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第二篇 魔界山怪の章
第30話 同族
しおりを挟む「いま、なんとおっしゃったのですか?」
耳を疑うとはこのことです。トギさんに向かってわたしは問いを重ねました。
「”おにいさま”を殺した? どうして? 信じられません!」
「あなたが信じようと信じまいと、それが真実。ぼくの愛を成就させるには、それしか方法がなかった」
いうが早いか、トギさんはわたしに手を伸ばしてきました。
不穏なものを感じたわたしは、持っていたプラダのハンドバックから番犬ブルドッグを取り出します。
しかし、トギさんはそれを素早くたたき落とすと、わたしの顎をくいとつかみます。
「あなたはぼくと同じだ。レーヴァンタインさんもいったように、真実よりも嘘と幻を愛している。ぼくとあなたは同族なのです。ぼくはあなたとしかわかりあえない」
トギさんの唇が迫ってきました。強引にわたしにキスをしようとしてきます。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
トギさんの唇がゆっくりと離れていきます。
「……忘れていました。あなたにはもう一匹守護者がいることに」
わたしの手にはレーヴァンタインさんからいただいたHELLCAT RDPが握られています。
番犬はトギさんによって谷底に落とされてしまいましたが、この黒猫だけは手のひらに吸い付くようにして、わたしを守ってくれています。
トギさんはわたしから数歩の距離をとると、
「今日はやめておきます。でも、ぼくはあきらめない。必ずあなたを手に入れてみせます」
そういって身をひるがえし去っていきました。
ケーレ、ヴァガ!
ケーレ、ヴァガ!
クヒッ、ケヒッ。
ケヒッ、クヒッ。
ハーヨケーレ、ヴァガ!!
上空でニコタマ鳥が鳴いています。
このわたしに療養所に早く帰れといっているようです。
胸騒ぎを感じ、わたしは急いで療養所にもどりました。
療養所の建物内にはいると、ヨアンナがわたしをみつけて駆け寄ってきました。
「どこへいってたのマリン!? あたし、ずいぶん探したんだから!」
ヨアンナの顔が青ざめています。なにがあったのでしょうか?
「とにかくきて! 薄気味悪いの」
ヨアンナがわたしを2階に引っ張ってゆくと突き当りの部屋に向かいます。中央棟から西棟に折れる際の角部屋です。
部屋の表には人だかりができていて、薬剤師のロビンさん、医師長のホーベン先生の姿もみえます。
「ここは……レーヴァンタインさんのお部屋では?」
「レーヴァンタインさん? だれそれ?」
ヨアンナが小首をかしげます。他のひとたちも同様のリアクションです。
なんと入居者全員の記憶にレーヴァンタインさんの存在自体が欠落しているとは?!
カタカタカタ……。
カタタカタカタカタ……。
部屋の扉をとおしてタイプライターの音が聞こえてきます。
「どうなってんだ? ここはだれも住んでいない無人の部屋じゃないか」
寝間着姿のデレブイアさんもやってきて太鼓腹をしきりに揺すっています。
「なああんた、ちょっと中にはいって確かめちゃくれないか?」
どこから持ってきたのでしょう、デレブイアさんがわたしの手に鍵束を握らせました。
わたしはレーヴァンタインさんの部屋番号が記された鍵をつかむと鍵穴に挿し入れます。
ガチャリ。
部屋の扉が開きます。
無人の部屋の中央にはタイプライターが鎮座していました。
なにか懐かしい感じがします。
わたしはタイプライターが置いてある机にゆき、椅子を引いて座ります。
そのとたん——
景色が変わりました。
以前の見慣れた部屋の様子にわたしは引きもどされてゆきました。
転章につづく
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