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瞬、小学生の自分に入る。現実2(タイムリープした過去)

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 瞬の意識が戻る。阿小野山あおのやま の麓にいる。
 22歳の瞬の見ている景色は、自分の小学生の仲間たちの姿である。瞬は、田舎の草むらにいる。周りには、ランドセルを背負った男子小学生が3人いる。女子小学生が一人いて、赤いランドセルが地面に落ち、中身が散らばっている。
 中身が22歳の瞬(外見は小学5年生の自分)は、焦って考えている。
瞬(22歳) ……。アレ? 俺、どうしてここに__? けど逃げなきゃ。__一体どこに。何から逃げる??

 小学生の瞬(中身22歳の瞬も入っている) が、ぼんやりしていると、ヤンチャな男子1が赤いランドセルを踏みつけた。赤いランドセルの背に少年の靴跡がくっきりと付く。少年1が行くぞ、と言いあとの男子が山を下りていく。瞬も最後にそれを追いかけた。

 22歳の瞬が、本体の小学5年生の瞬に心のなかで話し掛ける。
瞬(22歳) 引き返せ!!
瞬(小5)え。なんで?
(22歳 )引き返さねえと、幼稚園んとき、おねしょしたこと大声でバラすぞ
(小5)え?? ヤめてよ!!

 小学生の瞬が、前を行く男子に告げる。
「ごめん! 俺、小銭落としたかも。探してくるから、先行ってて」
男子3「おう! いつもの公園行くから」
瞬「わかった」瞬は一人でもとの場所に戻る。

 女の子が、ボンヤリと立っていて、赤いランドセルは中身が散らばったままの状態である。22歳の瞬が、小5の自分に心の中で話し掛ける。
瞬(22) お前、拾ってやれ。
瞬(小5)「えーー。アイツらにバレたら」
瞬(22) 口止めしときゃいいだろ
小5の瞬が、ブーブー言う。
瞬(22) ブーブー言うな!!

 小5の瞬が、ランドセルの足跡をタオルで拭いて消す。そして散らばった教科書、ノート、筆箱などをランドセルに入れた。女の子は、無表情にそれを眺めた。小学生の瞬は、いきなり心のなかで話しかけてきた瞬のことを、なにコレ? と思いながらも誰にも言えないと思っている。小説とかマンガとかだとご先祖様とか、自分のなかの良心とか、はたまた二重人格的な何か?? __とにかく、他人に知らせても良いことなんてないだろう。頭がおかしいとか、嘘つきだとか思われるだけだ。

小学生の瞬は、無表情の女子をチラと見て、自分の中のもう一人の瞬に呟く。
瞬(小5)「ホラ。拾ってやったのに感じ悪イ」
瞬(22) アホか。お前が言うな! 家まで送ってやれよ。なんか心配だ
「えーー。面倒くさい」
アホ!! 女の子イジめてたこと、お母さんに言いつけんぞ!!
「分かったよ」瞬は、ランドセルを背負った女子をみてため息をつく。
「ハアー。お前、家どこ。送ってってやるよ」
女子「__イラナイ」
「あっそう。ま、そんなとこアイツらに見られたらヤバいからな。__じゃ一人で帰れる?」女子が頷く。
瞬(小5)「じゃ、気をつけて帰れよ。アイツらに見つかんねえようにな」
女子「__クズ!!」女子小学生が山を下りていく。
瞬(小5)は、一人呟く。
「……否定はしないけど」小学生の瞬の中にいる22歳の瞬が心の中で話し掛ける。

瞬(22歳) 二度とやんなよ。黒歴史だ。
瞬(小5)「俺、アイツになんの感情もねぇ。恨みもナイ。__けど、いつきとカッチンが、(あの女の子のことが) 気に入らない、あの目がムカつくとか言ってさ。__俺だって、こんなことやりたくもないけど。言うこと聞かねえと、アイツら、こっちにケンカ吹っかけてきて、とばっちり。__ムカつくんなら、放っときゃいーのにさ」
さっきの子の名前何?
「ん? 井槻 まりも」
ちょっとノートと鉛筆かしてと言われて、小5の瞬がランドセルからノートと筆箱を出す。22歳の瞬が、ノートに樹、カッチン、いつきまりもと書く。
小5「何してんの?」
22歳 ん。ちょっと。
 ノートの文字を見て、22歳の瞬が思い出す。__助けて、イツキ……なんだろう。何か大切なことだったような__ 小5の瞬にわからないように小さくその言葉をメモる。

22歳の瞬がノートを閉じてランドセルに入れる。そして小5の瞬に言う。
樹、まりものこと、好きなんだろ。
小5「まさかー。大嫌いって、いつも言ってんよ」
好きなのに、自分のモノになんないから、キライなんだよ。__まだ、お前にはワかんないか。
「ハ~~ン。なるほど」
てか、お前、ホントは樹から離れたいんじゃねぇの。
「どうして、それ!?」
 22歳の瞬は、少し黙ってから考えながら小5の瞬に話す。
 俺は、どうもお前みたいだ__
「は?」
うーんと。俺はたぶん瞬だ、と思う。いま、なんかカチッて思い出した。
「記憶喪失……ってやつ?」
それだ!! __思い出せない。何も。どうしてここにいるかも。
「えーー。ったく面倒くせーな」
__誰も頼れる人いなくて。泣きそう……
と、小学生の瞬が、ポロリと涙を落とす。
「うえーー。ヘンな人、いつまでいる気?」
 ヘンな人、言うな!! 未来のお前だよ!!
 
 小5の瞬が、公園に向かう。22歳の瞬は一人で考える。
 自分は、以前にもノートに何かを書いていた。誰かを調べていた? 誰を。
 中学一年になる春休みに、アパートが焼けて母親が亡くなった。それから、別れていた父親に引き取られ、転校した。アパートの火事の原因は、結局不明だった。隣の崩れかけの空き家からの貰い火で、おそらくは放火だと、噂された。高校を卒業して、調べるうちに焼けたアパート近くの女の人と話していたときに聞いた話をぼんやりと思い出す。
 ただの噂だけどね、少年がしたのではないか__と。

 少年__。それを聞いたとき、俺は誰を思い浮かべたんだろう。自分は、そんなにも誰かに悪感情を持たれていたのだろうか。そんなに酷いことをしたのだろうか。アパートが燃やされ、母親の命まで__

 さっきの男子の誰かなんだろうか。母親を助ける為に俺は今、過去に戻っているんだろうか。__このタイムリープにイミがあるのだろうか。

 僕はもう、死んだというのに

小学5年生
男子1 海辺 いつき ヤンチャ
男子3 カッチン 樹とつるんで、女子の悪口をはやし立てる
女子  井槻 まりも つっかかってくる男子とは、口も利きたくない、と思っている。父親が、厳しくクラスでも小さくなっている。無表情。

 ©️石川 直生 2023.


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