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冒険者ギルドと騒ぎの大元
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「よし、誰もいないな」
周囲に誰もいないことを確認して、俺たちはダンジョンの入り口を出て街に戻ってきた。
シェイドの力で街の地面にダンジョンの入り口を作ったんだ。
外はまだ真夜中で、街の中も真っ暗だ。
おかげで人通りはないし、うっかり見られても暗いせいでよくわからないだろう。
予定通りうまく戻ってくることができた。
「本当に街にダンジョンの入り口が……」
市長が言葉を失ったように地面の入り口を見ている。
その目の前で入り口が音もなく消え、元の地面に戻った。
「こんなことが本当に……。自由にダンジョンの入り口を作れるなど聞いたこともないぞ……。これがあれば城壁など意味をなさなくなる……。兵員輸送も、兵站問題も、すべて解決する。戦争が変わってしまうぞ……。お前たちは本当に何者なんだ……」
「なにって、ただの冒険者だよ」
少なくとも俺自身はそうだ。
パーティーメンバーの半分以上はモンスターだけどな。
テイム職でもないのにどうしてこうなったのか。
◇
人目が少ないとはいえ、誰かに見られるリスクは少ない方がいい。
目的の場所へと早足で向かう。
「あーあ、帰ってさっさと寝たいわ」
あくびまじりのエリーの言葉に俺も同意する。
「そうだな。さっさとやることを終わらせよう」
「ご主人はどこに向かってるんダ」
「冒険者ギルドだよ」
「こんな時間でも空いてるかしらね」
「俺の予想では空いてるだろう。それどころか、多分めちゃくちゃ忙しいはずだ」
「忙しいって、なにかあったの?」
「あったもなにも──」
そう言いながら路地を曲がったところで、真っ暗な街中に一か所だけ明かりの灯った建物が見えてきた。
まだ離れているにもかかわらず、喧騒というか、怒号のような声がここまで響いてくる。
時折、冒険者らしき男たちが駆け込んできたり、逆に走ってどこかへ向かって行くのが見えた。
やっぱり戦場のように忙しくなっているみたいだ。
「本当に大変そうね」
「正面から行くと色々とまずい。いったん裏に回ろう」
ギルドの裏手に回り、裏口の戸を叩いた。
エリーたちは後ろの暗がりで待っててもらっている。
今は俺1人だ。
少し待ってから扉が開いた。
「……こんな時間になんですか。今ギルドは緊急事態でして……って、イクスさんじゃないですか」
顔をのぞかせたのは顔なじみの受付のお姉さんだった。
よそ行きだった顔が途端に疲れ切ったものになる。
「イクスさんが帰ってきたなんて聞いてないんですけど。見ての通り今ギルドはクソ忙しいんです。これ以上トラブルを持ち込まないでください。ではおやすみなさい」
そのまま扉を閉められそうになったので、慌てて引き止める。
「待ってくださいって! なんでトラブル前提なんですか」
受付のお姉さんが嫌そうな目を向けてくる。
「最前線の街にいたはずのイクスさんが、こんな時間にこの街のギルドを訪れるなんて、ろくな用事じゃないのは誰だってわかりますよ」
「まあ否定はできないけど、どちらかというと今ギルドが抱えているトラブルを解決する側かな?」
「……なぜ忙しいのか知っているのですか?」
「まあな」
たぶん俺たちが原因だからな。
とまではさすがに言えなかったが。
「……わかりました。ガドーさんを呼んできます」
ガドーとはギルド長のことだ。
とりあえず話を聞いてくれるらしい。
わずかばかりのため息を残して扉が閉まる。
それから少しもしないうちに大きな足音が響き、裏口の扉が勢いよく開いた。
「おい、イクス! てめえ今更何の用だ!」
馬鹿でかい声が響く。
クマみたいにでかい体と、厳しい顔つきのせいで怒っているようにも見えるが、この人はいつでもこんな感じだ。
「こっちがクソ忙しいのは見てわかるだろ! そんな中でこの俺を呼びつけやがったんだ。つまらない用だったらぶっ飛ばすぞ!!」
あ、やっぱ怒ってるかも。
ガドーさんには色々と貸しもあるからな。
黙って街も出ちゃったし。
「あー、そうですね。説明するよりもたぶん見てもらう方が早いかな。みんな、こっちにきてくれ」
暗がりからエリーたちが出てくる。
その中の1人、市長の姿を見て、ガドーさんのクマみたいな目が大きく見開かれた。
なにかを怒鳴ろうとその口を開いたが、代わりに出てきたのは長く細いため息だった。
いつでも怒ってるみたいな人だけど、ちゃんと感情のコントロール方法は知っている。
そうでなければ冒険者の街で冒険者ギルドの長なんてできない。
やがて声を潜めるようにしてつぶやいた。
「……ここじゃマズい。入れ」
裏口の扉を開け放ち、俺たちを招き入れてくれた。
◇
ギルド長の執務室はギルドの二階にある。
広いとは言えない上に本人の性格のせいもあって散らかっている室内に、今は5人もの人間が詰め込まれていた。
1人だけ執務机の椅子に座るガドーが俺たちに鋭い視線を向ける。
「なぜ今ギルドが忙しいか知っているか」
「市長が誘拐されたからだろ」
なにしろ俺たちが連れ去った張本人だからな。
そしてその市長は俺たちと一緒にいて、しかも逃げ出そうとする様子もない。
色々と訳ありなのは一目見ただけでわかってくれたんだろう。
「……そうだ。いきなり賊が侵入し、市長をどこへ連れ去ったかもわからなかったらしい」
「見つかるわけにはいかなかったんでな」
「警備の話では、モンスターに乗って窓から侵入したそうだ」
おっと、そこまでバレていたのか。
やっぱり市長の警備兵は優秀だったな。
「本当か?」
「本当です」
バレてるなら下手な嘘はつかない方がいい。
ガドーさんがもう一度ため息をつく。
「実はとある宿屋から連絡があって、ある客の泊まっていた部屋が、まるで内側からモンスターに破られたかのように壊されていたらしい。心当たりはあるか」
「……えーっと」
間違いなく俺たちだ。
「ちなみにその客は自らを光の勇者と名乗っていたそうだ」
「ごめんなさい」
エリーのかわりに俺が謝る。
おかしいな。エリーが奴隷で俺がその主人のはずなんだけどな。
「おかげで光の勇者がモンスターを操って市長を誘拐したと一部で噂になってるんだぞ!」
「あはは。全部本当のことなのでなにも言えないわね。ウケる」
「ウケるわけないだろう!!」
人ごとのように笑うエリーにガドーさんがついに怒鳴った。
「その噂をもみ消すのがどれだけ大変だったのかわかるのか!?」
それから今度は市長に目を向ける。
「市長。いま貴方が誘拐されたと騒ぎになっているため、捜索隊を組織して街中を探させているところです。それがどうして誘拐犯と一緒に?」
「それは、まあ、色々あってな」
「イクスたちに誘拐されたというのは本当ですか?」
「本当だ」
ガドーさんに会えば質問攻めにされることはわかっていたので、ここに来る前に市長には全部本当のことを言うように命令してあった。
だから正直に答えていた。
「今までどこにいたのですか」
「どこかはわからないが、ダンジョンの中だ」
「ダンジョン……? とにかく、そこでなにをしていたのですか」
「そこの女の命令で、グリフォンに腕を食われそうになった」
「は?」
「それからそこの小さな子供がドラゴンに変身して、私の頭を食おうとした」
「……なぜ、そんなことに?」
「私が彼らの命を狙ったから、その報復のようだ」
「……つまり、自分たちの命を狙われたからその仕返しに市長を誘拐し、ダンジョンで拷問したと、そういうことか?」
「そうよ」
エリーが堂々と答える。ちょっと自慢そうですらある。
ガドーさんがガックリとうなだれた。
「イクス、お前がついていながらどうしてこうなった……」
「まあ、その場の流れというか、止むに止まれぬ事情があったというか、それが一番最善な気がしたとか……」
「……お前だけはまともだと信じていたのだが……ついにエリーの毒牙にかかったのか……」
そんなことはないと思う。
だよな。
……あれ、否定しきれない気がしてきたか?
「なんでもいいじゃない。こうしてアタシたちが来たから全部解決でしょ」
「……そうだな。とりあえず事情を聞かせてもらおうか。もちろん最初から全部だ」
ガドーさんの鋭い視線が俺を射貫く。
嘘は絶対に許さないという雰囲気だ。
説明、大変そうだなあ。
周囲に誰もいないことを確認して、俺たちはダンジョンの入り口を出て街に戻ってきた。
シェイドの力で街の地面にダンジョンの入り口を作ったんだ。
外はまだ真夜中で、街の中も真っ暗だ。
おかげで人通りはないし、うっかり見られても暗いせいでよくわからないだろう。
予定通りうまく戻ってくることができた。
「本当に街にダンジョンの入り口が……」
市長が言葉を失ったように地面の入り口を見ている。
その目の前で入り口が音もなく消え、元の地面に戻った。
「こんなことが本当に……。自由にダンジョンの入り口を作れるなど聞いたこともないぞ……。これがあれば城壁など意味をなさなくなる……。兵員輸送も、兵站問題も、すべて解決する。戦争が変わってしまうぞ……。お前たちは本当に何者なんだ……」
「なにって、ただの冒険者だよ」
少なくとも俺自身はそうだ。
パーティーメンバーの半分以上はモンスターだけどな。
テイム職でもないのにどうしてこうなったのか。
◇
人目が少ないとはいえ、誰かに見られるリスクは少ない方がいい。
目的の場所へと早足で向かう。
「あーあ、帰ってさっさと寝たいわ」
あくびまじりのエリーの言葉に俺も同意する。
「そうだな。さっさとやることを終わらせよう」
「ご主人はどこに向かってるんダ」
「冒険者ギルドだよ」
「こんな時間でも空いてるかしらね」
「俺の予想では空いてるだろう。それどころか、多分めちゃくちゃ忙しいはずだ」
「忙しいって、なにかあったの?」
「あったもなにも──」
そう言いながら路地を曲がったところで、真っ暗な街中に一か所だけ明かりの灯った建物が見えてきた。
まだ離れているにもかかわらず、喧騒というか、怒号のような声がここまで響いてくる。
時折、冒険者らしき男たちが駆け込んできたり、逆に走ってどこかへ向かって行くのが見えた。
やっぱり戦場のように忙しくなっているみたいだ。
「本当に大変そうね」
「正面から行くと色々とまずい。いったん裏に回ろう」
ギルドの裏手に回り、裏口の戸を叩いた。
エリーたちは後ろの暗がりで待っててもらっている。
今は俺1人だ。
少し待ってから扉が開いた。
「……こんな時間になんですか。今ギルドは緊急事態でして……って、イクスさんじゃないですか」
顔をのぞかせたのは顔なじみの受付のお姉さんだった。
よそ行きだった顔が途端に疲れ切ったものになる。
「イクスさんが帰ってきたなんて聞いてないんですけど。見ての通り今ギルドはクソ忙しいんです。これ以上トラブルを持ち込まないでください。ではおやすみなさい」
そのまま扉を閉められそうになったので、慌てて引き止める。
「待ってくださいって! なんでトラブル前提なんですか」
受付のお姉さんが嫌そうな目を向けてくる。
「最前線の街にいたはずのイクスさんが、こんな時間にこの街のギルドを訪れるなんて、ろくな用事じゃないのは誰だってわかりますよ」
「まあ否定はできないけど、どちらかというと今ギルドが抱えているトラブルを解決する側かな?」
「……なぜ忙しいのか知っているのですか?」
「まあな」
たぶん俺たちが原因だからな。
とまではさすがに言えなかったが。
「……わかりました。ガドーさんを呼んできます」
ガドーとはギルド長のことだ。
とりあえず話を聞いてくれるらしい。
わずかばかりのため息を残して扉が閉まる。
それから少しもしないうちに大きな足音が響き、裏口の扉が勢いよく開いた。
「おい、イクス! てめえ今更何の用だ!」
馬鹿でかい声が響く。
クマみたいにでかい体と、厳しい顔つきのせいで怒っているようにも見えるが、この人はいつでもこんな感じだ。
「こっちがクソ忙しいのは見てわかるだろ! そんな中でこの俺を呼びつけやがったんだ。つまらない用だったらぶっ飛ばすぞ!!」
あ、やっぱ怒ってるかも。
ガドーさんには色々と貸しもあるからな。
黙って街も出ちゃったし。
「あー、そうですね。説明するよりもたぶん見てもらう方が早いかな。みんな、こっちにきてくれ」
暗がりからエリーたちが出てくる。
その中の1人、市長の姿を見て、ガドーさんのクマみたいな目が大きく見開かれた。
なにかを怒鳴ろうとその口を開いたが、代わりに出てきたのは長く細いため息だった。
いつでも怒ってるみたいな人だけど、ちゃんと感情のコントロール方法は知っている。
そうでなければ冒険者の街で冒険者ギルドの長なんてできない。
やがて声を潜めるようにしてつぶやいた。
「……ここじゃマズい。入れ」
裏口の扉を開け放ち、俺たちを招き入れてくれた。
◇
ギルド長の執務室はギルドの二階にある。
広いとは言えない上に本人の性格のせいもあって散らかっている室内に、今は5人もの人間が詰め込まれていた。
1人だけ執務机の椅子に座るガドーが俺たちに鋭い視線を向ける。
「なぜ今ギルドが忙しいか知っているか」
「市長が誘拐されたからだろ」
なにしろ俺たちが連れ去った張本人だからな。
そしてその市長は俺たちと一緒にいて、しかも逃げ出そうとする様子もない。
色々と訳ありなのは一目見ただけでわかってくれたんだろう。
「……そうだ。いきなり賊が侵入し、市長をどこへ連れ去ったかもわからなかったらしい」
「見つかるわけにはいかなかったんでな」
「警備の話では、モンスターに乗って窓から侵入したそうだ」
おっと、そこまでバレていたのか。
やっぱり市長の警備兵は優秀だったな。
「本当か?」
「本当です」
バレてるなら下手な嘘はつかない方がいい。
ガドーさんがもう一度ため息をつく。
「実はとある宿屋から連絡があって、ある客の泊まっていた部屋が、まるで内側からモンスターに破られたかのように壊されていたらしい。心当たりはあるか」
「……えーっと」
間違いなく俺たちだ。
「ちなみにその客は自らを光の勇者と名乗っていたそうだ」
「ごめんなさい」
エリーのかわりに俺が謝る。
おかしいな。エリーが奴隷で俺がその主人のはずなんだけどな。
「おかげで光の勇者がモンスターを操って市長を誘拐したと一部で噂になってるんだぞ!」
「あはは。全部本当のことなのでなにも言えないわね。ウケる」
「ウケるわけないだろう!!」
人ごとのように笑うエリーにガドーさんがついに怒鳴った。
「その噂をもみ消すのがどれだけ大変だったのかわかるのか!?」
それから今度は市長に目を向ける。
「市長。いま貴方が誘拐されたと騒ぎになっているため、捜索隊を組織して街中を探させているところです。それがどうして誘拐犯と一緒に?」
「それは、まあ、色々あってな」
「イクスたちに誘拐されたというのは本当ですか?」
「本当だ」
ガドーさんに会えば質問攻めにされることはわかっていたので、ここに来る前に市長には全部本当のことを言うように命令してあった。
だから正直に答えていた。
「今までどこにいたのですか」
「どこかはわからないが、ダンジョンの中だ」
「ダンジョン……? とにかく、そこでなにをしていたのですか」
「そこの女の命令で、グリフォンに腕を食われそうになった」
「は?」
「それからそこの小さな子供がドラゴンに変身して、私の頭を食おうとした」
「……なぜ、そんなことに?」
「私が彼らの命を狙ったから、その報復のようだ」
「……つまり、自分たちの命を狙われたからその仕返しに市長を誘拐し、ダンジョンで拷問したと、そういうことか?」
「そうよ」
エリーが堂々と答える。ちょっと自慢そうですらある。
ガドーさんがガックリとうなだれた。
「イクス、お前がついていながらどうしてこうなった……」
「まあ、その場の流れというか、止むに止まれぬ事情があったというか、それが一番最善な気がしたとか……」
「……お前だけはまともだと信じていたのだが……ついにエリーの毒牙にかかったのか……」
そんなことはないと思う。
だよな。
……あれ、否定しきれない気がしてきたか?
「なんでもいいじゃない。こうしてアタシたちが来たから全部解決でしょ」
「……そうだな。とりあえず事情を聞かせてもらおうか。もちろん最初から全部だ」
ガドーさんの鋭い視線が俺を射貫く。
嘘は絶対に許さないという雰囲気だ。
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