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第3話 向こう岸にたつもの、それは……
しおりを挟む「おひと違いです。わたくしはあなたとは会ったこともございませんし、ましてや婚約など。
これ以上、無体な戯言をおつづけになられるようでしたら、わたくしにも考えがございます」
わたしは再びプラダのバッグからブルドッグを取り出した。
「おっと、危ない。いいからその物騒な番犬をしまってください。
いいですか、よおく思い出して。あなたとぼくは去年、このニコタマバードの下で将来を誓いあった。そのときはあなただけじゃない。シグマさまも傍らにいらして、ぼくたちの婚約を祝福してくれたでしょう」
”おにいさま”もいらしたの? そんな、全然覚えていない。
「あなたはぼくのプロポーズを受け入れ、一年後の今日、式をあげると約束してくれたはずです」
「いいえ、ウソです。
あなたはわたくしの美しさに眼がくらみ、あることないことでっちあげて、わたしを我が物にしようと邪悪な企みを巡らせているのです」
これ以上、この青年紳士の口舌に騙されてはいけない。
わたしはブルドッグの銃口を青年紳士に向け、撃鉄を起こしました。
「では、ついてきてください」
銃口を向けられているにもかかわらず、青年紳士は踵を返し、河原に向かって長い石段を下っていきます。
目の前を多摩川が流れています。
渋々、あとをついてきたわたしに青年紳士は川向こうを指さしました。
「あれをごらんなさい。ぼくがあなたのためにしたことを……」
「ッ!!」
ああっ、なんということでしょう。
向こう岸にみえる黒々とした林は墓標ではありませんか?!
無数の墓標や墓石、卒塔婆などが林立しています。
「あなたがそのベレッタPX4サブコンパクトで撃ち殺したひとのお墓です。
あなたは今日も二人、そのベレッタで殺しましたね。その遺骸はだれが始末していたとお思いですか?
ぼくや、ぼくの手のものがこうやって秘密裡に処理していたのですよ」
ああ、そうでありましたか。
昭和の某トクサツ番組のように、お死になった方々は溶けて消え去るものだと思っておりました。
青年紳士はあきれたような苦笑を浮かべながらつづけます。
「でも、仕方ありません。あなたはあまりにも美しい。美しすぎる。
シグマさまも心配しておりました。だから、あなたにその銃をお与えになったのでしょう」
「そうです。わたくしは”おにいさま”からこの銃……ブルドッグを戴きました。でも、銃なんて触ったこともありませんでしたから、最初は扱いに苦労いたしました」
「……よかったら、そのときのことをお話しくださいませんか?
そのうち、ぼくのことも思い出してくれるかもしれません」
わたしはひとつうなずくと、あのときのことを語りはじめました。
第4話につづく
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