発狂小説 去年ニコタマバードで ４Kマジカルクラスター版

第二篇 魔界山怪の章

第29話 告白

「あなたが混乱してはいけないと思い、ぼくは道化を演じることに決めました」
　マジシャンことトギ・タツルさんは悪びれることもなくいいました。
　混乱なら出会った当初からしています。いきなり婚約者を名乗って現れたかと思えば、次は別時空の同一存在としてわたしを助けにきてくれました。”おにいさま”の友人のようですが、わたしにとって目の前の人物は謎そのものなのです。
　わたしは素直に疑問をぶつけました。
「あなたはわたしを地底世界から助けだしてくれたトギさんなのですか？　それともまた、別の時空からきた新たなトギさんなのか、わたしにはわかりません」
「わからない謎の存在……だからこそ、ぼくはマジシャンなのです」
「けむに巻くのはもうおやめになってください！」
　わたしは思わず声を荒げてしまいました。
「もう、禅問答のような説明はけっこうです。はっきりおっしゃって！！」
　怒りをぶつけられ、トギさんの表情がわずかに変化しました。
「……では、はっきり申し上げましょう。ぼくはあなたを付け回すストーカーなのです」
　やはり、そうでしたか。わたくしの美に目がくらみ、執着をこじらせた愚か者が時空をまたいで何度もわたくしにアプローチしてきていたのです。
「では、”おにいさま”とはなんの関係もないのですね」
　そのときです、トギさんが声をあげて嗤いだしました。
「あなたがここでいくらシグマさまを待とうとも無駄です」
　嫌な予感がわたしの胸を刺します。
　トギさんは勝ち誇ったかのようにいいました。
「シグマさまはぼくが殺したのですから」

　　　　第30話につづく