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第二篇 魔界山怪の章
第27話 最終進化
しおりを挟むレーヴァンタインさんの構えたHELLCAT RDPの銃口がマジシャンに向けられました。
「さすがマジシャンですわね。食べたふり、飲んだふりでこっそり吐き出していたというわけですか」
「ぼくはあなたがロビンくんを篭絡して、処方箋の倍以上の睡眠薬を手に入れていたことをつかみました。とても一人では服用できない量です。なにに使うのか、ぼくがにらんだ通りでした」
わたしは文字通り一歩踏み込んで訊きました。
「みなを殺すためですか? カロニャックさんのように」
「違います。わたしはわたしの作品に対する生の評価を聞きたかった。それがどんな酷評でも受け入れるつもりでした。
ですが、小説そのものを侮辱する言動は許せません。
カロニャックさんのいう『たかが小説』に命を懸けているものもいるのです」
「あの睡眠薬には逆行性があります。読書会そのものを忘れてもらうために服ませたのですね」
マジシャンがすべてお見通しとばかり補足します。
「そうです。眠っているあのひとたちは、カロニャックさんがなんで死んだのかも覚えてないでしょう」
わたしはさらにもう一歩、レーヴァンタインさんに向かって歩を進めます。
「教えてください。404便を爆破したのはあなたですね。自分の作品を守るために、ご主人だけじゃない、関係のないひとまで巻き添えにした」
「あの旅客機の墜落で夫と作品の名誉は守られました。『アズネルグーフの夜』は夫の遺作となり、歴史に残る名作となって完結したのです」
「狂ってる! あなたは狂ってるわ!!」
わたしはレーヴァンタインさんに向かって指を突きつけました。
「狂ってるのはあなたも同じでしょう。いいえ、あなただけじゃない。ひとは、人間はみな、狂った存在なのです」
そういうと、レーヴァンタインさんは握っていた拳銃をわたしに向かって放り投げました。わたしは慌ててそれをキャッチします。
「わたしにはもう、それは必要なくなりました。
……どうやら、刻がきたようです」
レーヴァンタインさんはわたしに背を向け、赤い満月を振り仰ぎます。
「ああっ!!」
わたしは思わず声をあげました。
レーヴァンタインさんの背中から白い翼が生えています。輝く天使の羽のようです。
「『美人病』の最終進化だよ」
マジシャンがわたしの傍らにきてつぶやきます。
赤い満月から黒いなにかが降りてきます。
「あれは……?」
マジシャンがかすれたような声でいいました。
「いにしえの神々だ」
第28話につづく
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