発狂小説 去年ニコタマバードで 4Kマジカルクラスター版

自由言論社

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第5話 青年紳士、多摩川に没す!

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「バカなことをおっしゃらないでっ!!」

 タン。
 タタン、タン、タン。
 タン、タン。
 タン。
 タタン。
 タン、タン。
 タタン。

 俗な言葉で申せばわたしはキレました。キレ散らかしました。
 いうに事欠いて『地底人』とは。
 冗談にもほどがあります。
 わたしはマガジンが空になるまで9ミリパラベラムをその青年紳士に撃ちこみました。

 青年紳士がまとった純白のスーツに赤い花が咲きます。
 青年紳士は身を九の字に折るといいました。

「それが……それがあなたの『答え』なのですね。でも、これは真実なのです。
 あなたは地底人に狙われているのです……ぐはっ!!」
「やかましゅうございますわっ!!」

 タン。
 タタン。
 タン、タタン。
 タタン、タン、タン。
 タン、タン。
 タタン。

 わたしはマガジンを交換して、それがまた空になるまで撃ち尽くしました。
 純白のスーツを朱に染め、血だらけになった青年紳士が再び口を開きます。
「……いいでしょう。あなたの『答え』をぼくは受け入れます。
 だけど、これだけは覚えておいてください。ぼくがあなたを愛する気持ちは変わらない。
 ぼくはこのまま死にますが、この愛は不変だ。
 すぐまた、別のぼくがあなたの前に現れるでしょう。
 そのときは……どうか、どうか、受け入れてやってください」

 そういうと青年紳士は多摩川の川岸によろよろと歩み寄り、水音をたてて川のなかへ没しました。
 ごぼごぼと泡音をたて水面を真っ赤に染めて、その姿は水流とともに水底へと沈んでいきます。
 わたくしにはなんの感情もありませんでした。
 頭のおかしいひとの戯言に付き合う義理はありません。

 わたしは超高層セレブリアンタワーの自宅マンションに帰ることにしました。
 お天気に誘われて散歩にでたものの、トンチキなひとにからまれてさんざんな一日でした。

「あら?」

 最上階フロアの自宅住戸前のドアに石が積まれています。
 だれが積んだのでしょう?
 少なくともわたしではありません。
 こんないたずらをするひとにも心当たりはなく、一瞬、先ほどのトンチキの仕業かと思いましたが、彼は死にました。
 それとも、彼のいう『別のぼく』の仕業でしょうか?
 わからないことは気にしないに限ります。
 わたしはカードキーでドアを開け、部屋に入りました。
 そのとたん——

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 部屋が、マンション全体が激しく揺れました。
 そして……そして……
 ああ、なんということでしょう!!
 天井から石が、石が降ってきます!
 マンションの天井が崩れたのではありません。河原に転がっているような石が、天井から床にとめどなく落ちてくるのです。
 わたしは悲鳴をあげながらキッチンテーブルの下に身を潜めました。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 地響きは鳴りやまりません。
 マンション全体が右に傾いていきます。
 わたしはこのまま、倒壊に巻き込まれてゆくのでしょうか?
 死を意識しだしたころ、ようやく地響きはおさまり、石の雨もやんで平穏が還ってきました。
 わたしはテーブルから這い出て、ひび割れたガラス壁に寄ります。

「ッ!!」

 下界は文字通りの地獄でした。
 建物は倒壊し、ひとびとはその下敷きとなっているようです。
 火の海が広がっています。
 爆発は間断なくつづき、辺り一帯を炎の舌が舐め尽くしている光景がみてとれました。
 わたしは部屋のなかをあらためて見渡します。
 床に転がった無数の石はなんなのでしょう?
 わたしの脳裏にふと、トンチキ青年紳士がおっしゃった、あの言葉が甦ってきました。

——地底人です。あなたは地底人に狙われているのです。


    第6話につづく
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