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ももな

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影が消えない

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私がその異変に気づいたのは、引っ越してきて3日目の朝だった。  

築20年のマンション。日当たりのいい部屋で、周囲も静か。環境は申し分ないはずだった。だが、その日、私はリビングの窓際で妙なことに気がついた。  

床に影があった。私の影とは別に、もう一つの影。  

何かが窓の外に立っているのかと思い、恐る恐るカーテンを開けたが、そこには誰もいない。それなのに、床には確かに人の影が落ちていた。それはまるで私を見つめているように立ち尽くしていた。  

気味が悪かったが、窓を閉め直し、気にしないようにした。しかし、それからというもの、その影は毎日現れるようになった。朝でも昼でも、リビングの同じ場所に。  

私の影と重なっているようで、そうではない。動いている私とは無関係に、その影はじっとそこに立っているのだ。  

何かがおかしい――そう思った私は、影をスマートフォンで撮影してみた。画面には、床に映るはずの影が映っていなかった。  

その瞬間、背筋が冷たくなった。肉眼では見えるのに、カメラには映らない。何か説明のつかないものを見ているという実感が、私を急速に追い詰めていった。  

その夜、私はいつものようにリビングでテレビを見ていた。昼間の影のことを無理に忘れようとしていたが、窓際がどうしても気になる。視線を向けた瞬間、私は言葉を失った。  

影が動いていた。  

じっと立ち尽くしていたはずの影が、ゆっくりと部屋の中央に向かって進んでいる。まるで、何かが歩いているように。それは私の方へ近づいてきた。  

私は息を呑み、椅子から立ち上がった。すると、影も立ち止まった。  

「……誰?」  

震える声で問いかけても、当然ながら返事はない。ただ、影がそこにあるだけだった。しかし、それが私を見つめている――そんな感覚だけが、頭の中を支配していた。  

私は電気を消して寝室に逃げ込んだ。布団を頭まで被り、震えながら朝を待った。  

次の日、リビングには影がいなかった。安堵の息をついたものの、私はその部屋がどうしても不気味でならず、早々に引っ越すことを決めた。  

新しい部屋に移り、落ち着きを取り戻したある日のこと。何気なく床を見て、凍りついた。  

そこに、あの影がいた。  

部屋を変えても、距離を置いても――あの影は、私を追いかけてきたのだ。  

それ以来、影はどこにでも現れるようになった。職場の廊下、自分の車の助手席、バス停のアスファルト。視界の端にちらつくたびに、私は振り返る。しかし、何もいない。  

ただ、影だけがそこにある。  

最近では、影が私に近づいている気がする。寝室の壁、鏡の裏、そして私の真後ろ。気配が重くなってきているのが分かる。  

私はもう逃げられない。影はいつか、私を呑み込むだろう。  

そしてその時、私自身が影になるのかもしれない。  
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