発狂小説 去年ニコタマバードで 4Kマジカルクラスター版

自由言論社

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第4話 甘く危険なおもひで

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 それはある日のこと。
 わたしは”おにいさま”に連れられて、とある雑居ビルの地下フロアに案内されました。
 そこは照明を絞った秘密の実弾射撃場になっていて、わたしと”おにいさま”の他にはだれもいません。
 わたしはそこで”おにいさま”からブルドッグを手渡されました。
”おにいさま”は、おっしゃいます。

 ぼくの可愛い妹・麻鈴まりん
 その銃をよくごらん。
 なんともブサカワなデザインじゃないか。
 それはベレッタPX4サブコンパクトといって女性でも扱える銃だ。愛称はブルドッグ。
 今日から、そのブルドッグがきみの番犬だ。

 さあ、ブルドッグを構えて。
 右手はハイグリップ。
 左手でしっかりホールドするんだ。
 照星の凸型と照門の凹型を合わせて的を狙う。
 いいぞ。
 いい構えだ。さまになってる。
 さあ、撃ってみなさい。

 わたしはブルドッグを撃ちました。
 でも、銃声と反動に驚いてしまい、人型ペーパーターゲットのバイタルゾーンに当たりません。
”おにいさま”がわたくしの背後に立ちました。
 後ろからわたしを抱きしめるように、わたしの脇をしめ肘を固定します。

 動かないで麻鈴。
”おにいさま”が耳元でつぶやきました。
 ああ、なんということでしょう。
”おにいさま”の細い指がわたしの襟元から深く侵入してきます。
 わたしは思わず目をつむりました。
 目を開いて。しっかり的をみつめて。
 𠮟りつけるような口調です。
”おにいさま”の手が、指が、わたしの胸をまさぐり、乳首を撫でます。
 まるで羽毛で撫でられているかのようなソフトタッチ。
 わたしは、はしたなくも吐息を漏らしました。

 いまだ、撃て!!

 タン。
 タタン。
 タン。
 タン、タン、タタン。
 タン。

 ブルドッグから発射された弾は人型ペーパーターゲットの胸や頭に命中しました。

 その呼吸だ。
 その呼吸を忘れちゃいけないよ、麻鈴。
 ぼくはこれからおおきな仕事をしなくちゃいけない。
 きみとこうやって過ごしていられるのもあとわずかだ。
 ぼくが仕事に旅立ったあとは、自分の身は自分で守るんだ。
 他人をあてにしてはいけない。
 わかったね。


 ……以上が”おにいさま”と交わした最後の言葉です。
 わたしは正直にこの自称”婚約者”の青年紳士に語りました。
「それはいつのことですか?」
「……ちょうど1年前だったかと思います」
「そのとき、ぼくのことは?」
「……さあ、記憶にありません」
 すると、青年紳士は眉を垂れ、いかにも困ったふうにため息をつきました。
「まあ、いいでしょう。おそらくあなたはシグマさまとの約束を大事にするあまり、記憶からぼくのことを締め出してしまったに違いありません。
 だけど、これだけはいっておきます。
 あのとき、あのニコタマバードの下でぼくはあなたに愛を誓いました。
 なにがあろうとも、ぼくはあなたを幸せにし、お守りすると……」
 いささか興奮気味に語るこの青年紳士にわたしはきっぱりといい渡しました。
「けっこうです。自分の身は自分で守ります。”おにいさま”から戴いたこのブルドッグがあれば、怖いものはございません」

 すると、その青年紳士はさらにおおきなため息をついて、わたしを見据えました。
「あなたはなにもわかってない。いや、わかろうとしないんだ!」
 語気荒くわたくしに指を突きつけ、感情を露わにしてきました。
「なにがわかってないとおっしゃるの!」
 わたしもむきになって言い返しました。
 青年紳士は一瞬、悲しそうな表情を浮かべ、語を継ぎます。
「ご自分がなにに狙われているのか」
「そんなのは決まっています。情欲に目がくらんだ殿方でしょう」
「いいえ。あなたを狙っているのはもっと恐ろしく邪悪なもの……」
「恐ろしく邪悪? そ…それはなんですの?」
 青年紳士はわたしから目をそらし、虚空を見あげます。
「それは……」
「それは……?」
 青年紳士は絞り出すような声でいいました。

「地底人です」


    第5話につづく
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