補曲いくつか考えて来てくれたから!」

これがマネージャーか…!と思わされる手際の良さでスクールバッグから印刷して来た数枚の楽譜をサッと取り出した。

「藍ちゃんいつもありがとね!」

まず駿ちゃん先輩に、私に、そして…


「奏!」


ハッキリ名前を呼んでいた。

「ありがとう、藍」

初めて奏くんの名前を呼んだのを聞いたから。

「奏、この曲知ってる?」

「ん、どれ…」

「3曲目の、これ」

「あっ、知らない!」

「それ知ってるテンションでしょ」   

折原さんが笑った声がした。
 
可愛い声だった、そんな笑い声なんだ… 

クールでカッコいいなって思ってたけど、そんな風に笑うんだ。

笑うところも初めて見たな。


私だけじゃなかったんだ。

名前で呼んでるのも、ラフに話してるのも、私だけじゃなくて。


むしろ折原さんの方が… 

「きっと奏好きだよ、この曲」


奏くんを知ってるみたいだ。


そうだ、2人は幼馴染みだもんね。

あたりまえだよね。

勘違いしそうになった自分が急に恥ずかしく思えた。


「藍が言うならそうかなぁ?」

軽音部じゃないって言ってたけど、いつも来てるって言ってたもんね。私より全然仲良いに決まってるよね。

「なんでそこ疑問形なの?」

「だいたい藍の言うこと聞いとけばいいかなって」

「何よそれ」

楽しそうに笑い合って。

2人の会話を聞きながら、聞こえていないフリをした。

もらった楽譜から目を離せなかった。
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