炎と消える_僕を消したアイツ 戻レナイ

石川 直生

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現実1 いのりと樹

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 いのりは、毎日少しずつ段ボールに荷物を詰め始める。小説や台本。本当は捨てていけばいいのだろうが、考えて仕分けをする時間がない。それから、季節の違う洋服。それから__いのりの携帯が鳴る。サイフ忘れちゃったと瞬からだった。いのりの最寄り駅の改札にいるから、二千円貸して、と。面倒だな、と思ったが、行かないと気になりそうだ。仕方ない、惚れた弱みだと思って着替える。
 改札で瞬に封筒を渡す。瞬は、ごめんというと仕事に行ってしまった。急いでメイクとスカートにしたのにな、とぼんやりと瞬を見送った。瞬は、若い小柄な女の子と歩いてゆく。仕事って言ってたのに。大体、その子に借りればいいのに__もういい。どうせもう何も言わずに消えるんだから。最後だから、キミの目に少しでもキレイに映りたかった。空は暗く、帰宅に向かう人波。ピューと口笛の音がして、そちらを振り返る。いのりの視線の先には、ちょっと悪そうな雰囲気を纏った若い男がいた。ルックスはカッコイイが、いのりは、不良とかホスト系の男が大の苦手だ。(お人好しのせいか、小学生の頃からヘンな人に執着されがち) ニコと微笑んで若い男から遠ざかろうとする。樹は、愛想良く近付いてくる。
海辺 樹「オね~さん。俺とも遊んでよ~♡」
いのりは、無視する。
「無視しないでよ。ヒドイじゃ~ん。ねえ。さっきのイケメンとおねーさんってどうゆう関係? おねーさん、年いくつ? 見たとこ__25? 当たったっしょ」
25と言われて、ちょっと悪い気のしないいのり(←チョロい)
いのり「ごめんゴメン。ナンパかと思ってさ。キミは、見たとこ若そうだけど仕事何してんの? 警察にご厄介になったことある?」樹が、いのりと距離を取る。
「え。何いきなり。心外だなー。あるワケないでしょ」
「いやー。職質とかされない?」
樹が、ため息を吐く。そして、舌打ちをする。
「チッ。なんなんだよ、オバハン! $ねや!」
「うわー。本性現した」
樹「瞬の何? アンタ」
いのり「何でもナイ。__つか、人に個人情報聞くんなら、まずは自分から自己開示って教わんなかった? イケメンくん」

「俺はねー、瞬の彼氏♡」
「フーン」瞬の携帯の写真には、いなかったような気がする。河本くんて、こんなに(男の)趣味悪かったっけ。イヤ。携帯の写真に一緒に写っていた子は、もっと普通ぽくて、ニコニコとしていた。
 こんなヤな感じのピリピリした男じゃない。

 いのりは、樹の言葉にショックを受ける。(←演技をする)
樹「ビックリした?」
「……別に。そっか。それで、瞬くんのこと、つけてたんだ。女と会ってたみたいだけど、いいの?」
「んー。後でシメねえとな。ま、あの女は俺のお下がりだから、別にいーの♡ 逆にさ、そーゆうのってドキドキしない?」いのりの腰に手を回す樹。

樹「そーゆうことでさ。キレイなオネーサンにイロイロ教わりたいなー♡ あっちも浮気してんだし、俺もいいことしたいなーって。こんな若い男に言い寄られることなんてナイっしょ。早くどっか行こうぜ。あ。お金は払ってね♡」
「ね。瞬くんと何回くらいホテルに行った?」
「え。さァ? どーでもいいじゃん。そんなの」
「じゃあさー、キミ、受け攻めどっち?」
 樹は、いのりの話には上の空で携帯で近くのホテルを検索している。
「え。んーと、何? よく聞こえなかった」
いのり ったく。初期設定くらい考えとけよ!
いのりは、駅前の交番へと向かう。交番のドアに手を掛ける。それを見た樹が慌てる。
「ちょ。もうイイ! 俺、用事思い出した!」
 いのりがドアを開ける。
「ババア!! フザケんなよ!!」樹が、走ってどこかへ去った。(というか逃げた)
 いのりは、樹がいなくなったのを見計らって交番から出る。

©️石川 直生 2023.
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