でき損ないの僕ら

radio

文字の大きさ
上 下
5 / 6

その後……(糞親父編)

しおりを挟む
「おら! さっさと運べや!」

「グハッ!」

 今、俺はよく分からない悪臭がする袋を運ばされている。少し休憩をしようとしただけで腹を殴られる。そんな劣悪な環境にいる。

(糞っ、何で俺がこんな目に……)

  忌々しい妻と離婚し、やっと早苗と結婚できると思ったのに……早苗はなんと既婚者だった。
 今回の離婚にあたり、彼女にも慰謝料請求の連絡が来たそうだ。しかも、自宅に……
 それによって、早苗の夫に浮気がバレた。しかもその夫というのが……の人間だった。……それを知ったのは男が俺の部屋に押し掛けてきたときだ。


  もともと住んでいた家は、元妻の持ち物であるため、俺が家を出た。そして、独り暮らしを始め、いずれ早苗と新しい住みかに移ろうと新しい生活に夢を見ていた………が、そんな夢は夢で終わった。


 家のインターホンがなり、早苗だと思って出た先には大柄の男達。そいつらは出てきた俺の腹に拳をぶつける。そして、そのままそいつらは俺の家の中に入ってきた。

 腹の痛みと、いきなり殴られたことで咳き込む俺を引きずるようにして部屋に進む。そして、ソファーにはおそらくその中の偉いやつだと思われる男がぼこぼこの女と一緒に座っていた。その時、始めて女に声をかけられた。

「ダーリン!!」
「その声、まさか早苗か!!」


なんと、目の前にいる顔をぼこぼこに腫らした女は早苗だった。

「早苗、この人達は?」

「………」

早苗は黙りこんだ。そんな中、隣に座っていた男が話し始めた。

「初めまして、ダーリンさん。あ、名前は言わなくて結構。聞きたくもない。私は早苗の旦那です」
「は?」

この時、初めて早苗が既婚者であることを知った。そして、自分の目の前の者達をみてどう見ても堅気の人間ではないことに冷や汗をかき、どうにかして許してもらうために謝罪し始めた。

「も、申し訳ございません!! 私は早苗が結婚していることは知らなかったんです!! 本当に申し訳ございません!」

土下座しながら謝罪する。頭を床にすり付けながら、自分は早苗が既婚者であることを知らなかったことを説明した。そんな俺に

「もう結構ですよ」

優しい声をかける早苗の旦那に、ほっとしながら顔をあげる。しかし、その顔を見て許されているわけではないのだと知った。その顔は声とは裏腹に、真顔で優しさなど1つもなかった。

「ダーリンさん。あなたがどんなに謝罪しようとも事はすでに起きています。それに、あなたが先程まで言おうとしていたのは謝罪ではなく言い訳です。それで許されるはずがないでしょう?」

俺はこのとき、先程の行動はすべて失敗だったのだと悟った。すぐさに謝罪しようとしたが、俺の横にいた男が俺の腹を蹴る。

「カハッ」

先程殴られた時よりも息ができなくなる。

「ダーリン!」
早苗が俺を心配する声をあげると、バシンッと何かを打つ音が聞こえた。何とか息も整い、そちらに顔を向けると、早苗が旦那に打たれていた。
髪を掴まれ、何度も頬を打たれ、早苗が何とかごめんなさいと言うと男は打つのをやめ、髪を離した。

旦那ははぁと溜め息を吐くと、煙草を取り出し、部下だと思われる男が火をつけた。

男は煙をふかしながら

「あなたには責任をとって貰います。私の顔に泥を塗ってはいそうですかで、済ますはずがないでしょう?」

そういうと、男の部下が紙とペンを差し出してきた。


「誓約書です。そこにサインしてください」
そう言われ、差し出された誓約書の内容を確認すると

「な、なんだこれは!」

思わず叫んでしまう内容だった。簡潔に言えば、多額の慰謝料、そしてある場所で3年労働することが書かれていた。

「こ、こんなの違法だ!」
そう言ったところでまた腹を蹴られる。

「ごちゃごちゃうるせぇよ」

「おい、あんま手出すなよ」
「あ、すいません兄貴」

そう言うと旦那はにこりとしながら

「ダーリンさん。これは誠意の証明なんですよ」
「だ、だがこの内容は」

さらにいい募ろうとした俺に男は先程までの優しい声が消え、低い声で

「何度も言いますが、誠意なんですよ。誠意がないのであればそれも結構。あなたは明日には海の底です」

そう言われたところで、もう俺に選択肢などないのだと悟った。そして、震える手でサインすると、そのまま車に乗せられ、劣悪な労働環境に連れていかれた。3年頑張れば早苗と会える。それだけを頼りに働いていたが、思ったよりも労働環境は悪く、早苗を連れて逃げようと考えた。そして、何とか隙を見て逃げ出した。路地裏で息を整えていると、見知った顔が見えた。

あれは……秀一か! 

秀一は忌々しい元妻に瓜二つであり、それが俺を腹立たせた。そして、子供の頃の俺よりも優秀なことにさらに苛立った。だから、暴力を振るいお前は俺より下だと躾た。忌々しいやつではあるが、背に腹は変えられない。


「お、おい!秀一!」


「ん?」
「どうした、秀一?」
「いや……誰かに呼ばれた気がしたんだけど」
「……気のせいだろ」
 
秀一は隣の男と何か話していたが、その男がキョロキョロとした後、秀一の肩を抱くとそのまま行ってしまった。

秀一の隣にいた男は顔だけ俺に向けると、ニヤッと笑いながら口パクで『バーカ』と言うとまた前を向き行ってしまった。

誰なんだ、あいつは……それに俺にバカだと!


カッとなり怒りに任せそのままあいつらの元に駆けつけようとしたが……それは後ろから背中を蹴られたことでできなかった。


「ちっ!逃げんじゃねぇよ! 手間取らせやがって」

肩で息をしている男はそう言うと俺を殴りつける。そんな男を止めたのは、路地前にいつの間にか停められた車から出てきた上等なスーツを着た男だった。

「おい! あんま傷つけんな。商品なんだからな」
「すいません、兄貴」
「良かったなーおっさん。今さっき買い手がついたんだわ」

「買い手?」
「そそ。買い手つかなかったらバラす予定だったんだけど、何と物好きがいたことでそれは回避できたわけだ。おめでとう。んじゃ、ご主人様の所行こっか?」

「え、は?」

俺は今聞いたことに理解が追い付かず、言葉にならないことばかり口から漏れる。そんな俺に男は呆れたように

「だからご主人様、おめぇの。おめぇは買われたからもう人権なんてねぇんだよ。精々、ご主人様に媚売って生きることだな。あんたの買い手の噂最悪だから、愛想尽かされたら死ぬよりむごい目に遭うんじゃね? まっ、これも自業自得。よりによって兄貴の女に手を出すなんてバカしたからだぜ? それに、あんた浮気だったんだろ? 兄貴の女、いや元か? そいつあんたが独身だと思ってたみたいだぜ? いやー、あんたもよくやるねー」

「……」

「ちなみに、その女はもうこの国にいないから宛にすんなよ。さっ、んじゃあ行こっか?」

こいつはさっきなんて言った。

買い手? バラす? ご主人様? 早苗はもうこの国にいない?
質問したいことだらけだが、未だに理解が及ばない。

「何を…」
「はぁ~、あのさそろそろ理解しろよ。おっさんは顔そこそこで年もまあ許容範囲。だから売れたの。よく聞くだろ?借金背負った奴が消えること。この国でも何万って人間が一年間に消えてんの。だから誰もおめぇを心配なんてしないし」


だからお前はいなくなんの

そう言った男は冷ややかに笑っていた。その目は笑っておらず、ただただ冷たい。




~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~

まだ罰は続けます
しおりを挟む

処理中です...